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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十五話

 波を掻き分け迫る軍船。このままでは船尾にぶつかるのは確実。


「俺が怪力で受け止めるしかっ!」


 吉田が馬鹿なことを口にして、胸の前で手を打ち鳴らしやる気満々のようだが無謀にも程がある。

 俺たちは人外の力を手に入れたが、あの質量と速度で突っ込んでくる船に対して、オーラ全開で【怪力】を発動させたところで受け止めるのは不可能。

 激突の衝撃で押しつぶされて、見るも無惨な死体に成り果てるだけだ。


「どうにかできへんのか⁉ そや! 守人の異能で船体に穴開けたら沈むんとちゃうんか⁉」


 望の言葉に一縷の望みを抱いたのか、全員の視線が俺に集まる。


「どうやって船体に触れろと」


 【穴】は触れた物に穴を空ける能力。穴を空けるなら、どうにかして船に乗り込む必要がある。

 ぶつかる直前なら一か八か飛び乗ることも可能だろうが、どう考えても間に合わない。


「甲板の上には誰もいませんが操舵室には人がいますよ」


 隣で呟く七節を横目で確認すると、目の前に中心が膨らんだ円形の水の塊が浮かんでいて、それに映る拡大された操舵室を覗き込んでいる。

 【水】の異能で集めた水をレンズのようにしているのか。


「人がいるの? じゃあ、私の【譲渡】で飛ばせるかも!」


 すみれは七節を押しのけて乗組員の姿を確認すると、真っ直ぐに俺の顔を見つめる。


「それは無茶やないか⁉」


 危険な行為なのは彼女も重々承知しているはず。それでも、提案してきたのは俺ならなんとかしてくれるという信頼の証だと受け取った。


「頼む!」


 問答している時間はない、一刻を争う事態だ。


「うん!」


 すみれは俺の胸にそっと手を添えて、視線を軍船へと向け操舵手を捉えた。


「穴は左側面に空けてください! 沈没しなくても船体が左に逸れるはずです!」

「了解した」


 七節のアドバイスに頷いた瞬間、視界に映る光景が入れ替わった。

 目の前には生気のない瞳をした操舵手。その手元にはレバーがあり、メーターがずらりと並んでいる。視界を確保するための大きな窓が壁際を占拠していて、窓の向こう側には巨大な客船の姿が。

 俺をこの操舵手に【譲渡】した結果、無事に乗り込めたようだ。


「この船を止めろ!」


 説得する時間も惜しいので怒鳴りつけて体を揺さぶるが、操舵手は血走った目で前方を見つめたまま、その場に横たわった。

 意識はあり呼吸もしている。だが、その瞳からは狂気しか感じず、正気が失われている。

 顔からしてアジア人であるのは間違いない。日本人に見えるがお隣の国は同じような顔付きなので判断が難しい。

 瞬時にこいつは役に立たないと判断すると、操舵室の床に手を突く。


「開け」


 下の階へと続く穴が空く。

 迷わず飛び降りて周囲を確認することもなく、再び「開け」穴を空けた。

 それを繰り返して船底らしき場所に到達したので、しゃがんだ状態で左側の壁に手を添える。


「開け!」


 直径が三メートルを超える穴を空けたことで、一気に海水が雪崩れ込んでくるが想定内。

 予め屈んで脚に溜め込んでいたバネの力で大きく跳躍して、自分の空けた穴を一気にくぐり抜け操舵室に帰還した。

 何故か、操舵室には正気を失っている操舵手しかおらず、穴を空けて進んだ船内でも人の姿は皆無。もし、誰かがいたとしても今更どうしようもないが。

 他人を捜す時間の猶予などないので、操舵手を小脇に抱えると穴を空けて甲板へ飛び出した。

 目の前には豪華客船の船尾が見える。穴の影響で速度が落ちて進路も左へとズレているが、このルートだと回避できるかどうかは……ギリギリか。


 船の縁まで移動すると操舵手を掴んだまま、海へとダイブ。

 海に落ちたというのに操舵手は暴れようともせず、虚ろな目で浮かんでいる。

 オーラで底上げされた身体能力があるので、大人一人を抱えた状態でも余裕で泳げるが問題は船!

