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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十七話

 今日は代表者が集まる前夜祭のパーティーがあるとのことで、支給された着慣れない黒のタキシード姿なのだがどうにも窮屈でならない。

 動きやすさを考慮していない服装なので特に肩周りと太股が圧迫され、可動域が制限されてしまう。オーラを放出して全力を出したら容易く破れそうだ。

 豪華客船の自室内に備え付けてある姿見に映る自分をまじまじと見つめるが、似合っていない。

 なんというか、服に着られている感がある。


「準備できたー?」


 部屋のドアがノックされて、すみれの楽しそうに弾む声がした。


「まあ、な。準備はできた」

「じゃあ、入ってもいい?」

「どうぞ」


 すみれに鼻で笑われそうだが仕方ない。

 生まれてこの方、こんな高級な服に袖を通したことがないのだから。


「お邪魔しまーす。うわっ、守人君……カッコイイ! すっごく素敵だよ!」


 すみれは予想に反して目を輝かせて駆け寄り、周囲をぐるぐる回りながら褒め称えてくれる。

 お世辞でも好きな人から褒められて嬉しくないわけがない。


「ありがとう。その、なんだ……すみれも似合っているよ」

「でしょー」


 淡い紫色をしたドレス姿のすみれは花が咲くように笑う。

 これはお世辞でもなく本当に似合っている。思わず見惚れてしまうぐらいに。


「こんな服、人生で何回着られるかわからないもんね。……特に一年後の世界があれだから。なので、思い切ったデザインにしてみました」


 その場でくるっと一回転して、少し照れた顔をしている。

 確かに肩が出ていて太股が露出する大胆なスリットも入り、白く美しい素肌が外気に晒されている。日頃の大人しめな格好に比べると雲泥の差だ。


「あんまりじろじろ見ないでね、恥ずかしいから」

「ごめん、つい見取れてしまった」

「そうなんだ。それは嬉しいかも。勇気を出してよかった」


 自然と徐々に近づいていき、至近距離で見つめ合う二人。

 そして、そのまま――


「甘い空気を換気しにわいが来た! わいの目が黒いうちはイチャイチャさせへんで!」

「ああもう、邪魔したらダメですって」


 開けっぱなしになっていた扉から乱入してきた望。続いて飛び込んできた七節が、申し訳なさそうに頭を何度も下げて望の体を羽交い締めにしている。


「いいところだったのに、ね」


 すみれは少し頬を膨らませると、俺の胸を指でちょんっと突いてから離れた。

 くうっ、ちょっとした仕草ですら魅了されてしまう。


「だから、甘々の空気充満させるのやめえや! こちとら、ドキドキもしないむさ苦しい男だらけなんやで!」

「はいはい、悪かった。ところで、吉田の姿が見えないが」


 船旅が始まってからは吉田も含めた五人で行動することが多かったので、この場にいないことに違和感を覚える。


「あー、吉田さんですか。はしゃぎすぎた影響なのか熱出して寝込んでます」

「俺も連れてけぇー、ってガラガラの声で訴えてたけどな。静先生がダメって許してくれへんかったみたいや」


 可哀想に。あんな厳つい顔で、船旅とこの島での観光を一番楽しんでいた男が不参加か。今日のパーティーも楽しみだと散々語っていたというのに。


「写真を沢山撮って、土産話をしてやらないとな」

「うんうん。吉田君には申し訳ないけど、パーティー楽しみだね」

「おう、準備できたみたいだな」


 大きな声がしたので振り返ると、客室の入り口で仁王立ちしている豪先生がいた。

 同じデザインのタキシードなのだが、妙に似合っているな。貫禄があるからなのか、着慣れているからなのか、俺と違って着こなしている。


「そろそろ、行くぞ。一応、日本代表だからな。変な行動は厳禁だ。あと、力を手に入れて調子に乗った、血の気の多い輩がいる可能性が高い。喧嘩を売られても買うなよ?」

「子供やないんやから、喧嘩なんかせえへんって」


 注意する豪先生に対し、おちゃらけた態度で返答する望。

 まあ、緊張していないぶんはマシか。

 明後日から大会が始まる。今日は各国の代表者との初顔合わせ。どんな連中なのか、ご尊顔を拝見させてもらうとしよう。





 この島で一番高く立派なホテルの最上階が会場となっているので、俺たちは船まで迎えにきたリムジンに乗り込み、目的地まで運ばれた。

 車から降りると足下にはレッドカーペットが敷かれていて、その上を歩いて行けということなのだろう。……大げさな。


「なんか、ハリウッドのスターにでもなった気分やな!」


