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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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32/45

七話

 少し遡るが、七節と出会ってから一週間後。入所式まで残り一年半程前の話。

 俺は避難所に来ていた。

 深淵が口を開いたあの日、多くの人が穴に呑み込まれ亡くなった。大規模なコンサート会場だったので道外からの客も多くいたが、働いていた者の大半は北海道民で死者の数は万を超えている。

 大穴に落ちたのはコンサートが行われていたドーム型球場と、その周辺百メートル程度の範囲だったが、半径五キロは立ち入り禁止区域となった。

 地盤の不安と異界から漏れ出る空気の影響を考えてのことだろう。


 その際に周辺住民は退去を余儀なくさせられ、指定の避難所へと移動することとなった。

 避難所は大きく四つに分かれていて、近くの小学校、高校の体育館、市民ホール。それと公園に急造された仮設住宅。

 俺たちはその四箇所に一人ずつ分かれて、避難した人々に紛れながら炊き出しを待っている。

 ただ飯狙いで忍び込んでいるわけではない。別の目的があり、とある人物を見つけるために目を光らせていた。


 俺は仮設住宅がずらりと建てられた公園の片隅で、炊き出しの列に並んでいる。

 列の先には迷彩服を着た自衛隊員がいて、温かい料理を配ってくれていた。そんな自衛隊員の顔を一人ずつ確認。男性は必要ないので、女性隊員に絞って注意深く観察をしていく。

 ヘルメットに衛生面を考えてか大きなマスクをしているので判別が少し厄介だが、まず身長を基準に考えて極端な身長差がある人は省いて、小柄な女性にターゲットを絞る。


「あの人だ」


 ちょうど、味噌汁を入れて配っているのが目的の人物で間違いない。すっぴんにマスクで覆われているが特徴的な少し垂れている目元と眼鏡で判別が可能だった。

 自分の順番が来たので味噌汁を取る際に声をかける。


「ありがとうございます。とても助かってます」

「温かいご飯を食べて元気を出して下さいね」


 優しく微笑み気遣う言葉が、手渡された味噌汁よりも温かい。


「無理はされていませんか、お休みは取れています?」


 【読心】を発動させながら、何気ない問いかけをする。


「お気遣い、ありがとうございます」

(明日は久しぶりのお休みだから、楽しみにしていた映画でも観に行こうかなー)


 ウキウキの心の声が聞こえてきた。

 彼女は駐屯地内に設置されている宿舎にいるようで、そこから車で出かけている姿を想像する映像が頭に浮かぶ。

 以前の【読心】は相手に触れなければ心の声が聞こえなかったが、今は半径一メートル以内なら、こうやって読むことが可能となった。加えて心の声だけではなく、頭に思い浮かべた映像も見ることができる。


 1世界でアグリウスタル人の兄弟が持つ【読心】を二つ手に入れ、更にこの2世界で再び二つ手に入れたことで、かなり強化されたおかげだ。

 どの映画館に行くのかも読み取れたので、もう一度お礼を言ってから少し離れた場所に移動して、温かいご飯をいただく。

 目的は果たしたので、三人に連絡をしておくのも忘れない。


「あっ、美味しいな、この味噌汁」


 炊き出しとは思えない味わいに舌鼓を打ちながら、今後のことを思案する。

 時間逆行をしてから七節を仲間に招き入れ四人となったが、まだまだ人材が足りない。

 そこで次に目を付けたのが、野々上 豪。

 自衛隊の幕僚長であり、後の訓練所教官。最強の覚醒者でありながら、権力をも持つ頼れる存在。

 早期に野々上 豪を――豪先生を味方に引き入れられたら、今後の展開がかなり楽になる。

 そう判断したまではよかったが、問題はどうやって近づくか。


 未曾有の大災害により深淵周辺の警備は警察だけではカバーしきれずに自衛隊も配備されることとなった。自衛隊の役割は炊き出しや瓦礫撤去、被災者の捜索など災害時の出番が多い。

 陸上自衛隊のトップである豪先生は家に帰る暇もないぐらい、毎日働いているはず。俺たちが会いたいと願って、簡単に会える相手でも現状でもない。

 となると、孫であり自衛官でもある、野々上 静――静先生に矛先が移ったのも必然。

 彼女は幕僚長の孫という立場で、後に【鑑定】を目覚めさせて国の重要人物となり、常に黒服が護衛に当たるようになる。だが、今は自衛隊員の一人でしかない。


 明日の行動を把握したところで、映画終了後に接点を持つ方向で行こう。観る予定の映画はちょうど、すみれも話題にしていた恋愛映画か……。

 正直、好みの作風ではない。映画を観るならアクションかSFが良いのだが……。話題作りと自然な接点を持つために彼女を誘ってみよう。





「すっっっごく良かったね! 覚えてる、あの浜辺のシーン!」


 すみれは感動で目が潤んでいる状態で、映画の内容を饒舌に語っている。

 映画を見終わってから俺たちは静先生の後を付けて、彼女が入った喫茶店に少し遅れて続き、近くの席に陣取った。

 それから、何気ない日常会話を演出するために、さっきの映画に触れたら……怒濤の感想が止まらない。


「やっぱり、引き留める彼女をぎゅっと抱きしめるシーンが最高だったと思うの!」

「そ、そうだな」


 迫力に押されて曖昧な返答しかできない。大人しいイメージだった、すみれにもこういった一面もあるのだな。覚えておこう。

 そこから相づちを打つだけの役割になったが、彼女が嬉しそうなので良しとする。

 一方的な言葉を浴びながら、彼女の背後に視線を移す。

 そこには背を向けた状態で座りながら、聞き耳を立てている静先生の姿があった。

 ここからだと【読心】の範囲外か。もう少し近づく必要性があるな。


「すみれ、隣に移動してもいい?」

「えっ、うん、どうぞどうぞ!」


 すみれは少し頬を赤らめると横にずれて、ポンポンと隣の席を叩いている。

 隣に移動したことで静先生の心の声が明瞭に聞こえてきた。


(あのカップル、一緒の映画を観ていた人たちよね。はああぁぁ、羨ましい。私なんて一人寂しく恋愛映画を……。なのに、二人でイチャイチャしながら映画鑑賞なんて羨まし過ぎるっ!)


