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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十八話

 あの戦いで異世界に送り返したはずの、昼想の見た目をしたアグリウスタル人がそこにいた。

 パーティーには相応しくないパーカーとジーパン。いつもの細い縁の眼鏡はしていないが、あの顔は忘れようがない。


「初めまして皆さん。侵略者の異世界人デース」


 陽気に語り始めたヤツを武装した警備員が睨みつけている。

 俺に向かって怒号に近い大声で何人かの関係者が話しかけてくるが、日本語ではないので理解できない。英語も混じっているが簡単な単語しかわからないうえに、早口でまくし立てているので聞き取りは不可能だ。


「お前はヤツを知っているのか。といった感じのことを言っていますよ」


 七節が小声で同時通訳をしてくれている。

 どう返すべきか。いや、そもそも彼らに説明をする余裕なんてあるのか?


「ああ、そうか。この世界は言語が統一されていなかったね、失敬失敬。ごほん」


 言葉が通じていないことを肌で感じ取ったヤツは一度咳払いをして「あーあー」と、わざとらしく喉の調子を整えている。


『これなら原住民のキミたちにも届くだろう。直接脳に飛ばしているからね』


 口を噤んでいるというのに頭に響くヤツの声。


『異能の【念話】という能力だよ。これなら翻訳する手間も省けていいだろ。さて、改めて……初めまして、原住民の諸君。自分は異世界から地球を侵略にやってきたアグリウスタル軍のお偉いさんだよ』


 軽いノリに芝居がかった発言。相変わらずといったところか。

 その内容を理解した人々の半数ぐらいが身構え、全身からオーラを吹き出している。

 残りの半数は戸惑うか、関係者に詰め寄って問いただしているようだ。


「今、立ち向かおうとしている方々は侵略戦争について事前に知らされていた人のようです。残りの人は知らなかったようですね」


 言葉が理解できる七節は聞き耳を立てて、素早く状況を把握しようと懸命に頭を働かせている。

 各国の首脳部と情報は共用しているが、その情報をどれだけ周囲に明かすのかは各国の判断に委ねられていた。


『おやおや、知らない人もいたのかな。では、説明しよう!』


 ヤツは嬉しそうに顔を輝かせている。

 この世界では初対戦の際に、語らせることなく仕掛けた。

 ヤツは理想の悪役を演じることにこだわり、悪役の矜持として秘密や悪巧みを暴露することに使命感……いや、快感を覚えている節がある。

 【念話】を使っているので口を開く必要性はないというのに、嬉々として口を開き大げさな身振り手振りを忘れないのが、その証拠だ。


『我々、アグリウスタル人は異世界侵略を国策とし、数多の異世界を滅びしては資源をすべて奪い去ってきた。そして、今回の名誉あるターゲットに地球が選ばれたわけだ』


 似たような話を前の世界でも聞かされたので、今更驚くことは何もない。

 だが、この場では初耳の人が多いようで、オーバリアクションにも思える動きで驚く人が続出している。


「さすが、外国の人はリアクションが派手やなぁ、って感心してる場合とちゃうわ。どないすんねん、守人」

「きな臭い展開になってきやがったな」


 各国の人々を尻目に、日本代表は俺の周囲に集まり一塊になっている。

 俺、すみれ、望、七節、豪先生、静先生に加え、前回お世話になった【遮断】を使える黒服の女性もいつの間にか側にいた。

 もう二人の日本代表の黒服は、念のために客船の方で待機している。


「ヤツは理想の悪役を演じることにこだわりがあります。こちらから仕掛けない限り、無駄話を続けてくれるはずです」


 少なくとも前回はそうだった。


『さて、そんな自分が何故、このパーティーに現れたのか。それはね、楽しそうだから! あと、最高にインパクトを与えるタイミングを見計らい、首ちょんぱして登場してみました』


 人間を見くびりバカにした態度に、堪忍袋の緒が真っ先に切れたのはアメリカ代表。


「Kill you!」


 翻訳がなくても即座に理解できる言葉を発し、三名の代表者がヤツに飛びかかった。

 止める間もなく接敵するが、足下の影から伸びた黒く鋭利な触手のような【闇】が、三人の体を細切れにする。

 三人分の血が床に追加され、ヤツの周囲の赤黒い血だまりが広がっていく。

 ヤツの異能【闇】は攻防に使える。あれを攻略しない限り、こちらの攻撃が届くことはない。


『まったく、マナーがなっていない。ヒーローの変身中と悪役のお喋り中は攻撃禁止に決まっているだろ。美学というものが理解できないのかね』


 飛び散った血は黒のオーラで弾いたにも関わらず、汚れを払うようにわざとらしく服を叩いて見せている。

 今の攻防で圧倒的な力の差を悟ったのか、次に仕掛けようとする者は現れない。


『実は恥ずかしい話だが、以前、そこにいる日本代表の彼と戦って母国に強制送還されてしまってね。いやー、あれはヤバかった』


 周囲の視線が額に手を当てて語るヤツから俺へと移る。

 目立ちたくはないのだが、今更か。


『実は深淵はまだ安定していないんだ。あと一年は制御が定まらず、おまけに今は基本一方通行しかできない。だというのに彼に深淵へ放り込まれて逆走させられたから……必死でオーラと【闇】をまとってなんとか耐えきってね。でも、想像以上にオーラを消耗して、体も酷いことになっていたから完治するまで療養中だったのさ』


