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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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六話

 この2世界に穴が空いて一年半が経過。

 異世界人の侵攻が始まるまで、残り一年半。俺たちが対策を練れる猶予期間の半分を鍛錬に費やした。そのおかげで俺を含めた、すみれ、望のオーラ総量、異能の強化が図れたのは大きい。

 更に大きな変化がもう一つあった。


「ここが噂の覚醒者訓練所ですか」

「まさか、たった三ヶ月でオーラに目覚めるなんてチートやろ」

「覚えるのすっごく早かったよね」


 真新しい高層ビルを前にした七節が、目を細めて感慨深げに呟いている。隣で望が呆れたように肩をすくめ、すみれが笑顔を浮かべている。

 俺を含めた四人とも、前回の入所式と同じ格好をしている。いや、違うな。すみれだけは別人のような服装だ。

 前回は無理をしたギャル風の装いだったが、今回は清楚なワンピース姿。やはり、こっちの方が似合っている。

 望は目に優しくない配色のTシャツとダメージジーンズ。俺と同じくいつもの私服だ。


 そして、今回もノーネクタイのスーツ姿が異様に似合っている――七節六巳。

 俺の勧誘を受け、仲間になった元優等生は成長速度が尋常ではなかった。

 オーラに目覚めるには一年間は異界の空気を浴びる必要があるというのに、たった三ヶ月でオーラに目覚め、半年で異能が覚醒。

 濃度が高い深淵の近くにいた影響だろうが、それにしても早すぎる。

 そこからは俺たちと同じように最下部まで降りて、共にオーラの化け物を倒しながら、組み手や異能強化などの鍛錬に明け暮れていた。

 ほぼ毎日、四人で共に過ごし、あっという間に一年半が過ぎ今に至る。

 三人とも以前とは違い、立ち居振る舞いに余裕すら感じる。鍛錬の日々で自信が付いたようだ。


「雑談中に悪いが、今後のおさらいをするぞ」


 俺が切り出すと、三人が小さく頷く。


「まず、一番重要なのは要注意人物への警戒と観察」

「昼想 侵、日輪 希乃、神無月 夜の三人やな」

「そうだ。ヤツらの正体はアグリウスタル人。それも俺が倒した選抜隊の二人と違い、地位が高い存在のようだ。リーダーは昼想なので、特に注意が必要となる」


 この三人については今直ぐに不意を突いて倒す案もあったのだが、三人はそもそも日本に存在していなかった。どうやら、海外旅行の最中に深淵の災害に巻き込まれ、その際に姿と記憶を奪われ、成り代わられたようだ。

 それからは家族にも音信不通、所在も不明となっている。

 結局、今日この日までヤツらの居所は掴めなかった。


「できるだけ、近づかないようにしてくれ。どんな異能かは不明だが、【読心】や【鑑定】のような、相手の考えや能力を読み取る異能を所持している可能性を考慮して、警戒するように」

「わかったで」

「うん」

「了解しました」


 何度も口を酸っぱくして注意してきたので今更なのだが、念には念を押しておいて損はない。


「精神に作用する能力はオーラを常にまとうことで、ある程度は阻害できる。【読心】の訓練でやった要領を思い出してくれ」


 そもそも【読心】は気を失っている相手からなら記憶を読むのは容易いが、意識があり精神力が強い相手だと、今考えていることぐらいしか読み取れない。

 更に全身にオーラを巡らせていると、記憶の読み取りを阻害することも可能となる。

 なので、俺たちは常に体内にオーラを巡らせている。

 今も実行中で、一見するだけでは覚醒者でもオーラを見抜けない。やり方とコツは奴隷時代に極めた俺が教えておいた。


「三人の様子をつぶさに観察、と言いたいところだが、それは俺と七節が担当する」


 俺は自分を偽るのも、相手を観察する行為も奴隷時代に経験済みで慣れている。

 七節は束縛する親を納得させるために、常に気を張って仮面を付けていたそうで「本心を隠す芝居は慣れっこですよ」と笑っていた。

 すみれと望に関しては……感情が豊かで嘘の吐けない性格だからな……。正直、諜報活動には向いていない。


「以前の1世界でヤツら三人は他の覚醒者と積極的に接点を持とうとしなかった。こちらから、歩み寄らない限りは適切な距離を保てるはずだ」


 選抜隊の二人を倒した存在を警戒してなのか、それとも地球人を見下して触れあうことすら拒絶し、ゲーム感覚で楽しんでいただけなのか。三人一塊で動くことが多かった。


「あとは……強くなったからって実力を、すべてを、曝け出して目立とうとせずに自重すること!」


 最後の部分だけ意識して強く発言してから、望に視線を移す。

 じっと真剣な眼差しで見つめ返していた望だったが、すっと横に目を逸らした。


「やめろよ?」

「わ、わーっとるって! 承認欲求の獣はなんとか押さえ込んだ! でも、ちょっとぐらいは目立っても」

「あかんで」

「えせ大阪弁で注意されてもうた!」


 一番心配なポイントがそこだ。目立つことに命を賭けている節がある望が自重できるか。今も心配の種だったりする。

 さすがに馬鹿な真似はしないと信じたいが。


「他の細かい注意点は何度も話しているから割愛する。さあ、まずは入所式と鑑定を乗り越えよう」





 今回も総理大臣のスピーチを聞き流しながら、周囲の様子を窺う。

 覚醒者の観察がやりやすいように、最後尾に並んだのは正解だったようだ。全員をすべて視界に収められる。

 素行の悪い連中、半グレの面々は今回も顕在。集団のリーダーである吉田 大もいるな。この頃は力を手にして威張り散らしていた時期か。今も不遜な態度で総理を睨みつけている。

