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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十三話

「それにしても、おっきな船だよね」

「アホみたいにデカいな。ビルが横倒しになってるみたいや」

「乗員数が確か五千人以上でしたよね。それを私たち訓練所の面々で貸し切るなんて贅沢すぎませんか」


 すみれ、望、七節が横並びになって豪華客船を見上げて感動している。

 正直、俺も圧倒されていたが表には出さない。……無邪気に喜ぶ歳じゃないからな。


「この船は大人気のクルーズ船なんだが、新造船ができてお役御免になったところを政府の連中が買い取ったらしいぞ。ここだけの話だが……異世界からの侵略を知って、いざという時の避難所として考えているそうだ」


 いつの間にか背後に忍び寄っていた豪先生がぼそっと耳打ちをした。

 かなり強くなったつもりだったが、それでも豪先生が近づいているのを察知できなかったのか。


「かなり改装もしていてな。保存庫の追加や自給自足ができるように畑なんかもあるぞ」


 自給自足、畑という言葉が聞こえたのか、背を向けている七節の耳がピクリと動く。


「まるで、現代版のノアの箱舟みたいですね」

「大洪水は起こらないだろうがな。今回は試運転も兼ねている」


 この船の存在は0世界では聞いたこともなかった。

 俺が情報提供をしたことで変化した未来の一部なのか。それとも、俺が知らないだけで存在はしていたのか。どちらにせよ、ありがたく使わせてもらおう。


「あっ、もう乗っていいんだって。守人君も行こうよ!」


 大きく手を振って、オレの名を呼ぶすみれに駆け寄る。


「うおおおっ、わいが一番乗りや!」

「ふざけるな、俺が一番先に決まってんだろうが」


 望が船のタラップを駆け上がり、先頭を譲りたくない吉田と押し合いながら併走している。

 若者は元気が一番だからな。浮かれる気持ちもわかるので、今日は咎めることはしないでおこう。





 割り振られた部屋に荷物を置いてから、改めて室内を眺める。

 清掃が行き届いた清潔な室内。ベッドが二つあり、室内も広め。

 元々、二人部屋らしいが贅沢に一人一部屋が与えられている。トイレとシャワールーム完備。大きめのクローゼットまで。

 おまけにバルコニー付きの部屋なので、窓を開けて外に出れば見事なまでのオーシャンビューが楽しめる。


「至れり尽くせりとはこのことか」


 こんな贅沢を経験したことがないので思わずニヤけてしまう。

 昔から豪華客船による旅を動画で観るのが好きだったのだが、まさか実際に自分が体験できるとは。

 備え付けの冷蔵庫から炭酸水を取り出し、バルコニーの椅子に腰掛け一息吐く。


「心地よい風に潮騒の香り。最高のバカンス……じゃない」


 ハッとなり、自分の頬を両手で挟み込むようにして叩く。

 リゾート気分で浮かれてしまいそうになったが、気持ちを引き締め直さなければ。

 俺たちは遊ぶためにここにいるのではない。世界中の覚醒者と戦い、侵略に対抗する手段を模索するために参加するのだ。

 目的を忘れるな。強い意志で挑め。

 目を閉じて深呼吸を繰り返し、意識を集中する。


「あっ、やっぱり守人君もバルコニーにいた! 今からみんなでビュッフェに行くんだけど、一緒に行こ?」


 目を開けて声のした方に向くと、隣の部屋とを隔てる壁からひょこっと顔を出して、こちらを見つめる彼女――すみれと目が合った。

 満面の笑みを浮かべ、満喫しているのを隠そうともしていない。緩みきっている彼女に言うべきことがある。


「直ぐに行こう」


 俺が彼女の誘いを断るわけがない。

 部屋から出ると、廊下には望と七節が待っていた。離れた場所でちらちらこっちの様子を窺っている吉田もいる。

 少し遅れて隣の客室から、すみれが飛び出してきた。


「みんな、そろったね。じゃあ、食べ放題のビュッフェに行こう。深夜二時まで営業していて、いつ使ってもいいんだって。あっ、吉田君も一緒に行こ?」


 ハイテンションではしゃいでいる、すみれの顔が直視できないぐらい眩しすぎる。

 改めて、俺はこの人が好きなのだと実感させられた。それぐらい、今日も魅力的な笑顔だ。


「し、しゃーねーな。一緒に付き合ってやるよ」


 渋々と言った口調で、面倒そうにこっちに歩み寄ってくる吉田。口元が緩んでいる点については突っ込まないのが優しさだろう。


「はっ、そんなこと言いながらも、ほんまは嬉しいくせに。もっと素直にならんとモテへんで」

「ざけんな! しゃーなしで付き合っているだけだ。それに俺は女に不自由したことなんてねえ!」


 望と吉田の口論が始まった。

