表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりを望むのは、罪かしら ~分かっていますか? 貴方が切り捨てたのは婚約者ではなく、ご自身の命です~  作者: 楽歩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/35

19.リアの探索 sideヴィルフリード

「ヴィル、思い出し笑いか? 気持ち悪いぞ」


 失礼な奴だ、と内心で毒づきながらも、私は平然とした顔で答えた。




「いや。馬鹿が墓穴を掘ったことを喜んでいたのさ」


「墓穴?」


 セシルは怪訝そうに首をかしげる。




「ああ、リアの婚約者のクロードだ」


 私は淡々と言った。




「リアを差し置いて、継母が連れてきた娘に夢中になるなんて馬鹿だろう?」


 鼻で小さく笑う。



「リアが王都を出た理由は、それが一番大きいはずだ。まあ、彼を貶める策が無駄になったのは残念だが……おかげで、卒業前にリアを保護できる」


 情報を得るには、リアに直接近づけなくても、問題はなかった。金さえあれば、いくらでも手に入る。



 貶めたのは、クロードたちだけではない。あの二人もだ。例え、王女だろうが、公爵令息だろうが、リアにとって害になる存在には、容赦しない。いずれ、すべて潰してやる。



 セシルが少し目を細める。


「ああ、思い出した。クロードって例の黒い靄の奴か」


 そして、ぼそりと続けた。




「ちなみに、お前も妹にむちゅ……まあ、いいや……」



 後半はよく聞き取れなかった。だが、今はそんなことに構っている場合ではない。私は地図へと視線を落とした。



 リアのアクセサリーに反応があった日。



 そのときの状況を思い出しながら、馬車の移動速度を頭の中で計算する。王都からの距離、途中の街道、宿場町の位置。そして反応があった日、馬車での移動を考えると……。


 指で地図をなぞる。



「そうだな。落ち合う可能性が高いのは、この街だ」


 セシルが私の肩越しに地図を覗き込む。




「随分と自信ありげだな」


「当然だ」


 私は静かに答えた。リアは、必ず見つける。どこにいようと、どんな場所にいようと。


 


「ああ、そういえばこの街はな、串焼きがすごくうまいんだ。リアちゃんが見つかったら一緒に食べようぜ」


 地図を覗き込んでいたセシルが、急に声を上げた。……串焼き?




「……セシル、何を言っている。リアは今、心細さに食事も喉を通っていないかもしれない」


 低く言葉を返す。頭に浮かぶのは、知らない街で一人きりのリアの姿だ。




「リアは繊細なんだぞ! それを……串焼きだと!?」


 思わず声が強くなる。私はセシルを睨みつけた。



「お前は遊びに来たのか! 今すぐ帰れ!」


 怒りのあまり、声が荒くなる。その横で、セバスが静かに口を開いた。



「そうですな。セシル殿下。不謹慎ですぞ」


 いつもの穏やかな声だったが、その目は笑っていない。静かながらも、はっきりとした叱責だった。




「じょ、冗談だ!」


 セシルは慌てて両手を振る。




「いや、食べたいのは本当だけど……いやいや嘘! 嘘だ! 怒るな、怒るなって!」


 言い訳を並べるその様子に、私は小さく息を吐いた。


 ……まったく。この緊張感のなさには、呆れるばかりだ。



 

 リアが見つかったら、そのときは、ちゃんと温かい食事を食べさせてやりたい。


 

 串焼きではなく、もっとまともなものを。



     ◇




 予想を立てた街に到着し、馬車を降りる。私は周囲を一度見回し、すぐに口を開いた。




「セシル、セバス。手分けをして探そう」


 時間を無駄にはできない。




「そうだな。私は南を回る。セシルは――」


 指示を出しかけた、そのときだった。




「あ! 待った待った。よく考えたらさ、俺……リアちゃんの特徴、何も知らねえな。はは」


 セシルが慌てて手を挙げる。




 ……。


 私は一瞬、言葉を失った。本当に、お前は何をしに来た。皇子のくせに、ここまで役に立たないとは。



 額に手を当てたい衝動をどうにか抑える。その横で、セバスが静かに一歩前へ出た。



「……お嬢様の髪は、金に近いハニーブラウン、瞳はコーラルピンクでございます」


 淡々と説明する。




「おお、珍しい色だな」



 セシルが目を丸くし、セバスは頷いた。




「はい、この国ではあまり見かけない色でございますので、見ればすぐに分かるかと」


 その声には、わずかに、苛立ちが滲んでいた。当然だ。セバスにとっても、リアは孫のような存在なのだから。





「ハニーブラウンの髪にコーラルピンクの瞳、だな。いやあ、ますます会うのが楽しみになってきた」


 その言葉に、私は思わず睨みつける。




「……遊びに来たのなら、今すぐ帰れ」


 低く言い放つと、セシルは慌てて手を振った。




「違う違う! ちゃんと探すって!」


 ……まったく。私は小さく息を吐いた。こんな奴は当てにしない。リア、待っていろ。必ず私が見つける。




「ふーん。じゃあ、あそこで串焼きを頬張ってる子と同じ色か? あれがリアちゃんだったりして、はは」


「はぁ?」


 私は呆れてため息をつく。




「リアは令嬢だぞ。串焼きを頬張るわけがないだろう! 馬鹿にしているのか?」


 少し苛立ちを込めて言う。そう言いながらも、私はセシルが指差した方向へ視線を向けた。




 ――その瞬間。


 私の心臓が、一瞬止まった。髪は、金に近いハニーブラウン。瞳は、コーラルピンク。そして 幸せそうな顔で、串焼きを頬張っている。


 ……リア!!




「お嬢様!」


 隣でセバスが声を上げる。ならば、間違いない。いや、そもそも、私がリアを見間違えるはずがない。



 リアはそこにいた。街の喧騒の中で楽しそうに、嬉しそうに串焼きを頬張りながら、笑っていた。安堵が広がる。



 ……よかった。無事だった。それだけで、胸がいっぱいになる。



 だが同時に小さな棘のような感情が、心に引っかかった。私の知らない場所で、私の助けを必要とせず、リアが、自分の時間を楽しんでいる。



 その事実が、ほんの少しだけ――胸を刺した。けれど、そんなことは、どうでもいい。



 何よりも大切なのは、リアが無事で、そして、笑顔でいることだ。




 私は深く息を吸い込んだ。込み上げる喜びを、押さえきれない。私は、急いで彼女のもとへ向かって、走り出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