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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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33/42

八話

 すべての説明を聞き終え、入所式が終わった。

 ここから昼食会があり、その後、訓練生が住む予定の宿舎へ案内する流れになっている。

 会場の鳳凰の間からエレベーターで上の階に移動して、元高級レストランだった食堂に到着。ビュッフェ形式なので、テーブルは窓際のみに残され、中心部には食べ放題の料理が並べられていた。


「うっひょー。今回も旨そうやな」

「程々にしないとダメだよ。パンパンだと動けなくなっちゃうから」

「希望さん、言葉遣いには気をつけた方がよろしいですよ。今回も、は不自然なので」

「あっ、そやな。すまん」


 七節に注意されて、軽く頭を下げる望。

 そう、すみれと望、そして俺は以前も経験しているが、他の人は初体験なのだ。

 ちょっとしたことだが、少しでも違和感を覚える言動は控えるべき。

 この後のことを考えると腹八分目……五分目でも多すぎるぐらいか。ご馳走を前に残念だが、制御しておこう。

 他の覚醒者たちは緊張も解けてきたのか、食事を手に取り談笑している光景があちらこちらで見受けられる。

 で、さっきから面倒なのが……。


「ええと、七節さんですよね。鑑定の時、凄かったです!」

「あの緑色のオーラってどうやって出すんですか?」

「良かったら、連絡先を交換してもらえないかな」


 七節に群がる女性陣。

 能力の高さを絶賛されていたことに加え、ずば抜けた容姿の良さで女性を惹きつけている。


「はっ、女共は見る目がないわ。あいつは顔が良くて有能で資産家の息子で、おまけに性格も悪くない……くそっ、完敗やんけっ!」


 文句の一つでも言いたかったのだろうが、望には思いつかなかったようで、やけ酒のように手にしたジュースを飲み干している。

 気持ちはわかるが、悪目立ちしないようにもう少し大人しくしてくれ。

 だが、周囲の目が七節に集中しているのは正直助かる。すみれと俺は人だかりから少し離れて、窓際まで移動する。

 そこから、目的の人物たちを目で追う。


 昼想は窓際の席に腰を下ろしてから、無表情で黙々と食事を口に運んでいる。

 そんな彼の前に甲斐甲斐しく食事を運んでいるのは神無月。

 日輪は隣の席で肉料理を山盛りにした皿を幾つも並べて、凄まじい勢いで喰らっていた。

 やはり、この状況でも三人一組で行動しているのか。

 三人をバラバラにして一人ずつ各個撃破が理想。

 一番始めに潰しておきたいのは、諜報活動が得意らしい連絡役も兼ねている、神無月。

 彼女さえ潰しておけば、昼想に悟られるタイミングを先延ばしにできるはず。なので、まずは引き離すことが重要となる。


「守人、目つきがやべえな。もっと肩の力を抜かねえと感づかれるぞ」


 頬に冷たい何かが触れたので視線を横にずらすと、冷たい水が入ったコップを押しつけて笑う、豪先生と目が合った。

 自然体を装っていたつもりだったが、まだまだ未熟だったか。

 眉間に指を当ててぐりぐりと回し、表情を物理的にほぐす。


「もうちょいしたら、昼想に声を掛けて最上階にある、わしの部屋へと連れて行く。怪しまれないように、他の覚醒者四人も一緒にな」


 そう、これから全員に軽い面接をする流れが決まっていて、ランダムに選ばれた五人同時に話し合うことになっている。

 もちろん、ランダムなんて嘘っぱちで昼想は第一グループ、日輪は最後から二番目のグループ。神無月の順番は最後。

 食事が終わったらグループごとに分かれて、面接の時間まで施設の案内を職員から受ける。俺と七節と望とすみれは、最後から二番目のグループで……神無月と一緒。


 俺たちの移動先はドーム型運動場。そこで、彼女と戦う手筈になっている。

 ドーム型運動場はこのビルから距離があり、昼想が異変に気付いたところで直ぐには駆けつけることができない。

 日輪はそこから真逆の場所へ案内されるので、こちらも心配は無用だろう。彼女に関しては多くの黒服が見張っているので、万が一の際は黒服たちが足止め……可能ならば撃退する手筈だ。


