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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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十一話

「【ワームホール】所持者との遭遇は行幸だ。これで任務の一つが片付く」

「あれ、ころしていい?」

「ダメだよ。間違えても殺したらダメ、ダメ。もし、やっちゃったら、自分がキミを殺すよ?」

「ひぅ! わかっ……た。リーダーのいうことをきく」


 ドスの利いた声を聞いて、日輪が背筋を伸ばして敬礼をした。

 興奮状態が少し収まったのか、荒々しかった呼吸の乱れが徐々にゆっくりと落ち着きを取り戻している。


「さてさて、悪役としてここはどう振る舞うべきか。この状況は想定外だ」


 顎に手を当てて首を傾げ、どうでもいいことで悩んでいる。

 前の世界と同じく理想の悪役に徹するつもりか。

 こちらの戦力は豪先生と俺。二対二の状況。時間を稼げば、すみれたちが追いつく。

 だが、圧倒的な力を保有しているヤツとの戦闘に参加させるのは……問題がある。下手したら足手まといになりかねない。

 できることなら、今のうちに決着を付けておきたいのが本音だ。


「よし、決めた。相手の実力を測るために日輪で試そう。まだ戦い足りないのだろ?」

「いいのかっ! たたかっていいのか!」


 満面の笑みで飛び跳ねている日輪の姿は、無邪気に喜ぶ子犬のようだ。

 今から殺し合いをする者の態度とは思えないが、今更だな。


「いいよ、いいよ。思う存分、遊んでもらいな。あのひげ面の方は殺していいけど、あっちはダメだぞ。殺したら、めっ」

「うん、わかった!」


 犬を躾けるように、人差し指と人差し指を交差させて小さな✕を作って、言い聞かせている。


「こっちは二人同時でいいのか?」

「もちろん、構わないよ」


 豪先生の問いに、ヤツは大きく頷いて肯定している。

 二対一は大歓迎だ。前回の経験から、戦いの最中に手を出す可能性もない、と断言できる。まずは集中して日輪を倒すのみ。


「いくよ、いくよ! もう、がまんできない!」


 日輪の抑え付けられていた殺気と興奮が爆発して、喜びと共にあふれ出す。

 角を生やし、赤く充血した目が見開かれ、涎を垂らしながら突っ込んできた。

 あまりの興奮に二足歩行も忘れたのか腕を前足のように動かし、全速力の四足で駆け寄ってくる姿はまるで獣だ。

 俺は豪先生に目配せをすると、後方へと大きく飛び退く。

 それでも日輪は速度を落とさずに真っ直ぐ迫ってきて「開け」穴に落ちた。

 足下から伝わってくる鈍い音と振動。


 ……この展開、前とまったく同じだ。前と比べて興奮状態が段違いだったのもあってか、勢いが増していたので穴の側面に激突した衝撃は前回を上回っているはず。

 上から穴の底を覗き込むと、首があらぬ方向に曲がった日輪がいた。

 近くに転がっていた手頃な大きさのコンクリート支柱の瓦礫を拾い、オーラをまとわせる。そして、全力でそれを投げつける。

 狙いを違えることなく、瓦礫は日輪の頭を穿ち貫通した。

 穴を閉じて能力パネルを開き確認する。


「よし」


 異能の数が増えている。これで日輪の死亡は確定だ。増えた異能は【怪力】【硬化】か、驚きもない予想通り過ぎるラインナップだが、ありがたい。

 この二つの異能があれば戦闘力が大幅に上昇する。ヤツとの戦いを前に最高のプレゼントだ。


「やはり、こうなったか。ペットとしては可愛げがあるのだが、知恵が足りなすぎる。まあ、いい。そろそろ側近をリニューアルしようと思っていたのでね」


 肩をすくめてため息を吐く仕草も芝居がかっている。

 悪人を演じるためにあえてやっているのは理解しているが、それでも鼻につく。


「では、死力を尽くしてかかってきたまえ! 愚かで脆弱な原住民共よっ!」


 大きく両腕を広げ、悦に入った表情で天井を見上げている。

 自分に酔っているヤツの言動はスルーして、俺は左側面、豪先生は右側面へと回り込んだ。

 そして、目配せすると同時に挟撃する。

 出し惜しみはしない、とばかりに豪先生の拳が唸りを上げてヤツに迫るが、そのすべてを【闇】の壁が防ぐ。

 俺も同時に仕掛けたのだが、同じく【闇】が邪魔をするので【穴】で闇の壁をくり抜き、空いた場所に拳を潜り込ませる。

 だが、黒のオーラをまとった左手が事もなげに拳を弾いた。


 立ち位置を変えつつ、四方八方から連撃を叩き込むが、そのすべてが容易く防がれてしまう。

 ならばと、黒のオーラも【穴】で貫通させるが、即座に回避へと切り替えられた。

 闇の向こう側に時折見えるヤツの顔は余裕綽々で、欠伸をかみ殺している。

 前回の戦いより、遙かにオーラも実力も上がっている。だというのに、まだ足りないのか!


「んー、素晴らしい攻撃だとは思うが、すまない。自分が強すぎるようだ。期待していただけに残念だよ」


 嘆き悲しんでいる振りをしながら、大きなため息を吐いている。

 人を苛立たせる能力だけは認めるよっ!

 腹立たしさを拳に込めて放つが、余裕の動きで避けられてしまう。奪ったばかりの【怪力】を発動しているが、当たらなければ意味がない。

 このまま攻撃を続けたところで倒せる未来が見えない。だが、手を休めて距離を取れば【闇】の餌食となる。

 八方塞がりに見える現状。どうすれば打開できるか……。


 まだ【反射】という奥の手が残っているが、一度使えば手の内がバレてしまう。ヤツが必殺の威力を込めた渾身の一撃を放ってくれるなら、それを返して形勢が逆転する。

 だが、俺たちを見下して本気を出していない現状で……可能性は低い。

 辺りを見回し、何か利用できるものがないかと視線を走らせる。


 消化器、壊れた柱、地下駐車場の地図、隣に訓練所全体を映した上空写真、訓練生に不評な訓練所マスコットキャラの等身大パネル。地下四階は深淵の中心部より少し高い位置にある、総工費がいくらかかったか、などの豆知識が書かれた展示パネル、他に――。


