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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十四話

 説明役が静先生から豪先生へと変更した。

 戻って来た静先生を横目で確認すると、大量のスイーツを皿に並べてご満悦だ。


「今大会のルールは単純明快だ。一対一の個人戦と五人一組で戦う団体戦がある。個人戦の参加人数は五名。団体戦は一組だ。どっちも戦闘不能になるか、負けを認めたら試合終了。団体戦はどちらかのチームが全滅するまで行われる」


 事前に聞いていたルールと違いはない。

 あと、説明の合間にビールを飲み、から揚げを食うのをやめて欲しい。集中できない。


「ぷはーっ、かーっ旨ぇ! で個人戦のメンバーなんだが」

「えっ、こんなタイミングで発表するんでっか?」


 ずっと黙っていた望が思わずツッコミを入れる。


「おうよ。黒服たちには既に伝えているからな。でだ、個人戦はまずわしだ」


 親指を自分自身に突きつける豪先生。その表情は揺るぎない自信に満ちあふれている。

 この人選については誰も文句を言わないだろう。世界最強の男と評される実力は伊達じゃない。

 共闘して実感したが、単純な戦闘力なら俺よりも上なのは間違いないだろう。それだけではなく、これはただの勘なのだが……本当の実力を隠しているのではないかと疑っている。

 それぐらい底知れぬ圧を感じるのだ。覚醒してたった一年ほどしか経過していない筈なのに、この実力の差は才能としか。


「続いて、石川守人」

「やっぱ、そうなるわな。知ってた」

「やったね、守人君」

「おめでとうございます、石川さん」

「けっ、一枠は譲ってやるよ」


 仲間たちの反応は様々だが一応祝ってくれているようだ。

 自分で言うのもなんだが順当な選出だと言える。訓練生……いや、黒服も含めて一番強いのは俺で間違いない。ただし、豪先生は除く。


「三人目は七節六巳」

「おや、私ですか」

「おめでとう、七節君」

「おめでとう」


 少し驚いた表情の七節へ、素直な喜びの言葉を贈るのは俺とすみれ。

 俺に続く実力者。選ばれて当然の人選か。


「はーっ、面白味のない人選やなー。意外性が足りへんのとちゃいますかぁ」

「そうだ。成績だけで決めるのは違うんじゃねえか」


 文句を口にして不貞腐れているのは、望と吉田。

 やっぱり、この二人って実は仲がいいだろ。


「四人目、五人目は黒服から選出する。以上だ」

「ぶーぶー」

「おいおい、人選ミスだろ」


 豪先生は机に備え付けてあった角砂糖を手に取ると指で弾き飛ばし「「あいたっ」」選ばれずに不平不満を漏らしていた二人に命中させた。


「次に団体戦だ。メンバーを一気に発表すんぞ。石川守人、花蓮すみれ、七節六巳、希望望、吉田大の五名」

「「マジかっ!」」


 望と吉田の驚く声がハモった。

 俺も少し驚いたが、人選は豪先生に一任していた。このメンバーに文句はない。

 すみれ、望、七節は二年もの間、共に鍛え合った仲間なのでコンビネーションにも自信はある。この四人に中途半端な実力者が割り込んでバランスが崩れるぐらいなら、代表の中で一番能力の劣る吉田が入った方が上手く扱えるだろう。


「お、俺が代表選手に……」


 吉田は握りしめた手をじっと見つめている。自分でも実力が劣っていることは自覚していたのか、本気で驚いているようだ。


「なんや、びびってんのか? そんなデカい図体して、小心者ってか」

「うっせえぞ、希望! てめえこそ、足引っ張んなよ!」


 望にからかわれて調子を取り戻したようだ。


「そこ、静かにしろー。皆さんが静かになるまでに、先生はビールを三本空けました」


 まるで校長先生のような口調で話しているが、その内容は酷い。


「実力で選ぶなら、わしが入るべきなのだが……お前らに経験を積ませる方が重要と判断した。世界中の猛者と切磋琢磨すれば、更にオーラや異能の強化が見込めるからな」


 これは半分が本音で、残り半分は別の目的がある。

 各国の代表者にアグリウスタル人が潜んでいることを考慮しての人選。昼想たちのように、覚醒者の中にヤツらが忍び込んでいる可能性は高い。

 それが異世界侵略するための計画の一環なのだろう。

 アグリウスタル人を察知する能力が高いのは間違いなく俺だ。長年、ヤツらと暮らしてきた経験。【読心】の異能。更に倒した連中の夢を見ることで、多くの情報を得ている。


 ……あれから、追加で日輪の夢も見るようになった。夢の内容に色々思うところはあるのだが、新たな情報は殆ど得られなかった。何故か地球に来てからの夢しか見ることができていないからだ。

