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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊
二章

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四話

「話には聞いていたが、ここまでだとは」


 辺りを見回すと、目に入るのは木ばかり。あとは鬱蒼と茂った雑草の数々。

 足下には雑草が存在しないが、地面がむき出しで二人ぎりぎり並んで歩ける程度の道が存在している。


「ふぅ、ふぅぅぅぅ。すっごい、大自然だね」

「ひぃーはー。ド田舎なんてレベルちゃうで。こんなんもう、秘境やろ」


 少し遅れて付いてきている、すみれと望が荒い息を吐きながら感想を口にしている。

 すみれはしっかりと登山用の格好をしているが、望は普段着。山を甘く見すぎだ。

 二人ともオーラで身体能力を強化しているので、なんとか耐えているようだが、かなり辛そうに見える。

 バスを降りてから徒歩で山道を四時間も歩けば、さすがに疲れるか。


「もうちょいで、付くはずだから辛抱してくれ」

「はーい」

「うぃぃぃ」


 カーゴパンツのポケットから印刷した地図を取り出して確認をする。上空写真を拡大した物なのだが、山しかない。道なんて何処にも見当たらないので、そっとしまう。

 山に入ってからはこの地図が意味を成さない。


「山奥にぽつんと建っている家を捜す、みたいな番組、あらへんかったっけ」

「あるある! お婆ちゃんが大好きで観てたよ」


 無駄話ができるぐらいの余力があるなら、まだ大丈夫か。





 その後、五分ほど歩き続けると、目的地が見えてきた。

 獣道に毛が生えた程度の道を進み続けて見えてきたのは、半球状の形をした家。森を抜けたら妙な形の家があるのは違和感というか、現実味が薄い。

 近くには小型のキャンピングカーがある。軽キャンと呼ばれていて最近人気の車種らしい。ちなみにこの知識はここに住む者から何度も聞かされた。


「なんか、想像とちゃうな。こういう所に建ってる家っちゅうのは丸太小屋か古民家が相場やろ。なんや、あの丸っこい家は」

「うわーっ、可愛いね!」

「あれはドームハウスと言うそうだ。特殊な材質で作られていて、軽くて頑丈らしい」


 これも当人から何度も聞かされていたので暗記してしまった。

 この場所も「いつか、遊びに来て下さい。穴の異能って農作業に便利そうですよね……。種蒔きの時期に是非!」と、断っているのにめげることなく何度も何度も誘われて。

 家の前にはかなり広い畑が広がっている。夏野菜が青々と茂り、水やりをしたばかりなのか水滴が残っていて、思わず唾を飲み込んでしまうぐらい美味しそうに見える。


「キュウリも、トマトも立派だね。あっ、肝心の七――」

「おや、こんな山奥にお客様とは珍しい」


 半球状の家の裏からひょこっと顔を出した男は、頭に麦わら帽子、首にタオルを巻き、農作業用の服装をした好青年。


「マジでこんな場所に住んどったんか」

「訓練所の様子と全然違うね」


 二人は半信半疑だったようで、当人を前にして驚いた表情をしている。


「もしかして、登山中に迷子にでもなったのですか? 一人は軽装のようですが、山を甘く見たらダメですよ」


 すみれと俺は登山用の格好をしているが、望だけは普段着。そこを指摘したのだろう。


「いや、俺たちはあんた――七節六巳ななふしろくみに会いに来たんだ」


 そう、俺たちは七節六巳に会うため、こんな山奥にまでやって来た。


「私に? もしかして、父の会社関係の人でしょうか? 申し訳ないですが、会社に戻る気はありませんので。ここで悠々自適な一人暮らしをすると決めまして。大自然に囲まれ、自給自足の生活。これこそが、人として理想的な生き方だとは思いませんかっ!」


 熱を感じる語りだ。

 両腕を大きく広げて、その場で一回転している芝居がかった動作は大げさだが、様になって見えるのは彼の整った容姿のおかげか。

 まるで演劇を観ているかのような感覚に陥りそうになる。


「ここは元々、気象観測所があったから電気水道ネットも完備していまして、インフラ整備もバッチリなのです。実は住み心地抜群で、キミたちも移住したいなら大歓迎。土地だけは余っていますので、ご応募お待ちしております」