「豪先生、そのまま攻撃を続けてください!」

「わかった」


 俺が何をするのか訊ねもせずに小さく頷くと、攻撃の速度を更に増してくれた。

 闇の壁に衝突する拳の衝撃音が徐々に大きく響き、衝撃波が壁際に立つ俺にまで届き始める。

 勢いに押されたのか、ヤツの体が徐々に後ろへ下がり、俺の方へ押されていく。


「これは苛烈、だね」


 ヤツは豪先生を油断できない相手だと判断したのか、防御に意識の大半を持っていかれている。

 俺への注意が薄れたな。

 直ぐ後ろが壁だったので横に大きく跳んでから、その場にしゃがみ込み右腕を振り上げる。

 そのまま迷いなく右腕をコンクリートの床に叩き付けた……ように見えただろう。ヤツと豪先生の目には。

 実際は足下に設置した小さな穴【ワームホール】に腕を突っ込んだのだが。


 豪先生が渾身の一撃を叩き込み、ヤツの体が一気に壁際まで追い込まれる。さすが、地球最強の男。

 ヤツは壁を背にしても余裕の態度を崩さないどころか、楽しげに笑っている。

 その顔を歪ませてやるよ。


「やるではないか。ならば、そろそろ実力の一端を見せつけてやるとするか」


 強がっている台詞に聞こえるが、あれは嘘じゃない。ヤツはまだ本気を出していない。だが、その余裕が命取りだ。

 ヤツの背後にある足下の壁から突然飛び出した俺の腕が、足首をがっちり掴む。

 地面にめり込んだように見えた右腕が壁に設置しておいた出口用の【ワームホール】から飛び出したのだ。

 そのまま、足首を力強く握りしめる。


「ほう、面白いことをしてくれるが、その程度で自分の動きを封じたつもりかね」


 余裕の態度が崩れることはないか。実際、足を掴んではいるが全身にまとっている黒のオーラが邪魔をして、ダメージを一切与えていない。

 一見、動きを封じて豪先生のアシストをしているように見えるが、そもそも【闇】を貫くことができないので、動きを止めたところでどうしようもない。

 だが、そんなことは百も承知。本来の狙いは別にある。


「次は何をし――」


 話の途中でヤツの姿が視界から完全に消えた。

 一瞬にして消滅したヤツは何処に行ったのか。その答えは……深い深い穴の底だ。


「どうなった! ヤツはいったい何処に⁉」


 急展開についていけていない豪先生が、俺に駆け寄ると肩を掴んで激しく揺らしてくる。

 オーラを大量に消費した後なので、この揺さぶりはかなり辛い。


「落ち、着いてください。ヤツを穴に引きずりこみました」


 揺さぶれながら左手の指を穴に向けると、豪先生は俺を離して――壁に空いた穴に駆け寄った。


「おいおい、どんだけ深いんだ……。それに穴に吸い込まれた瞬間が見えなかったんだが。まるで消えたかのように。どういうからくりだ」

「方法は単純明快。【ワームホール】から出した腕で相手の足を掴み、その【ワームホール】が設置しているコンクリートの壁に【穴】を発動させただけ」

「それは……どういうことだ?」


 この説明だけでは理解できないか。【穴】の性質を詳しく知らなければ当然だが。


