十話
望を皮切りに次々と訓練生が挑んでいくが、あっさりと撃沈していく。
おっと、次は半グレリーダーか。
「頑丈さが自慢のようだが、俺の【怪力】に耐えられるか?」
そういや、こいつの所持している異能は【怪力】だったな。オーラは土色で防御特化。組み合わせとしては悪くない。
前の世界では実技で散々偉そうにしていたが、あのときは訓練担当が豪先生ではなかった。こいつは豪先生の実力を把握していない。
「ほう、【怪力】持ちか。そりゃ、期待大だな。じゃあ、わしと力比べでもするか」
半グレリーダーの前までゆっくりと歩み寄った豪先生は、両腕を広げてから両手を前に突き出す。
その動きに応えて半グレリーダーも両手を伸ばし、二人は手を合わせて指を絡ませた。
「プロレスのワンシーンみたいやな」
「手四つ力比べか」
いつの間に復活したのか、俺の隣であぐらを組んで呟く望の言葉に反応する。
「体は大丈夫なの?」
あの勢いで叩き付けられた望の体を心配する、すみれ。相変わらず、優しいな。
「平気、平気。見た目は派手やったけど、加減してくれたみたいやで」
常人なら大怪我か下手したら死んでいるが、オーラが扱える覚醒者なら問題ない。それ程までに覚醒者と常人の力の差は大きいのだ。
「そんなことより、見とかんでええんか? めっちゃ踏ん張ってるで」
望に促されて二人の力比べに集中する。
一見、拮抗しているかのように見えるが……豪先生は余裕の表情。
反面、半グレリーダーは全身の筋肉を膨張させて汗だくだ。顔面は真っ赤で歯を食いしばり、血管が浮き出ている。
やはり、こうなったか。豪先生も同じく【怪力】を所有している。同じ異能ならまったく同じ能力だと誤解しがちなのだが、実は違う。
能力に目覚めた瞬間から、異能の力には差がある。更に何度も使用して鍛えることで威力や精度が増していく。
他にも加えるなら、オーラは身体能力を飛躍的に向上させるが、その仕組みはかけ算。ベースとなる肉体の強さをオーラは数倍に跳ね上げてくれる。
純粋な肉体の能力を数値に例えて、半グレリーダーが2とすれば豪先生は倍の4ぐらいか。そこに同じオーラ量と仮定として、かける2をする。4と8では結果が見えている。
実際はオーラも豪先生の方が数倍上。その力の差は計り知れない。
つまり、半グレリーダーとは格が違う。
「鍛え方が足りん。所詮は井の中の蛙。上には上がいることを知るべきだ。不良集団のリーダーに祭り上げられて楽しかったか? 吉田 大君」
「ふぐがあああああああっ‼」
片膝を突いて懸命に耐えてはいるが、そろそろ限界か。
そのまま地面に屈服させられて解放された。荒い息を吐いたまま苦虫を噛みつぶしたような顔で、その場から離れている。
「たかし、という名前なのか」
「気になるところそこかい」
「クラスメイトの名前ぐらい覚えておいた方がいいよ?」
素直な感想を述べたら、二人からほぼ同時にツッコミが入った。
あいつは半グレのリーダーとしか認識していなかったからな。
「次は誰だ」
「じゃ、じゃあ、私行ってくるね」
残りが少ないことを知って、嫌なことはさっさと済まそうとでも考えたのか、腰の引けた状態のすみれが豪先生の前に立った。
「花蓮 すみれだったか。確か青のオーラで妙な異能……【譲渡】を所持していたな」
「は、はい。優しくしてください」
各自の能力は訓練所の関係者とクラスメイトには伝わっている。当然だが、その中に教官も含まれている。
もし、すみれが過剰に傷つけられるような真似を豪先生がしたら、全力で助けに入ろう。
「その能力で殴り合うわけにもいかんか。青は回復や癒やしの力。俺よりも同じオーラの静から習った方がいいだろう」
直接戦わなくて済みそうなことにほっとして、すみれは安堵のため息を吐いている。
「その異能は使えるのか?」
「えっと、一応は」
「じゃあ、試しにやって見せてくれ」
「わかりました」
豪先生に促されて、すみれはポケットからハンカチを取り出した。
