16.リアの兄になった日 sideヴィルフリード
「お嬢様を、早く見つけてくださいね」
「人手は足りますか? 何なら私は、この身一つでご一緒に……」
アビーの声は震えていた。ドニもまた、不安を隠せない表情をしている。
二人とも、長い間リアを世話してきた。その心配がどれほど深いものか、痛いほど理解できた。
私は彼らの言葉に答えることなく、ただ静かに頷くだけだった。リアは今、どこにいるのだろうか。見知らぬ場所で、どんな思いでいるのか。
アビーとドニに見送られ、私はリアの探索へと向かう。
リア、待っていてくれ。今すぐ迎えに行く。
ああ。こんなことなら、多少難しくても、位置まで特定できる付与魔法を施しておくべきだった。
自分の愚かさに、思わず歯を食いしばる。リアの居場所を確実に知る術を持っていない自分が、今は憎くてたまらなかった。
◇
隣国の伯爵家の三男として生まれた私は、幼い頃から魔法の才を発揮していた。
魔力の量、魔法の制御、理論理解。そのどれもが年齢不相応だと、大人たちは口をそろえて言った。
将来は魔法省のトップまで行けるのではないか。そんな期待を、周囲から向けられていたらしい。もっとも、私自身はそんなことには興味がなかった。
魔法を学ぶことは好きだった。
いや、正確に言えば、魔法以外のことに、何の興味も示さない子どもだった。
無表情。無関心。無感動。生活のすべてに「無」が付くような人間だった。
誰かに話しかけられても、答えるのが億劫で、ただ小さく頷くだけ。返事を求められれば短く言葉を返すが、それ以上会話を続けようとは思わない。
今思えば、人として欠けているものがあまりにも多い子どもだった。
庭園を歩くときも、花の美しさなど理解できなかった。ただ目的の場所に行くだけだ。
ある日、花壇を踏みつけながら歩いていたら、母が泣いた。
「どうして……そんなことをするの」
そう言われても、理由が分からなかった。道として空いている場所を歩くのと、何が違うのか理解できなかった。
兄たちが話しかけてきても、まともに聞くことはなかった。
会話の途中で本を開き、魔法の理論書を読み始めると、兄たちは怒った。父は怒りはしなかったが、ただ深くため息をついていた。何をもらっても、何を食べても、心が動くことはない。
誕生日の贈り物を受け取っても、特に嬉しいとは思わない。豪華な食事が並んでも、それを「美味しい」と感じることもない。
生きるために必要なものがあればいい。
食事もまた、生きるために口に運ぶだけの作業だ。そこに喜びなどなかった。
喜び、悲しみ、怒り。そういった感情の存在は、知識としては知っている。
本にも書いてあるし、人々の行動を見れば理解できる。だが、それが自分の中にあるのかどうかは、分からなかった。怒っている人を見ると、なぜそこまで声を荒げるのか不思議だったし、泣いている人を見ると、なぜ涙が出るのか理解できなかった。
私の内面には、ただ冷たく無機質な空白が広がっていた。
まるで、何も描かれていない紙のように。
十二歳になった頃。
父に呼ばれ、私は書斎へ向かった。重い扉を開けると、父と母が並んで座っていた。二人とも、どこか困ったような顔をしていた。
そして私は、養子の話を聞かされた。
◇
「ヴィル、実はな。隣国にいる、私の従弟の侯爵がな。お前を養子に迎えたいと言っているのだ」
父の声には、わずかなためらいが混じっていた。
養子?
そんな話は、まったく予想していなかった。
「子供はいないのですか?」
「一人娘がいる。しかし、その娘の婚約者も長男でな。いずれ伯爵家に嫁に出すそうだ。だから侯爵家を継ぐ者がいないらしい」
「……そうですか」
私は特に考えることもなく答えた。
「私は別に構いませんが」
魔法学院に通わせてもらえるなら、それでいい。
それが私の唯一の条件だった。それさえ叶うのなら、環境が変わろうと特に不満はない。私にとっては、どこで生活しようが大した問題ではないのだから。
「そうだよな……お前は、構わないだろうな」
父は苦笑するように言った。
「だが、しかし……」
そこで言葉を濁す。父と母が、ちらりと顔を見合わせた。その視線の意味は、すぐに分かった。
……普通の子どもとは違う。
つまり、そういうことか。それなら最初から、そう言って断ればいいのに。
「お前は優秀だが……まあ、とにかく。一度、侯爵夫妻が会いに来るそうだ。そのつもりでいてくれ」
父は小さく咳払いをした。
「……はぁ」
思わず気の抜けた返事が出る。ああ面倒だ。侯爵夫妻に会うことも養子の話も、そのために時間を使うことも。
すべてが、ひどく煩わしく感じられた。