 嫉妬と羨望の声が脳内に響いてきた。

 性格は穏やかで優しく、容姿も優れているのに恋人がいない理由は祖父である豪先生の影響が大きい。

 暇さえあれば孫娘に会いに来ては、周囲に睨みを利かせているそうだ。


(私も一緒に感想を言える相手が欲しいっ! 切実に欲しいっ! お爺ちゃんとお婆ちゃんなんて、今でもラブラブなのが羨まし過ぎる。ここで少しでも甘い成分を吸収しないと! リアルなイチャイチャ展開ありがとうございます!)


 だだ漏れしている心の声を聞いて、静先生のイメージが変わっていく。


「恋愛映画って女性同士で話した方が盛り上がりそうだね」

「うーん、確かに。あっ、もしかして、そんなに面白くなかった?」

「そんなことはないよ。すみれと一緒にいられるだけで幸せだから」

「私もそうだよ」


 少し恥ずかしいが、あえて仲の良さをアピールしてみる。静先生の反応はどうだ?


(ふおおおおっ、至福! ラブラブな空気でパフェが甘い!)


 凄まじい勢いでパフェを搔き込む音が背後からする。

 こちらからのサービスに満足していただけたようだ。さて、ここから更に接点を持って会話に引き込むには……。


「ドリンクバーでお代わりもらってくるよ。すみれのも取ってこようか?」

「私はまだ残っているから大丈夫。いってらっしゃい」


 小さく手を振るすみれに送り出されて、空のコップを持って移動した。椅子の横に置いてあった鞄に足が少し触れる。

 そのまま、ドリンクバーのコーナーでジンジャーエールを入れ終えて席に戻ってから、他の人に見えないように俺と彼女の間に小さな【穴】を発動させた。

 そして、その穴に手を突っ込んで意識を集中する。

 今、この穴は別の穴と繋がっている。さっき設置した、静先生の鞄へと。

 手をまさぐって鞄の中の財布を掴むと、そのまま穴を通して引き抜いた。

 そして「あっ」と小さく驚いた声を出しながら、席から立ってしゃがみ込む。


「ええと、すみません。この落ちている財布、もしかしてあなたのですか?」

「ああっ、私のです! ありがとうございます」


 慌てて受け取った静先生は何度も頭を下げて、感謝の言葉を口にする。


「いえいえ。あれっ、もしかしてですけど……さっき同じ映画を観ていませんでしたか?」


 我ながら白々しいが、演技は上手くやれているはず。


「愛、ラブ、敬慕のことですか?」


 そう、そのしつこいぐらい愛を押す映画だよ。俺一人なら絶対に見ようとも思わないタイトルだ。


「それです。やっぱり」

「うわー、同じ映画を観ていたのですね。あのー、もし良かったら、一緒にお話ししませんか? 彼は映画よりも私を見ていたみたいで、話が弾まないんですぅ」


 すみれは甘えた声で話しに割って入り、わざと相思相愛を見せつけるように、俺に寄り添って腕を組む。


「ご迷惑じゃないかしら? デートの邪魔になりそうだし」

「よろしければ、彼女と話してあげてください。映画の感想を語り合えるような同性の友達がいないらしくて。俺は映画に関してはあまり詳しくないから、正直少しだけついていけないところが」


 頭を掻きながら申し訳なさそうに頼むと、「じゃあ、少しだけお邪魔しようかな」と飲み物を手にして対面の席へと移動する。

 そこからは話が弾みに弾み、置いてけぼりとなった俺は氷を口の中で転がしながら、いつ終わるとも知れない熱い感想会を眺めていた。





 連絡先を交換した二人は、それから何度も連絡を取って想像以上に仲良くなり、あれから二週間後に俺たちの秘密を暴露。

 異能とオーラを見せることで納得した彼女は、祖父である豪先生と連絡を取り話し合いの場を設けてくれた結果、二人からの協力と信頼を得ることに成功した。

 そこからはトントン拍子に話が進み、俺たちは入所式の直前まで深淵最深部への立ち入りも許され、前回よりも己の実力を磨くことに専念できたのは大きい。


 そして――入所式の今日。以前からの計画を実行に移す。


 入所式はただの前座。本番はここからだ。

 こちらの作戦や秘密を見抜かれる前に、昼想一派を分断して各個撃破。

 日輪を倒すことは正直難しくないと考えている。実際、過去に一度日輪を穴に落としているので、同じ手段を使えばやれるはず。

 神無月に関しては武力より知能といった立ち位置のようだが、その力は未知数。油断はできない。

 一番の懸念点は昼想。正面から戦えば、今の俺でも勝てない可能性が高い。あの時も相手の言葉を信じるなら本気を出していないにも関わらず、手も足も出ず完封された。

 故に仕掛けるならば、孤立した状態にして総戦力で挑みたい。


 そこで、豪先生に昼想だけを呼び出し、時間を稼いでもらう。

 常に三人で行動している彼らだが、彼がいない状況だと日輪と神無月は互いに距離を取り、仲が良い感じには見えなかった。

 すみれと望は俺と一緒に神無月を担当。黒服の面々が日輪に対応する。

 できるだけ、消耗せずに二人を倒した後に――合流して昼想を撃破。この流れが理想だ。


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