「できるだけ、引き延ばしてください」

「わかっている。無駄話はじじいの得意とするところだからな」


 そう言って、豪先生は愛嬌のあるウインクを返してきた。重大な責任を負うというのに、プレッシャーを一切感じていないように見える。

 見た目は俺より年上だが、中身は俺より年下だというのに、貫禄で負けている気がしてならない。





 滞りなく食事会も終わり、俺たち覚醒者一行は一階のロビーに移動して、各々がくつろいでいる。


「第一グループの皆様、こちらに集まってください。今から最上階に向かいますのでー」


 静先生が声を張り上げて、メンバーを集めている。

 昼想を横目で確認すると無言で立ち上がり「いってらっしゃいませ」「いてらー」と送り出す二人を無視して背を向けると、静先生の下へと歩み寄った。


「第九グループの方はこちらに」


 黒服の呼ぶ声に反応して、俺たちも立ち上がる。

 担当する黒服はショートカットというよりおかっぱに近い髪型の女性。俺より身長は低いが、すみれよりかは高い。スレンダーな体型で無表情。淡々と話すので感情が伝わってこない。

 他の黒服は掛けていないのだが、彼女だけは大きめのサングラスを装着している。正直、あまり似合っていない。

 黒服の中でも実力者の一人らしく、諜報活動に長けているそうだ。今回の計画の全容を知らされている希少な人物の一人だ。

 俺たち四人の姿を確認すると黙って小さく頷いたので、軽く会釈しておく。


「あらあら、うち以外は皆さんお知り合い同士なんどすか。なんや、うち一人だけ寂しおすなぁ」


 墨汁のような黒く長い髪に白い肌。黒の着物姿。何処か妖艶な美しさをまとう女性。

だが、それは人間から奪った仮の姿でしかない。京都訛りの口調も記憶を奪い真似ているだけに過ぎない。


「ええ、偶然にも知り合いで固まったようです。よろしくお願いしますね」


 爽やかな笑みを浮かべて、さらっと返すのは七節。

 大会社の跡取り息子として育てられただけあって、初対面の相手との対応には長けているようだ。


「えとえと、花蓮すみれです。面接までの間だけど、よろしくお願いします」

「関西人同士、仲良くしたってや」


 二人とも自然な感じで話せているようだ。


「よろしく」


 俺はボロが出ないように簡潔な挨拶に留めておいた。


「はい、よろしゅうに」


 目元をほころばせている顔は悪い人には見えない。

 だが、騙されるな。彼女の中身は異世界からの侵略者、アグリウスタル人。

 これは偽りの姿ですべてが芝居。選抜隊の兄弟と違い、他の世界を滅ぼすことに躊躇いがあるようには見えなかった。昼想は遊び感覚で楽しんでいたが、彼女は仕事を黙々とこなしている印象。

 どちらにしろ、我々地球人を滅ぼすことになんの迷いもないのだろう。


「皆さん、集まりましたね。これからドーム型運動場に行きますので付いてきてください」


 黒服を先頭として俺たちは一塊になって移動する。

 神無月の異能が不明な状態だ。精神系の異能を発動されても抵抗できるように、全員がオーラを体内に巡らせておく。

 静先生の【鑑定】結果を信じるなら【通話】の異能だけを所持している。間違いなく何らかの方法で隠しているのは確かだが、この【通話】ですら本当かどうかも怪しい。

 俺の推察としては【通話】は本当だと睨んでいる。別にバレても支障がないと判断して、あえて明らかにさせたのだろうと。この異能はその名の通り、遠くにいる相手と会話できる能力。奴隷時代に何度も目にしたことがある。通信係としてグループに一人は所持していた者がいるほどメジャーな異能。


