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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十六話

 既に写真や動画で何度も確認していたので、訪れる島がどういったものかは理解していたつもりだったが……無駄に金がかかっている、というのが正直な感想だ。

 白く巨大なビルはホテルらしいが、それが浜辺に寄り添うように幾つも建っている。海岸沿いに大きな道路が走っていて、様々な店がずらりと並ぶ。

 飲食店も多いがそれよりも目につくのがブランド店。ブランドに無縁で興味もない俺ですら知っている名前の看板を掲げた店がいくつもある。


「ほえぇぇ。如何にも金かかってんで―、って感じの建物たてもんがそこら中ににょきにょき生えてんな。プチハワイって感じや。ハワイ行ったことないから知らんけど」


 船から真っ先に降りた望が忙しなく辺りを見回して、感嘆の声を漏らしている。


「ふわああぁぁ。ハワイってこんな感じなんだぁ。南国っぽい花が咲いてるよ! あれってヤシの木かなっ!」


 すみれも望に負けず劣らずテンションが高い。


「おいおい、お上りさんかよ。俺たちは日本代表なんだ、恥ずかしい真似はするな」


 そんな二人を鼻で笑いながら、スマホで周囲の写真を撮りまくっている吉田。


「ハワイには父に連れられて何度か訪れていますが、ハワイとラスベガスを足して割ったような感じですね」


 一人だけ落ち着いた態度で仲間を眺めて苦笑しているのは七節。さすが、お金持ちのお坊ちゃま。常に質素な生活で贅沢はしてなかったらしいが、海外旅行は贅沢の内に入らないようだ。

 はしゃぐ仲間たちを尻目に注意深く周囲を観察する。

 船着き場に停泊している船は今のところ、俺たちが乗ってきた船のみ。ただ、この島には船着き場が離れて幾つも点在している。身分を隠して訪れる者が多く、敵対関係にある国の面々が出会わないように配慮しているらしい。

 この島は大金持ちがお忍びで訪れて、有りと有らゆる欲望を発散するのが目的なので「プライベートには口を出さない」というのが暗黙の了解となっている。


「おーい、お前らあんま船から離れるなよ。遊びに来てるんじゃねえぞ。寝泊まりも船ですっからな」


 サングラスにアロハシャツ姿の豪先生が大声で注意を促しているが、格好に説得力がない。


「ごっつう立派なビルがあるのに、あそこに泊まられへんなんてご無体な! 贅沢は言わんから最上階のスウィートルームで贅沢三昧させてや!」

「贅沢にも程がある。一泊で数百万ふっとぶぞ」


 駆け寄って縋り付く望を引き剥がした豪先生は、呆れた顔で大きなため息を吐く。


「いいかお前ら。わしらはバカンスに来たんじゃねえ。国の代表として戦いに来たんだ。あと、ここは秘匿されている島だ。妙なことをしたら一生ここから出られなくなるぞ。吉田、写真は消しておけ」


 慌ててスマホをしまう吉田。

 日常とはかけ離れた世界に放り出されたら、目移りして浮かれ気分になるのは理解できる。これでも、豪華客船での船旅というワンクッションがあったから、まだマシな反応なのだろう。


「対戦国はそこら中から監視の目を光らせているはずだ。わしらの情報を少しでも得ようとしてな。大会が終われば、この島で好き勝手に遊んで構わねえ。だから、それまでは我慢しておけ」

「「「はーい」」」


 すみれと望と七節が声を揃えて返事をした。吉田は渋々頷いている。

 吉田を除いた三人の仲間に関しては、表面上は浮かれきった旅行客にしか見えないが警戒は怠っていないはずだ。他国の代表者にアグリウスタル人が潜んでいる可能性が高いことも事前に伝えている。

