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墓守は異世界人の墓穴を掘る  作者: 昼熊


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十一話

 七節が軽く腰を落として肘を曲げ、腕を胸元まで上げると、右足を後方へとずらす。

 格闘技の経験があるのか、堂に入った構えだ。

 迎え撃つ豪先生は腕を組んだ状態で微動だにしていない。

 七節の体から緑のオーラが噴き出す。量も質も中々。いや、目覚めたばかりなのを考慮すれば、相当な実力者と言える。


「大自然って感じの色だよね」

「めっちゃ緑やから、目に優しいわ」


 すみれと望のずれた感想に思わず苦笑する。

 確かに深緑を思わせるオーラの色だが。緑ということは黄と青が交ざったと考えるべきか。俺のバイオレットオーラが赤と青を混ぜた色のように。

 黄は素早さ特化。青は回復や治療。素早く動けて回復力もある、と考察は可能だが。

 注目の一戦だ。一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らす。

 七節の体が更に沈み、前屈みになる。


「行きますよ」


 瞬時、その姿が消えると豪先生の懐に飛び込んでいた。


「速い」


 思わず感嘆の声が漏れた。俺の目はなんとかその動きを捉えられたが、この場にいるほとんどの人は何が起こったのかも理解できていない。

 それ程までに素早い、神速の踏み込みだった。

 突進の勢いを活かして放たれる右手の突き。その一撃は豪先生の胸を捉え、オーラ同士の接触により衝撃音が響く。


「わわわわわわっ!」

「うっひょーーー」


 驚く二人を尻目に冷静に観察を続ける。


「おー、ずしんとくる鋭い一撃じゃないか」

「笑顔で言われても説得力ないですよ」


 目の前に飛び込んできた七節を平然と見下ろす、豪先生。

 慌てて飛び退いて間合いを確保しながら、豪先生を中心として円を描くように動き始めた。

 その動きは徒歩から駆け足、そして全速力へと。


「うわー、凄いね。体が幾つにも見えるよ! 漫画とかアニメでこういうの見たことある!」

「おおっ、分身の術みたいやな!」


 二人は観戦者気分でかなり盛り上がっている。

 実際、高速の動きにより七節の体が何体にも分身しているかのように見えている。

 これはヘリコプターのプロペラが高速で回転することで、まるで止まっているかのように見える現象と同じ――ストロボ効果か。


「生身でこれができちまうとは、面白いヤツだ」

「昔から忍者に憧れがあったので。日夜特訓の成果ですよ」


 豪先生の言う通り、七節は意外と面白いヤツなのかもしれない。

 激しく砂煙が舞う中、分身した七節が豪先生に襲いかかった。……が、豪先生に頭を掴まれて宙ぶらりんの状態だ。


「分身までは良かったが。まあ、飛びかかるときは一人だからな。見極めは難しくない」

「それでも、かなりの目眩ましになったと思うのですが」


 脚が完全に浮いた状態で悔しげに反論している。


「仕掛けてくるタイミングと場所はある程度は予想が付く。まず、視野の範囲外からじゃないと、折角分身したのに意味がない。人の視野は水平方向に180~200度。俺は訓練しているからもうちょい見えるが。となると、見えない角度の方が少ないだろ」