「【穴】の異能は発動した瞬間に穴ができる。空間にある土や物体が、一瞬にして消え失せます。じゃあ、本来あった物体は何処に行くのか? それは俺にも不明なのですが、一つだけわかったことがあります。穴の一番上の部分だけは消えるのではなく、そのまま穴の底へと移動するのですよ」

「つまり……【ワームホール】から出ていた腕ごと穴の底まで一瞬にして移動した、と。掴まれていた、昼想も一緒に」

「そういうことです」


 ヤツは何が起こったか理解できないまま、穴底まで強制移動させられた。

 かなり深く掘ったので燃料となるオーラを限界まで振り絞ってガス欠状態。今すぐにでも床に座り込みたいぐらい疲労感が凄まじい。


「ということは、ヤツは健在なのか。だとすれば直ぐに戻ってくるはずだ、気を引き締め直せ」

「いや、その心配はないかと」


 再びオーラを張り直した豪先生の忠告に対し、頭を左右に振って否定する。

 俺がこうやって暢気に説明をしているのは、反撃はないと確信しているから。


「この穴、何処に繋がっていると思います?」

「何処も何も、ここは地下四階だ。横に掘っても地中ではないか?」

「そうですね、本来なら。でもよく目を凝らしてください」


 俺が指摘すると、豪先生は身を乗り出して穴に上半身を突っ込み、まじまじと覗き込む。


「んんっ? 先に紫色の光が見えるような。貫通しているのか」

「穴の先には――深淵があります」


 そう、この地下駐車場から百メートルも離れていない位置に深淵が存在している。

 どうやって位置を把握したのか。それはさっき見つけた壁に貼られていた訓練所全体を映した上空写真。

 地下駐車場の入り口と深淵が近いことを発見すると、深淵の側面に届くように穴を掘った。

 ドーム球場を呑み込んだ巨大さだ、少々方角がズレていても問題はない。

 【穴】の異能は平面だが、深淵の【ワームホール】は上から見れば平らに見えるが、土に埋もれた下部は半球状になっている。


 そして、この地下四階は深淵の中心部より少し高い位置にある、と壁際の豆知識パネルに書いてあったのを見逃さなかった。少し斜め下へ傾かせて掘れば巨大な深淵の何処かには当たる、と瞬時に機転を利かせたのだ。

 俺の空けた穴は深淵までの通路となり、貫通したことで俺の【ワームホール】も消滅したが、ヤツの体はそのまま深淵に放り出される結果となった。

 ヤツがどうなったのかはもう理解しているだろう。


 強制的に異世界へ送り返された。


 俺の腕ごと持って行かれる心配はあったが、足下の【ワームホール】から引き抜いた右腕は無傷で存在している。小さく安堵の息を吐いたのは秘密だ。

 もし、片腕を失っていたとしても、ヤツを道連れなら代償として充分だと割り切ってはいたが。


「頼もしい助っ人がただいま参上やっ!」

「守人君、大丈夫⁉」

「敵は何処に⁉」


 慌ただしい足音を立てて飛び込んできた三者三様の発言が、この戦いの終わりを告げる声となった。



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