 祈りを込めて船の行く末を見守る。

 衝突するルートに見えた軍船だったが、辛うじて逸れたようだ。

 豪華客船の船尾にかすりはしたが、そのまま通り過ぎ、少し離れた場所で完全に動きを止めると沈んでいく。

 まさに間一髪といったところか。


「石川さん、大丈夫ですかー!」


 波に揺られながら浮かんでいると、光る物体が近づいてくる。

 あれは救命艇に乗っている七節が発している【光】の異能か。夕日が沈みかけているので辺りは暗くなっているが、眩しすぎる光のおかげで見失うことはない。


「守人くううぅぅん! 大丈夫うぅぅぅぅぅ!」

「生きてるかああああぁぁ! 死んでても返事せえやああああぁぁ!」


 あの騒がしい声は……すみれと望。

 大きく手を振ると、救命艇が波を無視して真っ直ぐ俺の元へと向かってきた。





「大活躍だったな、ご苦労さん」


 救命艇に引き上げられて大浴場で冷えた体を温めた後、ロビーで待っていた豪先生が歩み寄りねぎらいの言葉をかけてきた。


「なんとかギリギリで間に合いました。それで、あの乗組員の様子は?」

「未だにぼーっとしていて心ここにあらず、といった感じだ。何を聞いても何を話しても反応がない。ただ、体の方には問題がなく健康体のようだ」


 掴んで泳いでいる間に【読心】を発動したのだが、何も声が聞こえなかった。

 体温もあり生きているのは間違いないのに、まるで人形を抱えているかのような違和感。


「異能の力で操られていた、と考えるのが妥当でな」


 奥歯に物が挟まったような物言いで渋い顔をしている。


「そこで静に【鑑定】で調べさせたのだが、【傀儡】という異能で操られていることが判明した」


 聞いたことのない異能だ。その名の通り、相手を思いのままに操ることが可能な能力か。となると操舵手に罪はないと考えるべき。


「そもそも、あの軍船は何処の船かわかりましたか?」

「映像を確認したがあれは……日本の護衛艦だ。密かにこの客船を護衛していた船だな」

「日本の護衛艦ですか」


 他国の妨害行為ではないかと少し疑っていたが、日本の船となるとそれよりも……。


「日本政府の仕業ってのはさすがに飛躍しすぎだろう。まあ、他国の嫌がらせかとも思ったが、こんな状況で貴重な戦力を減らそうなんて馬鹿な考えをする国家はないと信じたい」


 一年後にアグリウスタル人による侵略戦争が始まるのは、各国の首相に伝えられている。同時に深淵の秘密も知り得る範囲で共有していた。

 他国の覚醒者は異世界人に挑む貴重な戦力だ。それを削るというのは自分たちの命も縮める行為に等しい。


「信じたいですね」


 だが、俺は知っている。

 滅びた世界の歴史で地球人を裏切り、アグリウスタル人に協力した国家が存在したことを。

 その国は利用し尽くされた後に滅ぼされたことも……知っている。


「何か証拠を残していたとしても、証拠ごと深い海の底だ」


 沈んでしまった護衛艦を引き上げるのは、ほぼ不可能だろう。この一帯の海はかなり深いらしく、一度沈んでしまった船を見つけるだけでも至難の業だ。


「となると、異世界人がちょっかいをかけてきた、と考えるのが妥当ですか」

「可能性としては一番高いんじゃねえか。何処かの国の人間に成り代わった連中が、な」


 昼想と同じように人間に化けている連中がいるのは間違いない。

 それも、各国の代表者として紛れ込んでいる可能性が高い。今回の大会はそのあぶり出しも兼ねている。目的の一つが、敵のスパイを見つけて即座に処分すること。

 その任務を承ったのが俺だ。強化された【読心】は半径一メートル以内に人がいれば、心の声が聞こえる。オーラを体内に巡らせれば【読心】を防ぐことも可能だが、少なくとも無害な連中と要注意人物とに分けることは可能。


「今回の一件は様子見、ってところかもな。選抜隊の二人が消えたことを不審に思い、調査にやって来た昼想たちをも撃退した。アグリウスタル人からしてみれば、一番警戒すべき相手が俺たちだ」

「なんらかの方法で情報は伝わっていると見るべきでしょうね」


 普通なら総力を挙げて調べ、俺たちを倒すべきと判断するのだろうが、ヤツらは遊び半分で侵略戦争を仕掛けてきている異常者の集団だ。

 昼想で理解したが、ヤツらの指揮官クラスに協調性はなく各々の判断で動いている。今回の一件も誰かの独断によるものではないかと推測している。


「一筋縄ではいかないと覚悟はしていたが、厄介なことになりそうだ」

「そうですね」


 大きくため息を吐く豪先生に相づちを打つ。

 この船にいる乗組員全員は既に調べ終えた。無断で聞いた心の声に不審なものはなかった。……何人か、すみれのことを気に入っている輩がいたので、あいつらは極力近づけさせないと心に誓っている。


「あとは無事に島に到着することを祈るだけですよ」

「そうだな。さすがにもう仕掛けてこないとは思うが……こちらも警戒しておこう」


 念には念を入れて見張りの人数を増やして対応してくれたが、そんな心配は杞憂に終わった。穏やかな日々が四日経過した後に、俺たちは目的の島へとたどり着いた。


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