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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊


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四話

「墓守だと。舐めたことを……おい、弟はどうした!」


 辺りを見回し、語気を荒げている。

 ここにいるはずの弟の姿がないことに今更気付いたのか。


「穴に捨てた」

「貴様! 弟を不浄のゴミ扱いしたのか!」


 倒されたことよりも穴に落とされたことに激怒している。

 それぐらい異世界人にとって穴に埋められるという行為は屈辱なのだ。


「人様の家に土足で足を踏み入れ、何もかも壊し奪う輩がゴミでなくてなんなんだ?」


 あえて挑発の言葉を口にする。


「そうか……貴様が何者であれ、【読心】で覗けばいいだけの話。まずは死なない程度に痛めつける」


 異世界人はすっと腰を下ろし、全身からオーラを噴き出している。

 ここで冷静になれるのか。あの弟とは格が違うようだ。

 あの頃とは違い若さはあるが、鍛えていない体。能力を活用して何処まで力を発揮できるか、試させてもらう。


 異世界人が一気に間合いを詰めて警棒を振り下ろす。

 風を切る音がやけに鮮明に聞こえる。

 相手の一撃の早さに内心の驚きは隠しきれていないが、半身を逸らして回避。

 続いて振り下ろしからの振り上げも容易く躱してみせた。

 思ったよりも体が軽い。バイオレットオーラによる身体強化、様々だな。


「これを躱すか! なんだ、その紫のオーラは! ……貴様も地球人に扮したアグリウスタル人か」

『さーてな』


 あえて異世界語で返す。

 あいつは地球人の知識を得たせいで地球人がオーラを使えないと思い違いをしている。その過ちを今は利用させてもらう。


『穏健派の者か?』

『どうだろうね』


 相手も異世界語で返してきた。あれは完全に俺を同胞だと思い込んでいる。

 あいつが口にした「穏健派」というのは地球征服を良しとしない、一部の異世界人だ。

 あちらも一枚岩ではなく、少数派だが異世界を滅ぼすことに反対する派閥も存在している。過去……正確には未来か。何度か穏健派の人々が侵略軍の異世界人と揉めていたのを思い出す。

 俺たちの境遇を哀れみ治療や食料を与えてくれた異世界人もわずかだが存在した。その内の一人に能力パネルの使い方や異能について教えてもらった。

 侵攻してきた異世界人はすべて殺すつもりだが、あの異世界人は――見逃してもいい。


『戦闘の最中に考え事か』


 目の前に迫っていた警棒をかがんで躱す。

 そのまま立ち上がる勢いに乗じて、下から拳を突き上げたがギリギリのところを避けられた。

 弟は土色のオーラだったが、こいつは黄色。素早さに特化したオーラだけのことはある。相手の動きを捉えきれない。

 それにもう一つ厄介なのが――

 武器である警棒を投げ捨てて、威力を重視せずに繰り出される掌底。

 受けたところでダメージは通らず、オーラで完全に防げるだろうが、相手の目的はそこじゃない。


「触さえすれば、貴様の記憶を読み取れる」


 そう【読心】を発動させて、俺の記憶を読むことが本命。

 相手の考えや能力の情報を得ることができれば勝利は容易い。

 なので、触れられないように突きのすべてを避ける必要がある。


「どうした、息が荒くなってきたぞ」

「くそっ」


 若いとはいえ鍛えていない体は老人の頃よりも体力がない。インドア派で運動嫌いだった若い頃の自分を殴ってやりたい。……あとで殴っておくか。

 このままでは近いうちに触れられてしまう。ならば、手の内がバレていない今のうちになんとかする!

 大きく後方に下がり、片膝を突いて荒い息を整えようとしている俺の隙を見て、好機と判断した相手が膝を曲げて跳び込もうとした。そのタイミングで相手の足下に膝まで埋まる穴を空ける。


「なっ⁉ これが貴様の異能か」


 そして即座に穴を閉じて膝下までを埋めた。

 相手の後ろへと回り込むと、後頭部へ向けて拳を叩き込む。

 拳が相手の頭に触れた瞬間、俺は後方へと飛び退く。


「直前で拳を止めたか。いい判断だ」


 落とし穴から抜け出した相手が膝下の土を払いながらニヤリと笑う。


「まさか、【反射】なんて異能を持っているとは」

「ほう、どうやって見抜いたのかは……あとで読み取るとしよう。この【反射】は有りと有らゆる攻撃を相手へと跳ね返せる」


 今、拳を止めていなければ後頭部への衝撃は俺へ跳ね返っていた。


「無能な弟と一緒にするなよ。あいつとは格が違う」

「みたいだな」


 触れられれば記憶を読まれ、こちらが触れると衝撃は跳ね返る。厄介すぎる相手だ。


「しかし、貴様に興味が湧いたぞ。何を秘めているのか……その記憶、必ず読み取る」


 実力に裏打ちされた自信。確かに強敵だ。

 だが、攻略法はある。

 奴隷時代、常に異世界人を殺す方法を考えていた。殴られ、いたぶられ、屈辱にまみれながらも考える時間だけはいくらでもあったから。

 ゆっくり対策を練る暇もなく相手が攻撃を仕掛けてくる、ギリギリで躱しながら何度も反撃を試みるがすべて回避された。


 回避? ……おかしい。さっきから違和感が拭えない。


【反射】なんて便利なスキルがあるなら避ける必要性はなく、すべての攻撃を跳ね返せばいいだけの話。……もしかして、ヤツの力には欠点――穴があるのか?