 何か対策をしていたのか、それとも別の理由があるのかは不明。

 それと、神無月に関してはまったく夢を見ない。【浄化】の力により消滅させたからではないかと推測しているが、確信はない。

 ヤツからなら有力な情報を得られた可能性が高かったので残念ではあるが、おぞましい記憶を見せられずに済んだことの安堵もある。


「まあ、そういうこった。わしが参加すると一人で無双しちまうからな。大会が面白くなんねえだろ。がはははははっ」


 あーあ、豪先生は赤ら顔で完全に出来上がっている。

 いつの間にかビールに加えて日本酒の瓶まで置かれている。どれだけのアルコールを摂取したんだ。


「もう、お爺ちゃん飲み過ぎ! 説明はこれで終わりだから、島に着くまでは自由にしていいからね。お爺ちゃんはちょっとお話があります。……お婆ちゃんに言いつけるよ?」


 静先生が豪先生の近くで仁王立ちしている。そんな孫に注意されて姿勢をただす豪先生。

 孫が怖いと言うよりは、伴侶であるお婆さんに知らされるのを恐れているようだ。

 お婆さん、か。豪先生が常日頃から自慢して、惚気て、溺愛しているのは知っているが、どういう人なのだろう。少し興味が湧いてきた。


「守人君。ご飯食べ終わったら船の中を散策しようよ」

「そうだな。船旅中ぐらい楽しんでも罰は当たるまい」


 これからも過酷な日々が待っている。今ぐらいは少し羽を休めても許されると信じたい。


「せや、せや。息抜きは大事やで。さっき案内図を見たんやけど、カラオケもあるし、ボーリング場もあるらしいで」

「私は屋上にある菜園を見学したいです」

「ゲーセン行こうぜ! 最新のゲームがあるらしいぞ」


 賑やかに騒ぐ仲間たち。さりげなく吉田も乱入しているが、まあいい。

 吉田を含めた半グレ集団。0世界では苦い思い出しかないが、1世界も2世界でも特に問題行動はなかった。傲慢で粗暴な言動もかなり変化している。これも過去が改変された結果なのか。


「まずは艦内をすべて回って、そこから考えるとしよう」


 とはいえ、いざという時に備えて船内を把握しておくのは忘れないでおく。





 想像以上に広い船内を一番下から歩き尽くし、ようやく屋上へ到達した。

 途中でボーリングと体感ゲームを挟んだので時刻は夕方。太陽が大海原に沈もうとしているタイミングだ。


「広い広いと覚悟はしとったけど、広すぎやろ。船やのに十九階もあるってどういうことやねん」

「マジでこんなドデカいのよく造ったな」


 船内を歩いただけなのに疲れが見える望と吉田が呆れている。

 歩く前から覚悟はしていたが、それを凌駕する広さと艦内設備だった。

 無数の客室に煌びやかに彩られたロビー。映画館や劇場もあり、ジムや大浴場、ショッピングモールまで存在していた。これはもう、海上に浮かぶ街と呼んでも差し支えない充実具合。


「潮風が気持ち良いねー」

「プールまであるなんて、至れり尽くせりですよ」


 船の手すりを掴み、上半身を乗り出して海を眺めている、すみれ。

 夕日をバックにした白のワンピース姿が、青い海によく映えている。

 七節は船内にいるときは大人しかったのだが、外気に触れて元気を取り戻したのか、プールの縁に駆け寄ると水面を覗き込み、今にも飛び込みそうだ。

 俺は深呼吸をして潮の香りを取り込み、大きく吐き出す。一年後の侵略戦争がなければ、最高のバカンスなのだが。

 どうしても、最悪の未来が頭をよぎってしまい、心から楽しむ気分にはなれないでいる。

 きっと、アグリウスタル人を撃退するその日まで、俺の心を縛り付けている鎖からは解放されることはないのだろう。


「ねえ、ねえ、守人君、あれ見て!」


 すみれが駆け寄ってくると、俺の肩をバンバンと叩く。

 慌てて指す方向に目をやると、遙か遠くに小さな点が見えた。

 それは徐々に大きくなり、姿が鮮明になっていく。

 他の仲間も異常事態に気付いたようで、全員が同じ方向を見ている。


「あれは船ちゃうんか。こっちよりもちっこいみたいやけど、それでもかなりデカないか?」

「そうですね。こちらと比べると小さく見えますが」

「はっ、勝ったな」


 望、七節、吉田が遠くに目を凝らしている。

 貨物船……ではない。こちらと同じような豪華客船でも……ない。甲板には幾つもの砲台。無骨な見た目。あれは軍船か。日本の護衛艦に似ているが。


「物騒な感じだけど……あれかな。どっかの国の代表者が乗っているとか?」

「おそらく、そうだろうな」


 今回の大会は世界中から十カ国が参加する。

 正直、参加国が思ったより少なかったのは覚醒者を公の場に出すことで、手の内を明かしたくなかったのではないか。そう睨んでいるが実際のところは不明だ。

 一年後に異世界からの侵略が始まることも既に伝えている。だというのに、それでも自分たちのことしか考えられない国家は多い。世界が一つになって立ち向かわなければならない緊急事態だというのに情けない話だ。

 しかし、妙だな。

 距離がこれだけ縮まっているというのに速度を落とす気配がない。それどころか徐々にスピードが増してないか⁉


「ヤバないかあれ!」

「おいおい、横っ面に衝突すんぞ!」


 異常事態にこちら側も気付き、船の速度を上げたようだ。だが、これだけ巨大な船が急加速するには時間がかかる。

 間に合わないのは誰の目にも明らか。

 どうする。この窮地を打開する方法を懸命に模索するが、無情にも船体は近くまで迫ってきていた。


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