 興奮と緊張で引きつった笑みの望が、それでも場の空気に呑み込まれないように話しかけてきた。

 レッドカーペットの脇にはホテルの従業員がずらりと並び、少し離れた場所には大会の関係者らしき人々が俺たちに注目している。


「すうぅぅ、はあぁぁ。ドキドキするね」

「胸を張れば良いのですよ。我々は選ばれし代表選手なのですから」


 すみれは緊張で動きが硬いが、対照的に七節は自然な笑みを浮かべて堂々とした足取りだ。

 さすが、御曹司。こういった場には慣れているらしい。

 どうにかレッドカーペットを渡りきった俺たちは、案内係に従い最上階までエレベーターで移動する。

 俺たち日本代表が一番乗りだったようで、だだっ広い立食パーティーの会場には従業員と警備員の姿しかない。

 落ち着かない様子の望とすみれの為に、俺たちは窓際を陣取って他国の代表者が集まるのを待つことにした。


 五分もしない内に次々と人が現れる。

 一般人と代表者は一目で見分けが付いた。まさにオーラが違う。

 相手を威圧するようにあえてオーラを放出している連中もいるが、内に秘めているオーラも俺には感じ取れる。

 国の代表だけあって、かなりの猛者が集まっているようだ。


「あの国の人たち、みんな大っきいね」

「ゴリゴリのゴリラみたいなヤツばっかやん」

「あちらの国は女性が多いようですよ」


 国旗を掲げているわけでもなく、わかりやすいプラカードがあるわけでもないので、どの国の代表なのか一目では判断できない。

 なので、俺たちは国名を口にできずに誤魔化している。


「あちらはフランス代表みたいですね。そちらの方はドイツかな」


 そんな俺たちと違い、七節には見分けが付いているようだ。


「なんでわかるの?」

「言葉を聞けばわかりますよ。あちらの方はフランス語でしたし、そちらの方はドイツ語でしたので」

「七節、あんた……フランス語もドイツ語もわかるんか! 顔も家柄も良くて何カ国語も喋れるなんてチートやろ! 神様は不公平すぎる!」

「ちょっとした挨拶と、軽い日常会話ができる程度ですよ」


 望が涙目で七節の胸元を掴んで激しく揺さぶっているのだが、当人は笑顔を絶やすことなく平然と対応している。

 二人がじゃれ合っている内に参加者が全員揃ったようだ。

 少し高くなった台の上に一人の男が立ち、全員が注目している。

 金髪でオールバック、恰幅のいい体型。あの顔は俺でも知っている有名人だ。

 世界中に大穴――深淵が現れてから新たに設立された団体。深淵を研究する機関の会長。


「えっと、元々はアメリカの大統領だった人だよね」

「そうだな、今は実業家として有名だけど。大会の主催者も彼だ」


 なので、スピーチを買って出たのにも納得だ。

 全員が静まり見守っている会場の舞台で、大きく両腕を広げて満面の笑みで口を開く。


「皆さん、ようこそお越し下さいました」


 話している言葉は英語だが、隣で七節が同時通訳をしてくれている。ありがたい。


「世界各国から優秀な覚醒者を集められたことに、まず感謝を。そして」


 そこで言葉が途切れた。息継ぎを挟んだわけではない……物理的に話せなくなった。

 笑みを浮かべたままの顔が横にすっとズレると、そのまま床に落ちて転がる。

 残された体は頭を失ったことを理解していないのか、立ったままの状態で切断面から鮮血を噴き出していた。

 あまりにも唐突で凄惨な状況に思考が一次停止し、咄嗟に頭が働かない。

 今、なんの前触れもなく、目の前で会長の首がはねられた。


「きゃあああああっ‼」


 沈黙を破ったのは女性の甲高い悲鳴。

 それを切っ掛けにして堰を切ったように、辺りから悲鳴と怒号が響く。

 警備員と各国の代表らしき人々が、首のない死体を中心にして取り囲むように円陣を組む。

 彼らの視線が集まる場所にいるのは、背後から首をはねた相手。

 腹を抱え、上半身を仰け反らし、哄笑している男。

 その顔に俺は――見覚えがあった。

 忘れたくても忘れられない、因縁の相手。


「やはり、生きていたか」


 いつか相見える覚悟はしていた……だが、早い。想定よりも早すぎる。

 この状況下でひとしきり笑い終えて満足したのか、背筋を伸ばして姿勢を正した。

 そして、ぐるっと周囲を見回していたが、俺と目が合うとピタリと止まる。


「やあ、守人君。久しぶりじゃないか。かれこれ半年ぶりかな。元気にしていたかい?」


 気安く呼びかける声と態度。

 取り囲んで警戒していた人々の視線が俺とヤツを交互に移動している。


「おかげさまで。そっちも元気そうでなによりだ……昼想 侵」


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