ハンカチをぎゅっと握りしめると「譲渡」と小さく呟く。
すると、手の中のハンカチが一瞬にして消えた。
「ん? 消えたが……それだけか」
「あの、先生。右手の中を見てください」
豪先生が握りしめていた手を開くと、そこにはすみれのハンカチがあった。
「さっき握っていたハンカチが何故わしの手に?」
「その、ですね。私の異能は……自分が手にした物を相手に渡す力です」
「それ故に譲渡か」
一見、ただの手品にしか見えないが、これが新たな力に目覚めた【譲渡】の力。
あの入所式の日。俺が渡した【譲渡】は元々の所有者であった、すみれの【譲渡】と融合。
そもそも彼女のものなので異能を一つ失ったことに文句はない。そんなことよりも融合した結果、彼女の異能に何か変化や異変がないか、そのことが気になった。
能力パネルで確認したところ、【譲渡】の説明はこうなっていた。
【自分の能力を相手に渡すことが可能。手にした物を相手に渡すことが可能】
以前は前半の【自分の能力を相手に渡すことが可能】ここまでだった。融合後、新たに【手にした物を相手に渡すことが可能】と説明文が追加されていた。
結果、今のような芸当が可能となったのだ。俺の【穴】に派生の【ワームホール】があるように、彼女の【譲渡】も新たな力に目覚めた。
以前の彼女は自分の異能が何の役にも立たないことに苦悩していた。なので、この変化は嬉しい誤算と言える。少しでも彼女の力になればいいが。
「なに、あの異能。ただの手品じゃない」
「地味で使い道のない、外れ異能みたいだ」
失笑している二人の訓練生。
こいつら前回ではテレビの露出も多い優等生だったが、今回は七節六巳の眩すぎる存在に呑み込まれてパッとしない。
現在の立場に少しは同情するが、すみれをバカにしたのは万死に値する。その暴言と顔を、しっかりと覚えておくぞ。
「中々、面白い異能だ。やりようによっては、かなり使えるかもしれんな。静、すみれにオーラの扱い方と異能の訓練を頼んでいいか」
「了解しました、お爺ちゃん」
姿勢を正して敬礼した後に、茶目っ気のある笑顔でウインクをする静。
「お爺ちゃんはやめんか。ここでは豪先生と呼ぶように」
と注意しながらも頬が緩んでいる。やはり、孫に対して激甘だ。
「豪先生。次、お願いしてもいいですか」
「おっと、本命のご登場か。いいぞ、胸を貸してやる」
次に名乗り出たのは七節六巳。
俺たちと同じ白い運動着だというのに似合いすぎだ。まるで、七節の為にあつらえられたかのように着こなしている。
「イケメンは何を着ても似合うのぉ、やだやだ。あの薄っぺらい笑顔も癇にさわるわ」
「僻むな。容姿なんて年を経れば劣化していくものだ。だが、内面は年を経る程に輝きを増す。見た目に捕らわれず、内面を磨くことだ」
「うんうん。中身がとっても大事です」
「たまに爺ちゃんみたいに説教臭くなるのは、なんなんや」
すみれは素直に感心してくれている。望は肩をすくめて皮肉めいた表情だ。
「世界初の緑オーラか。おまけに異能も三つあるのか。こりゃ楽しみだ」
「ご期待に添えると良いのですが」
圧倒的な力を見せつけてきた相手を目の前にして、堂々たる態度の七節。
豪先生の実力は把握済みだが、七節の本気が見られるのか。
「くっそ、これ動画配信したらPV爆上がり間違いなしやのに! めっちゃ稼げるチャンスをみすみす逃すなんて、悔しすぎるわ!」
「スマホは没収されてるから、仕方ないよ」
地団駄を踏んで悔しがる望を静が慰めている。
確かに注目度の高いこの戦いを配信したら、視聴者数がとんでもないことになるだろうな。
この一戦で七節の実力を見極める。未来に希望が持てる覚醒者なら、秘密を打ち明かしてこちらの陣営に組み込むことも考慮すべきだ。
もし、予想を凌駕するほどの実力者なら……。
「この世界が救われるなら――すみれが救われるなら、お前が物語の主人公でも構わない。だから、俺の期待なんて軽く超えてくれよ」