「慢心で私の視野が狭まっていた、ということですか」

「上手いこと言ったつもりか。まあ、それもあるが、この程度なら目を瞑っていても余裕だがな」


 この発言は嘘じゃない。人を凌駕するスピードではあったが、オーラで身体能力が跳ね上がっている豪先生は、彼の動きを完全に捉えていた。


「その分身を活かしたいなら、接近戦に持ち込まず遠距離の方が有効だ。それなら足を止めずに仕掛けられるだろ。よっし、もう一回やってみろ」


 豪先生が軽く腕を振るうと、解放された七節が宙を舞うが優雅に着地した。


「わかりました!」


 再び分身を始めると、円の中心に居る豪先生に右手を伸ばす七節。

 手の平に光の粒子が集まっていき、目映い光を発し始める。


「私の異能【光】です。さあ、避けられますか!」

「よし、こい!」


 豪先生の声が弾んでいる。あの人、戦闘狂なところがあるから、この戦いを心から楽しんでいるのだろう。

 分身から一斉に放たれる一条の光。まるでレーザー光線だ。

 全方位から放たれるレーザー。避ける隙間は何処にもないが、端から避ける気はないか。

 レーザーが命中すると目も眩むような光が発生して、俺も思わず目を閉じた。

 ゆっくりと目蓋を開けると、跡地には仁王立ちの豪先生がいる。

 怪我は……していない。防がれたようだが、何故か渋い顔をして唸っている。


「おい、七節」

「なんでしょうか?」


 足を止めて首を傾げる七節。


「その光線、攻撃力ないだろ」

「あっ、バレましたか。はい、光るだけですね【光】だけに」


 悪びれもせずに言い切ったな。

 【光】の異能はその名の通り光るだけの能力なのか。目眩ましや暗い場所では便利だが、攻撃には向かない。


「他の異能はなんだったか」

「【水】と【土】ですね」


 クラスメイトの情報は公開されているので事前に知ってはいたが、【光】は一番期待していたのに、このオチか。だが、残り二つにまだ希望は持てる。


「そっちも体験しておきたいところだが、一人に時間を取り過ぎた。それはまた別の機会とするか。交代してくれ」

「ありがとうございました」


 軽く頭を下げて、豪先生から離れる七節。

 動きは及第点どころか期待を超えてきた。だが、異能の判断が難しい。それにまだ二つ見ていない。仲間に引き込むかどうかは保留しておこう。


「さて、残りは誰だ」


 まだ、豪先生に挑んでいないのは三名か。

 最後は目立ちそうだから、今のうちにやっておこう。


「次、いいですか」

「おう、構わないぞ。お前は石川守人か。紫オーラに異能持ちだったな」

「はい、そうです」


 やはり、俺のことも把握済みか。

 七節のおかげで存在感が薄れてはいるが、特殊な色のオーラに異能所持。目立つなと言う方が無理だろう。

 適量のオーラを放出しながら、豪先生の前に立つ。


「量と質はそれなり、か。にしては、やけにスムーズにオーラを放出したな」

「こんな夢のような能力に目覚めたら、そりゃ、練習しまくりますよ」


 おっと、目ざといな。細心の注意を払って対応しなければ。


「うんうん、わかります。憧れのバトル漫画の主人公になった気分ですから」


 意外にも俺の発言に同意した七節が、大きく頷いている。

 分身の術といい、もしや漫画アニメ好きか?


「気持ちはわからんでもない。現実とは思えない能力なのは確かだ。万能感に酔い、物語の主人公になった……なんて勘違いする輩もいるんじゃないか?」


 意味ありげな視線を訓練生に飛ばす、豪先生。

 何人かがすっと目を逸らす。その中には、すみれと望と半グレリーダー吉田も含まれている。


「お前は……不自然なほどに自然体だが」

「年寄りみたいに落ち着いている、とは良く言われますよ。お爺ちゃんの影響ですかね」


 中学に入る前に両親が亡くなり、祖父に引き取られ大学に入るまで一緒に過ごしていた。

 覚醒者の身辺情報は隅から隅まで調べ尽くしているはず。完全な作り話で誤魔化すより、真実に基づいた嘘を口にするべきだ。


「なるほどな……」


 口ではそう言いながらも納得はしていないな、あの顔は。


「異能は【穴】か。変わり種の能力だが」

「そうなんですか? 異能というのがいまいちわかってないので」


 しらばっくれて首を傾げる。


「まあいい、戦えばわかる。出し惜しみするなよ、かかってこい」


 相変わらず腕を組んだ状態でどんと構えているだけだ。

 下手に手を抜くと怪しまれる可能性が高い。ならば、オーラの量はかなり抑えつつ、動きは本気でいくか。

 深く考えずに正面から突っ込み、正拳を繰り出す。

 豪先生の腹に命中したが、いとも簡単に弾かれた。オーラ量が違いすぎるか。


「どうした、足が止まってるぞ」


 反撃がないなら、遠慮なくいかせてもらう!