「厄介だな」


 ぼそりと小さく愚痴をこぼす。

 いつでも誰とでも連絡が取れるということは、つまり、俺たちが牙を剥いた途端に昼想や日輪に伝わるということになる。


「はい、そろそろ、到着します。このドーム型運動場は北海道を拠点とするプロ野球チームの本拠地として使われる予定だったのですが、国が買い上げて覚醒者の訓練施設の一つとして改装しました。プロ野球ファンからの強烈な反対運動もあったのですが……国家権力でねじ伏せました、ふっ」


 淡々と説明しながらも、最後は鼻で笑っている。

 どうやら、ブラックジョークのつもりだったようだが、無表情と話し方のせいで笑っていいのか判断に迷ってしまう。

 取りあえず、愛想笑いを浮かべておくか。

 その後は黙った状態で運動場の扉を開き、中へと招かれたので大人しく従う。

 大人二人が並んで歩ける程度の道幅しかない、薄暗い廊下を進んだ先にあるのは開けた空間。


 本来は芝生が張り巡らされていたはずの足下は、地面がむき出しで平らに均されているだけ。元、球場の内野と外野の観客席を取り払った状態なので、広さはかなりのものだ。

 障害物もないのでなんの支障もなく動くことが可能。


「中心部まで移動しますよ。元々はピッチャーマウンドがあった場所ですね。そこからぐるっと周囲を見回してみましょう」


 黒服に続いて神無月が動いたのを確認してから、少し遅れて俺たちも移動する。

 彼女の背は隙だらけに見えるが、まだだ。仕掛けるには、まだ、早い。

 運動場の中心部に立ち、ぐるっと周囲を見渡す。広々とした空間。天井は屋根で覆われているので外から中の様子を窺う術はない。


「これから皆様が何度も利用することになる予定となる運動場の中心部です。どれだけ大声を上げてもはしゃいでも大丈夫ですので、思う存分暴れられます……よっ」


 話し終えると同時に黒服の女性が、運動場の壁に向かって走り出す。


「急にどないしはったんどすか? 駆けっこなんか始めて」


 何をしているのか理解できていない神無月が戸惑った声を上げている。

 それを合図に俺たちは全力でオーラを解放して、無防備に背を向けている神無月へと迫る。

 元々、五メートルほどしか距離を空けてなかったので、瞬く間に間合いが詰まり、手の届く範囲にその背を捉えた。

 まだ、振り向きもしない神無月の背後から、渾身の一撃を叩き付ける。

 意表を突いた一撃は避けられることもなく、狙い通り背中に激突して、神無月の細い体を弾き飛ばした。

 地面を何度もバウンドしながら、本来なら外野センターの守備位置まで転がっていく。

 筋繊維を千切り、骨を砕き、内臓を破壊した、確かな手応え。


 殺った。


 今までアグリウスタル人を葬ってきた経験でわかる。確実に仕留めた。その証拠に神無月はぴくりとも動いていない。


「やったな、守人!」

「倒したんだね!」

「呆気なかったですが、こちら側に被害がなくてなによりです。でも、この会話ってフラグっぽいですよね」


 喜ぶ仲間に水を差す七節の余計な一言を聞いて、望がしかめ面になる。


「そういうのは口にするからアカンのや。思うても黙っとかなアカンで」


 望が咎めているが、こいつも前に同じようなことを口にしたのを覚えているぞ。

 なんにせよ、被害なく撃退できたのは上々。次は日輪――そう簡単にはいかないか。


「静かに。あっちを見ろ」


 俺が指差す方向に全員が顔を向ける。

 折れた背骨で支えきれないのか、上半身が歪な方向に折れ曲がり、頭を地面にこすりつけた状態で、しっかりとした足取りでこちらに歩み寄る――神無月の姿が。

 逆さ状態の顔に浮かぶのは狂気を漂わせる満面の笑み。


「いやー、お見事でしたわ。何か企んでるとは思うとったんですが」


 上機嫌で喋り始める神無月を目にして、すみれと望の息を呑む音がした。


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― 新着の感想 ―
神無月の歩む姿はちょっとしたホラーですね。 想像するだけでも恐ろしい。 でもどういう仕組みになっているのか気になります。
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