 以前の世界では吉田の方が力で上回っていて、常に他人を寄せ付けない態度だったので二人に関わりはほとんどなかった。

 だが、望が力を付けたことで対等以上の存在になったと自覚したのか、言い負かされることもなく突っかかるようになっている。


「二人って仲いいよね」

「そうだな」


 いがみ合っているというよりは、じゃれ合っているようにしか見えない。


「ビュッフェには何があるのでしょうね。新鮮なお野菜があると嬉しいのですが」


 七節の声が弾んでいる。漫画やアニメ談義をしている時と同じぐらいに。


「七節は良いとこの坊ちゃんなのだろ。こういった豪華客船など乗り慣れているのではないか?」


 大企業の社長の息子なら金は唸るほどあるはずで、贅沢三昧の日々を送っていても不思議ではない。


「全然ですよ。父は躾けに厳しく、質素倹約が大好きで贅沢は敵みたいな考えの人でしたからね。私自身も野山で駆け回ったり、土いじりが趣味でしたので、こういった生活とは疎遠でした」


 好きな物言いではないが俗に言う「親ガチャ」で成功したと羨ましがられる立場のはずなのに、謙虚な性格なのはその為か。


「ほらほら、何しているの。早く行こうよ!」


 すみれが辛抱を切らして俺の手を掴むと、強引に引っ張っていく。

 俺は苦笑いを浮かべ、されるがままに後へ続いた。





「満喫しているようだな」


 目移りするほどにずらっと並べられた料理の数々から、厳選した物を少しずつ選び、席について食べ始めたところに豪先生と静先生がやってきた。

 二人もビュッフェを食べるのかと眺めていたら、黒服と一緒に手際よく何かを設置し始めている。

 黒服たちが一斉にその場から離れると、窓際に立派なホワイトスクリーンと、机にはプロジェクターが置かれていた。

 指し棒を手にした静先生がホワイトスクリーンの横に立ち、指し棒で軽くパンパンと叩く音に全員が注目する。


「食事中にすみません。今から、目的地と大会についてのルール説明をします。食べながらでいいですから聞いてください」


 箸を止めていたが、お言葉に甘えて食事は続けさせてもらおう。視線は離さないが。


「まず、事前にも説明しましたが、この船はとある島を目指しています。ハワイと日本の中間ぐらいにある島で、新たなリゾート地として開発されたのですよ。日本からの大量の出資があり、ホテルや別荘が乱立したのですが……バブルが弾けて日本企業が撤退。その後は見るも無惨な廃れ具合で、ほぼ廃墟のようになっていました」


 スクリーンには目的地の島が映し出されている。衛星写真なので島の全体図が把握できるのだが、海岸沿いの浜辺付近に立派なビルが幾つも見えた。

 島の中心部や反対側は開発がされていないようで、自然が手つかずのまま残っている。……一部を除いて。


「ですが、近年に世界中の大富豪達が集まるリゾート地として再開発され、世界中の著名人が集まる大富豪だらけの島に変貌しました。一般には知られないように情報を規制されていたので、多くの人は島の存在すら知りませんでしたが。情報規制の理由は……まあ、色々、人様には言えないようなことをしていたみたいで」


 最後の方だけは小声で呟くように話しているが、全員に丸聞こえだ。

 この話題、ネットの都市伝説や噂話を扱っていた動画配信者のチャンネルで耳にしたことがあるぞ。

金に物を言わせた非人道的な行いが横行していて、富を得た人々の醜い欲望が発散されていたとかなんとか。


「しかし、この島が再び過疎化する出来事が二年前に起こりました。それが突如開いた大穴です」


 指し棒で衛星写真をバンバンと叩く静先生。

 棒の先が示しているのは島の中心部に空いた、大きな穴。世界各地に開いた大穴の一つが、この島にも現れたのだ。


「でまあ、島が立ち入り禁止となったので、アメリカの政府が買い取って今に至ります。野球場や運動施設もあったので、そこを改築して試合会場としています。そこでルールのおさらいですが……あーっ! お爺ちゃん、何食べてるの! お酒まで飲んで! 私に説明役押しつけておいて酷い」


 真面目な顔をしていた静先生が急に声を荒げ、近くで酒盛りを始めている豪先生を睨みつけている。


「すまん、すまん。旨そうな料理がいっぱいあってな。ほら、そんな怒った顔をするな。婆さん似の可愛い顔が台無しだ。ここからはわしが説明を変わろう」

「じゃあ、よろしくっ」


 頬を膨らませた静先生が指し棒を豪先生に手渡すと、駆け足でビュッフェへと向かっていく。


「なーに、食べよっかなー。スイーツも美味しそうー」


 鼻歌交じりで料理を選んでいる静先生から目を逸らし、口元のソースを拭った豪先生に注目した。

 むしろ、ここからが重要な内容となる。


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