 脇腹、喉、側頭部に手刀、蹴りを素早く叩き込む。


「ほう、型にこだわらない、キレのある攻撃だ」


 奴隷生活を続けながら、ほぼ毎日、異世界人のストレス発散目的の殴り合いに参加させられ、いたぶられ続けてきた。

 四十年もの間、何もせずに殴られ続けていたわけじゃない。

 むしろ、攻撃が通らないのに必死になって反撃をする俺を眺めてあざ笑うのが目的の一つだったので、オーラを抑えて常に本気で攻撃を叩き込んでいた。

 相手をサンドバッグに見立て、技を鍛える日々。相手にしてみれば、うるさい蚊が飛んでいるのと変わらなかっただろう。

 それでも、いつか、いつか、一矢報いるために、歯を食いしばり、牙を磨き続けていた。


「ふんっ!」


 掌底を顔面に伸ばした瞬間に、豪先生が仕掛けてきた。

 初めて躱すと同時に、右腕を横に払う。

 避けられないタイミングではないが、あえて肩で受ける。

 視界が一気にぶれて凄まじい速度で横に流れていく。

 完全に体が宙に浮いた状態で吹き飛ばされるが、地面に落ちる瞬間に受け身を取って転がる。


「殴られる瞬間に自ら飛んで勢いを殺したか」


 そんな俺を見て感心している豪先生。

 しまった……まともに喰らうつもりが、いつもの癖で衝撃を緩和してしまった。

 異世界人の攻撃を如何に派手に受けて、痛がっている素振りをして相手を喜ばせるかが常に頭にあった。やられ役のスタントマンのような日々を過ごしたせいで、身に染みついてしまった悲しい技能だ。


「お前、実力を隠しているな?」


 睨みつける豪先生の眼力が半端ない。

 視線を向けられていないというのに、他の訓練生たちが怯えている。……まあ、俺にはなんの影響もないが、頬を引きつらせて冷や汗の一つでも垂らしておこう。

 びびる芝居はお手の物だ。……情けない話だが。


「買いかぶりすぎですよ」

「そうか、なっ!」


 言い終える直前に豪先生の姿が轟音と粉塵と共に消えた。

 正確には地面を【怪力】で蹴りつけた反動で地面すれすれを跳んだだけだが。

 目の前には豪先生の厳つい顔。

 それに驚く暇もなく空気を切り裂き迫り来る拳。今のオーラ量でこれを受けたら、ただでは済まない。最低でも骨折、いや、下手したら命に関わる!

 ならば!


「開けっ」


 豪先生の着地ポイントに穴を掘ることで、体勢が大きく崩れた。


「なにっ⁉」


 拳は俺の脇腹の横すれすれを通り過ぎ、地面に激突。

 土埃と爆風が発生して、余波だけで俺の体が吹き飛ばされた。

 派手に地面を転がりながら、なんとか立ち上がる振りをする。

 俺がさっきまでいた場所は地面が陥没して、小さなクレーターができあがっていた。


「俺を殺す気ですか」


 一応、文句を言わせてもらう。


「お前なら対応できると信じていたが、こうきたか。これが【穴】の異能か。いやはや、Aクラスは期待できそうだ。大いに結構! っと、時間が押しているな。石川守人、お前はここまでだ」

「ありがとうございました」


 軽く頭を下げながら、内心では胸をなで下ろしていた。

 これ以上続けていたら厄介なことになっていた。実力を見せつけるのはまだ早い。密偵の異世界人二人は倒したが、別の異世界人がここに紛れ込んでいない保証はない。――教官や訓練生の中にも。

 常に警戒をして実力はひた隠す。油断するな、最良の策を考えろ。

 地球が滅ぶかどうかは俺の手腕にかかっている。


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