 どちらにしろ、体力は残りわずかだ。長々と勝負を長引かせてもこちらにはメリットがない。次で決める!

 俺は相手に背を向けると一目散に走って――逃げた。


「貴様! この期に及んで逃げるというのか!」


 想定外の行動だったのか。慌てて後ろから追ってくる足音が聞こえる。

 俺は懸命に走った。大穴の方向へと。

 目的地まで逃げ延びた俺は大穴を背に足を止める。


「無駄な足掻きはよせ。決して逃がさぬ」


 異界からあふれ出る空気の影響で大穴付近の街灯はすべて消え、遠くの灯りで辛うじて姿が見える程度。

 相手が目を凝らし、一歩一歩警戒しながら近づいてくる。

 距離が縮まったところで俺は予め設置しておいた【穴】を開いた。

 穴が開いたことで、工事現場に置いてあった消火器同士を繋いでいたビニール紐が引っ張られ、一方が穴に落ち、もう片方にくくりつけていたピンが外れ、ビニール紐がレバーを巻き込む。


「煙がっ!」


 暗闇に消火器の煙が充満することで視界が完全に封じられた。


「何も見えんが、お前も我の姿を視認できまい!」


 それに加え俺には【反射】に対抗する術もない、なんて考えているのだろう。

 視界に関してはその通り。だけど、俺は見る必要がない。異常なまでに発達した聴覚がある。

 相手の声、息づかいで何処に居るのか手に取るようにわかる。


「この渾身の一撃で葬るっ!」


 言葉とは裏腹に、俺はセメント用の砂利を掴むと、相手へと投げつけた。

 俺の頬に小さな痛みが一度だけ生じる。【反射】の力で砂利が命中した際の痛みが返ってきた。だが、その痛みは連続して襲ってはこなかった。

 やはり【反射】には制限が存在している。一度発動すると、ある程度は間を置かなければ【反射】が発動しないのだ。俺は今から全力で殴るというブラフをかまし、相手の様子を探った。

 案の定、一番初めに触れた砂利だけはダメージが返ってきたが、それ以外の砂利のダメージは【反射】されなかった。


 砂利を投げつけた直後に俺は自分の足下に【穴】を発動させて膝を曲げる。

 その【穴】が閉じて地面が盛り上がる力を利用して大きく跳躍した。相手の上空に陣取ると耳を澄まし、煙の中の正確な場所を確認。

 念のために残しておいた砂利を空中から投げつけ、砂利が命中した直後に、両手を組み落下速度にプラスさせた両腕の一撃を渾身の力で振り下ろした。

 両手に伝わる骨を砕いた確かな感触、鈍い衝撃音。

 風圧で煙が退いた後には、地面に叩き付けられ息も絶え絶えな異世界人がいた。


「な、なぜ、【反射】の欠点を……み、見抜けた」


 屈辱に顔を歪めながら、どうしてもその疑問が拭えないようだ。


「冥土の土産に教えてやる。俺がお前に触れたときに【読心】で記憶を読んだからだ」


 といっても一瞬しか触れていないので、相手の今考えていることを読む程度だったが。


「自分の能力に慢心して……墓穴を掘ったな」

「お、お前も使えたのか。そうか、見事だった」


 その言葉を最後に満足そうな表情を浮かべ息絶えた。

 俺は死体を弟が眠る場所まで運び、再び穴を空け、同じ場所に葬った。


「【読心】を使えるようになったのは、ついさっきだけどな」


 ずっと違和感があった異様なまでに発達した聴覚。これが、初めに倒したヘルハウンドから得た異能【地獄耳】だった。

 あいつに拳を当てた瞬間に【反射】の能力を読み取れたのは、あいつの弟が所持していた【読心】の力。


「まさか、【墓守】にこんな秘められた力があるとは」


 どうやら俺は穴に埋めた死体の力を使えるらしい。恐らくこれは【穴】に【譲渡】の力が備わって生まれた異能職【墓守】の能力。墓穴に埋められたものから、力が譲渡される。


「この力があれば、侵攻に抗えるかもしれない!」


 拳を握りしめ、闇夜に浮かぶ月を見つめ新たに誓う。


「必ず守ってみせる。この世界を……今度こそ、キミを」


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― 新着の感想 ―
「墓守」なんてあまりかっこよくない名前ですが、想像以上に強いようで驚きました。 これから先が楽しみです。
正統派のダークヒーローを思わせるセリフがカッコイイ!
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