 この世界では初対面なのに勧誘してくるのか。


「申し訳ないが、移住希望者じゃない。俺たちはあんたに会いに来たんだ。仲間になってもらうために」


 望と再会したあの日、今後の計画をいくつか立てたのだが、その内の一つが有力な仲間の増員。

 このままでは、異世界からの侵略を止めるどころか、昼想に化けたヤツにすら手が届かない。戦力として有望な人材を早めに仲間に引き入れ、共に能力を鍛えて対抗手段を増やす必要がある。

 白羽の矢を立てたのが、Aクラスでトップの成績を収めていた七節六巳。緑のオーラと三つの異能を所有することになる人材。

 そんな彼を早い内に育成することで、実力が飛躍するはずだ。


「その言い回し。なんか、いいですね……。最近読んだ漫画で似たような展開がありまして。少し興味が湧きました。自慢の漬物とお茶を用意しますので、詳しく聞かせてもらえますか」


 まだ詳しい説明をまったくしていないのに乗り気に見える。

 ……そういや、自力で分身の術を覚えるぐらい漫画アニメ好きだったな。





「にわかには信じがたい話ですが、それを見せられたら何も言えませんね」


 黙って俺の説明を聞いてくれた七節の目の前で、オーラを放出して【穴】を発動させた。

 七節は目を限界まで見開いた後、穴に駆け寄って興味深げに覗き込み、腕を突っ込んだかと思えば、自ら穴に飛び込んで「うわぁぁぁ」と感動の声を漏らしていた。

 しばらくすると穴から這いずり出て、ウッドデッキで用意された漬物を食べている俺の隣に座り、さっきの言葉だ。


「信じてくれたか」

「これを見たら誰だって信じざるを得ませんよ。でも、異世界からの侵略ですか。そんな漫画みたいなことが実際に起こるとは。ですが、私はオーラも出ないし、異能とかも使えませんよ? それに山から下りる予定もありませんし」


 深淵に近づき、異界の空気を浴びない限りオーラにも異能にも目覚めない。

 山奥で引きこもり自給自足の生活をしている七節には、深淵との接点がない。……今は。


「この話は七節本人から聞いたのだが、今から二日後に山崩れが起きて、ここ一帯が埋まる」

「えええええええっ⁉」


 驚くのも無理はない。

 七節の家は山の斜面にあるのだが、深淵が開いた影響もあるのか、二日後の大雨で地盤が緩み山崩れが発生。家も畑も土砂に埋まる。

 本人は偶然、買い出しで山を下りてホームセンターにいたから無事だったが、住む場所をなくした七節は深淵付近に軽キャンピングカーを停めて、過酷な車中生活をしばらく続けることになる。


「そ、そんなぁ。父さんの下から逃げ出して、二年を費やし、やっとここまで生活環境を整えたというのに、それがすべて……」

「なんや、おとんと仲が悪いんか。この沢庵めっちゃ旨いな」


 ボリボリと漬物を囓りながら、望が話に割り込んできた。


「褒めていただき、ありがとうございます。漬け具合もいい感じにできたと自負しているので。父さんは、まあ、とある会社の社長でして。幼い頃から英才教育と称して経済学や帝王学を叩き込まれ、他にも束縛も多く躾がかなり厳しくて。お恥ずかしい話ですが、それが嫌になって逃げ出して今に至ります」


 大きなため息を吐くと、自嘲気味に笑う。

 彼は同じクラスメイトの金切の祖父が会長をしている、KANAKIRI建設と同規模の大企業の跡取り息子だったはず。

 周囲からの期待と自由のない毎日に疲れ絶望して、父からも会社からも逃げ出してここに引きこもったそうだ。


「そっか、三年後に侵略戦争が始まり、そして、漫画やアニメで夢見た特殊な能力に目覚めることになるんだ、この僕……私が」


 一人称を言い直したのは聞かなかったことにしよう。少しでも大人ぶりたい年頃なのだろう。もう二十歳半ばらしいが、中身は六十過ぎの俺から見れば、まだまだ子供だ。


「どうだろう。異世界人からの侵略を防ぐために力を貸して欲しい」


 俺は正面から七節を見据え、茶化すことなく真っ直ぐな気持ちを伝えて手を差し伸べる。

 足下に視線を向けていた七節は勢いよく顔を上げると、力強く俺の手を握り返してくれた。


「喜んで。悪に立ち向かうヒーローになれるチャンスを逃すほど、私はまだ大人じゃないので!」


 真っ白な歯を輝かせて破顔した七節は、心から嬉しそうに見えた。


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