エピローグ
「あれまあ、行ってしもうたわ。この落とし前、どうつけるおつもりですか?」
深淵を覗き込み、これ見よがしに大きなため息を吐く神無月。
「どうもなにも。別の世界の自分が苦労するだけで、自分は関係ない」
「そやかて、上への報告はどないしはります?」
「【穴】の異能持ちはいなかった、で構わない」
彼がいた証拠も何もかも一年後には消滅する。侵略を娯楽としてしか考えていない、暢気な連中に気付かれることはないだろう。
「あいたたた。リーダー、いたかったよぉ」
「それは、すまなかったな」
咄嗟に弾き飛ばされて地面に突っ伏していた日輪が、頭を掻きながら文句を口にしている。
まさか、埋めていた日輪を再利用して邪魔をしてくるとは。完全に意表を突かれた。
「あんなに面白い敵を逃したのはもったいない。平行世界の自分が羨ましいよ」
時間逆境が成功していると仮定するなら、石川守人たちは自分たちの存在を理解した状態でもう一度やり直すことになる。
自分たちの正体を把握済みで、どのような対策を練り挑んでくるのか。今回よりも手強くなった彼らを相手できる、別の自分が羨ましくて仕方がない。
「それで、ボクたちはどうするの?」
「当初の予定通り、一年後まで訓練生の振りをして平和に暮らせばいい」
「ほんでもって、その後は……侵略に加わればええんですか」
「そうだ。同胞と共に地球を滅ぼす。予定に何も変わりないさ」
予備の【ワームホール】持ちを探すのも目的の一つだったが、それはあきらめるしかない。
彼らがいなくなったことで、地球征服が容易になってしまった。
「はああああぁぁ。残念だ、実に残念だ。強敵と書いてライバルと読む相手がいないのは……寂しさを通り越して虚しい」
空を見上げ、上半身を仰け反らせ両腕を広げる。
悲運に嘆き悲しみ、日光を全身に浴びる姿が絵になっていることだろう。
「今回はいつにも増して、えらい芝居がかってはりましたなぁ」
「いつもより、たのしそうだったよね」
部下の二人が言う通り、侵略戦争前の偵察でここまで楽しめたのは久方ぶりだ。
この後が本番ではあるが結果はわかりきっている。ただの掃討戦に過ぎない。
「次の侵略地に期待するしか――」
落胆の言葉を呟いている最中に、違和感を覚えて口を噤む。
慌てて周囲を見回すが、先程までと何も変わりなく見える。
「どないしはったんですか」
「なんかあるの?」
部下二人が自分と同じように周囲に鋭い視線を飛ばしている。
「そう……きたかっ」
自分の視線が一点を捉えて静止した。
先程まで何もなかった空間に突如、円が現れる。
それは自分がすっぽり入れるぐらいの真円で、円の縁からは――紫色の煙のような気体が漏れ出ている。
今、自分はどんな状態だ。驚いているのか、怯えているのか。それとも歓喜に震えているのか。
紫に縁取られた円。中心部の空間が歪み渦を巻く。
そこから、真っ先に現れたのは指。徐々に腕、頭、体が押し出されるように――
「ふははははははっ! 最高じゃないか、この世界も! まだ、まだ、楽しませてくれるようだ!」
これにて第一章終了です。
二章の開始は早くて一週間後遅くても二週間後には始めたいなー、といった感じです。
区切りもいいので、よければ感想や応援してもらえると助かります。