 元トップ3の野々街 財流、大田句 美得、金切 雪菜の姿も確認した。見た目はくたびれたサラリーマン、挙動不審のオタク、金持ち令嬢の三人組は既に知り合いのようで雑談をしている。野々街を間に挟んで、前に金切、後ろに大田句という配置か。


 そして、問題の昼想に成り代わっているアグリウスタル人たちは……いた。

 三人が一列になっていて、先頭が昼想。後ろに日輪、最後に神無月。

 昼想は黙って前を向き、日輪は頭の後ろで手を組んだ状態で何度も周囲をキョロキョロと見回している。神無月はそんな日輪に対し「落ち着きなはれ」と扇子で頭を小突いている。

 ここだけ見れば異世界人とは思えない。違和感なく日本人に化けていた。


 前回Aクラスだった面々は全員揃い、入所式の進行も前回と変わりなく進んでいる。

 今のところは前回の記憶をなぞる展開だ。

 総理をバカにした態度の半グレ集団のリーダーが黒服たちにたしなめられ、オーラを解放した黒服たちに覚醒者たちが怯え、恐縮する流れも同じ。

 野々上幕僚長――後の豪先生が壇上で説明を開始したので、出来るだけ前回を再現するために望が勢いよく手を上げて同じ質問を口にした。


「キミたちにはこれから能力検定を受けてもらう。能力の査定によって各自のクラス分けが決まる。クラスは一組十人前後とし、A~Eクラスまでとする。何か質問はあるかね?」

「はい、はーい。あのークラス分けってやっぱ能力の優れたもんがAで、下にいくほど劣るってことでええんかな? ……知ってるけど」


 余計な事を呟くな。


「Aクラスに優秀な者を集めるというのは間違っていない。だがB~Eに関してはオーラの色分けで割り振る予定だ。Bは赤色、Cは青色、Dは黄色、Eは土色といった具合に」


 まったく同じセリフだ。少しでも記憶と違う展開になってしまうと、今後の計画が立てづらくなってしまう。


「では、他に質問もないようなので一人ずつ前にきて、オーラを発動してもらえるかな」


 ここからが重要な【鑑定】タイム。

 豪先生と入れ替わって現れたのは、真っ白な制服に黒髪ポニーテールで、眼鏡姿が印象的な女性、野々上 静――静先生。

 豪先生の孫娘であり、【鑑定】の異能を所持している重要人物の一人。


「ここからは私が担当させて頂きます、野々上静です。全力でオーラを発動していただけたら、測定はすべてこちらで行いますので。痛いこともありませんし、変なこともしないから安心して下さいね」


 穏やかで優しさが伝わる言葉遣い。

 緊張していた覚醒者たちの張り詰めていた空気が緩んだのを感じる。


「では、一番目に鑑定を受けたい方はいらっしゃいませんか」


 問題はここから。俺たち四人は前回とは能力がまるで違う。オーラの量と質。異能の強さ。共にかなり強化した状態。

 それが明らかになれば騒ぎになるのは確実。だが、オーラの制御方法は既に伝えてマスター済み。


「はい、はーい。やっぱ、目立つならトップバッターやろ」


 前と同じようにウザいぐらいアピールをしている望は上手くやってくれる……はず。

 壇上でへらへら笑っている望を平然と見守っているが、内心は穏やかじゃない。

 余計なことはするなよ。余計なことはするなよ。頼むから、余計なことはするな。

 念仏のように何度も心の中で唱えながら、事の成り行きを見守る。


「では、この机に置いた装置に手を当てて下さい」


 望が装置にそっと手を添えると、静先生が【鑑定】を発動させた。

 下らないやり取りを挟むのも記憶と同じ。さて、結果はどうなる。


「はい、そこまで。ありがとうございました。ええと、ふむふむ」


 静先生の呟きながら頷く姿が、芝居がかっているのも前とほぼ同じ。


「なるほど、なるほど。希望 望さんは黄色のオーラ。素早さに特化した能力ですね。それと……おおっ、異能持ちじゃないですか!」

「あのー、異能持ちってなんなん?」

「あっ、これは失礼しました。まだ説明していませんでしたね」


 望のセリフが若干棒読みに聞こえるが、静先生の芝居臭さよりかはマシか。

 そこからは豪先生が代わりに異能の説明をするパートで、ここまでは前とほぼ同じ。

 続いて、すみれも七節も無難にこなし、今のところ違和感はほとんどない。

 三人ともオーラの量と質は増えたが、異能の数は同じなのでオーラ調節さえ上手くいけば【鑑定】の目は誤魔化せる。

 俺の番が来たが無難にこなし、【鑑定】結果を伝えられて壇上から降りようとしたところで、静先生に耳打ちをされた。


「お芝居、大丈夫だった?」


 心配そうに話しかけてきた静先生に対し、笑顔を返す。


「完璧でしたよ」


 それを聞いて安堵したのか、そっと胸をなで下ろしている。

 ここまでの芝居で問題点は何もない、と思う。

 実は――事前に静先生、豪先生と接触して情報を共有していた。

 前回の反省を踏まえて、信頼できる人たちを事前に仲間に引き入れておくべきだという結論に達した俺たちは、なんとか二人と接触を図り……すべてを明かしたのだ。

 そう、それは、これから後のことに大きく関わってくるから。

 何も知らないヤツらを早々に仕留めるための策に。


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