 べらべらとよく喋る。だが、あの後どうなったのか気になっていたので情報提供は正直ありがたい。

 ヤツだからギリギリ耐えられたようだが、普通のアグリウスタル人には体が持たないのか。覚えておこう。


『それで、なんとか復活した自分はあの戦いを思い出して……歓喜に震えた! 今までの戦いで一番楽しかった! だから、彼を他の人に譲りたくなくて再びやってきたんだ!』


 異世界の男に猛烈なアピールをされても嬉しくない。


「安定していない穴をよく無事に戻ってこれたな」


 今まで口を挟まなかったが、あえて疑問を口にする。

 一方通行とはいえ、普通に通れるなら早めに侵略戦争を始めることも可能なはず。


『無事ではないよ、安定していないからね。自分はオーラと【闇】で包めば問題ないが、他の連中はこの世界に無事たどり着ける確率は三割程度かな』


 ということは、あの選抜隊としてやってきた兄弟は三割の確率で生き延びられた幸運な二人だったのか。


『そうそう、送り返されたことで任務失敗の責任を取らされそうになったんだけどさ、自分の邪魔をするのは許せないから、見張りとか上層部の連中を何人か……殺してきたんだよ。キミに会うために!』


 狂気すら感じる血走った目と言動で、とんでもない告白をしたぞ。


「同胞を殺害して、一人逃げてきたのか……」

『ちょっと違うな。同胞を殺して、何も知らない部下たちを騙して、千人ほど巻き込んで帰ってきた』

「部下たちを千人……巻き込む⁉」


 ざわめき立つ一同。

 今の発言には聞き逃すことなんてできない、とんでもない内容が含まれていたぞ。


『そう! 上からの命令だと嘘を吐いて、何も知らない部下千人を引き連れて深淵に飛び込んだのさ。残念ながら、無事たどり着けたのは三百人程度だったけどね』


 悪びれることなく楽しそうに語っている。

 七割が自滅したとはいえ、新たに三百人ものアグリウスタル人がやってきているというのか⁉

 この島に新たな増援が、それも大量に。

 あまりの絶望的な現状に軽い目眩がする。

 だが、動揺して冷静さを失っている時間すら惜しい。平静を装え、戸惑いを相手に悟らせるな。

 テーブルに置いてあった冷たい水を一気飲み干し、緊張で乾ききった口内を潤す。

 その冷たさで少し冷静さを取り戻した頭で考えを巡らせる。目の前のヤツも驚異だが、問題は三百人の兵士が今、何処に居るのかということ。


「そいつらは、どうした」

『兵士たちかい? この島の各地に潜ませているよ。あと、この場にも百人ほど連れてきちゃった』


 ヤツは自分の頭を軽く小突いて舌を出す。

 それが合図だったのか、会場に繋がる扉が激しい音を立てて開かれ、頭に角が生えたアグリウスタル人の兵士が雪崩れ込んできた。

 服装は滅んだ世界で何度も見た、日本の制服と軍服を掛け合わせたようなデザインの格好。異世界人であることを隠そうともしていない。


『さあ、殺戮ショーの始まりだ! まずはこの島を掌握して、一足先に世界征服へ乗り出そうじゃないか!』


 両腕を大きく振るい悦に入るヤツの脇を通り過ぎて、アグリウスタル人の兵士たちが襲いかかってくる。

 そんなヤツらに対し、各国の護衛や代表者が立ち向かっていく。

 瞬く間に会場が戦場と化した。


「この人数はヤバいぞ! なんとか切り抜けて脱出しねえと!」


 豪先生が俺たちの前に立ち、飛びかかってきた兵士の一人を拳で返り討ちにしながら叫ぶ。

 他の代表者や護衛にも対等に渡り合っている者もいるようだが、大半は兵士たちに圧倒され殺されていく。

 いとも容易く人が死んでいく。未来を知る俺にとっては日常の光景でしかないが、他の面々は違う。

 望、七節、静先生、黒服は血の気の失せた顔で完全に腰が引けている。これでは戦う以前の問題だ。

 豪先生はさすがというべきか、一切動揺していないように見えた。


 すみれは……過去の自分と記憶を共有したおかげなのか、苦しげな表情ではあるが動揺は少ない。

 俺たちがいる場所は十階建てのビル最上階の窓際。

 形勢は圧倒的に不利。このままでは地球側が全滅するのは時間の問題。それも、ヤツが戦闘に一切関わっていない状況でだ。

 窓から見える眼下にはホテルから飛び出していく従業員や客の姿が。

 会場だけではなくホテル中で殺戮が始まっているのだろう。


「すみれ!」


 俺は彼女の肩を掴んで強引に振り返らせると、窓の外で逃げ惑う人々を指差す。

 それだけで瞬時に伝わったようで、大きく頷いてくれた。


「みんな、もっと近づいて!」


 すみれの強い言葉に驚いた表情をした望たちだが、大人しく従っている。

 そんな彼らに彼女が手を触れる度に、その姿が消えていく。

 豪先生、静先生、黒服の女性、望、七節の順に。そして、最後は俺に抱きつくすみれ。

 移動する直前に視線をヤツに向ける。

 すると、ヤツは口元を歪めてじっと俺を見返す。俺たちが何をしているのかを、すべて見通しているかのような目で。


『もっと、もっと、自分を楽しませてくれ。我が強敵ライバルよ!』

「お断りだ。お前はただの殺すべき敵だ」


 そう告げると同時に視界が切り替わる。

 凄惨な殺し合いの場だった会場から、屋外の逃げ惑う人々がいる混乱の最中へ。

 そこには【譲渡】で先に飛ばされた仲間たちもいた。


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