 だからこそ、怪しまれないように、あえて、あの、はしゃぎっぷりを意識して演出しているのだろう。


「先生! 見える範囲の店なら行ってもいいでっか! あの南国情緒出まくってる飯屋に行ってみたいんやけど! やっぱ、チップは必要やんな⁉」

「私も私も! あっちのアイスクリームも食べてみたい!」


 望とすみれは勢いよく手を上げて、ぴょんぴょん跳ねながら願望を口にしている。

 望はどうでもいいが、笑顔ではしゃぐすみれは可愛い。


「私は野菜の美味しい店があると嬉しいのですが」


 そんな二人を止めることもなく、自分の意見を口にする七節。……お前たち、本当に現状を理解しているよな? 少し、心配になってきた。

 感情が表に出ていたのか、すっと隣に立った七節が「そんな顔をしていては警戒されますよ。もっと自然体でいきましょう」と小声で忠告する。

 肩に力が入りすぎているのは自覚している。俺の中で侵略戦争に勝つ、もしくは防ぐことと、すみれを助けることは同じぐらい……いや、すみれの方が大事か。

 だからこそ、常に気を張って隙を見せないようにしてきた。今、この状況すら監視されている可能性があるのだから。


「張り詰めた糸は容易く切ることができますが、緩んで風になびく糸は切るのが難しい。適度な心のゆとりも大切かと」

「幼い頃から叩き込まれた帝王学の一端か」

「いえいえ、私が好きな漫画の台詞をお借りしただけですよ」


 屈託なく笑いながら語る七節の顔を見ていると、少しだけ肩が軽くなった気がした。


「勝手に動くなって言ってるだろうが。仕方がない、引率としてわしが付いていってやろう」

「お爺ちゃんの見張りとして、私も同行しますね」


 島での散策には豪先生と静先生の付き添いが必要のようだ。

 実際、何処から見張られていて、どのタイミングで襲撃があるかもわからない。全員でまとまって動くのが正解か。





 軽く島の散策を終えて豪華客船に戻った頃には日が完全に落ちていた。

 自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転び天井を見上げる。

 目を閉じて今日のことを思い出すと、自然と眉間にしわが寄ってしまう。

 思っていたよりも人通りも多く、店も繁盛していた。この島には富裕層と島の従業員しか存在しないらしく、普通の島民らしき人は見かけなかった。


 客側は多種多様な人種で、世界各国から人が集まってきているのが窺い知れる。

 日本人の姿もちらほら見かけたのだが、顔に見覚えがないので訓練所の関係者ではない。時折、視線を感じて振り返ると、遠くから俺たちをじっと見つめる旅行客らしき人物。

 絡みつくような視線が俺たちを捉えて放さず、終始付きまとっていた。


「気にすんな。この島にいる関係者以外の連中は世界大会を見物しにわざわざやって来た、金を持て余している富豪の連中だ」


 俺と同じく周囲の視線を感じ取っていた豪先生が肩をすくめている。


「確か、この大会は公にされていない筈ですよね?」

「一般には、な。富豪や権力者共にはかなり広まっているらしいぞ。裏ではどの国が勝つか賭けも行われているようだ。今も俺たちを遠巻きに見物して値踏みしてんだろ」

「ちなみに日本のオッズは?」

「参加国の中で掛け率は断トツで高い。つまり、弱いと見くびられてるってことだ」


 豪先生の強さもまだ知られておらず、俺がアグリウスタル人を撃退したことも秘匿されている。

 おまけに参加するメンバーには、か弱く見える女性を含めた五人もの訓練生。如何にも強そうな見た目をしているのは豪先生のみ。期待されなくて当然か。

 普通の格闘大会なら、まず勝てない面子。


「弱く見積もってくれるなら、ありがたい話では」

「一般の連中は知らんが、アグリウスタル人を倒して撤退させた話は、各国の代表者たちには知れ渡っているぞ。わしがメインで戦った、ということになっているがな」


 そう言って見た目に似合わず、お茶目なウィンクをする豪先生。

 俺の存在を怪しまれないように豪先生が主に一人で戦い倒した、と話を捏造しておいたそうだ。

 今日一日の出来事を振り返って頭を整理し終えると、大きく息を吐いて目を開く。


「不安は拭えないな」


 仰向けの状態から体を横向け、天井から壁に視線を移す。

 この壁の向こうには彼女……すみれがいる。

 今度こそ俺は彼女を救えるのか。

 以前よりもかなり力が増している。だけど、昼想には及ばなかった。

 今回の大会は自分の実力を測るには絶好の舞台だ。今、地球人の中でどれぐらいのランクにいるのか。それを確かめておく必要がある。

 ずば抜けて強い化け物級の覚醒者がいるなら、それはそれで歓迎する。異世界からの侵略に対抗する要になってもらえるから。

 もし、そんな者が存在しないのであれば、やはり俺がなんとかして侵略を食い止めるしかない。


「できるのか、こんな俺が」


 現状は俺の知っている未来とまるで違う、別の世界線で別の歴史を歩んでいる。

 強くなったと自負していたが、その自信は呆気なく折られた。昼想に適わなかった現実が大きくのしかかっている。

 まだ、足りない。圧倒的に実力が足りない。

 せめて、ヤツを倒せるぐらいの力を手に入れる必要がある。

 この大会が終了したら、能力を大幅に上げる方法を探さなければ。


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― 新着の感想 ―
人に化ける異世界人なんて情報が共有(されてない?) されたら大変そう
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