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箱庭のネメシスは恋を知る  作者: 白鷺凛
旅立ちの日
3/7

彼女

はじめまして、「箱庭のネメシスは恋を知る」を読んでくれてありがとうございます!


この物語は毎日更新していく予定です。


気軽に感想やコメントを書いてくれると、めちゃくちゃ励みになります!


それでは、ネメシスと少年の冒険、どうぞお楽しみください。

第三話:瓦礫の街を吹き抜ける風は、常に死の匂いを孕んでいる。


鉄が焼ける臭い。

焦げたコンクリート。

乾ききらない血。


そして——人間の絶望。


それら全部が混ざった、吐き気のする空気。


英世は無言で歩いていた。


靴底が砕けたガラスを踏む。

ぱき、ぱき、と軽い破裂音。


その隣を、白銀の少女が進む。


イザナギ。


足音がない。

呼吸もない。

感情も聞こえない。


世界で唯一の「無音」。


それだけが、今の英世には救いだった。


「……なあ」


前を向いたまま言う。


「お前は、いつから“そこ”にいた?」


「質問の意図を解析中……稼働時期についての確認ですか」


「ああ」


「……私の稼働開始は、“空が死んだ日”より五年前です」


英世の足が止まった。


五年前。


まだ世界が普通だった頃。

学校があって。

ニュースが平和で。

神も、モンスターも、何もなかった時代。


「神が来る前から……お前は作られてたのか」


「肯定します」


淡々と。


「ネメシス計画は、“世界の異常”が確認された時点で開始されました」


「……異常?」


「説明のため、記録データの共有を提案。脳内投影を開始します」


視界が白く弾けた。


——知らない記憶が流れ込む。


地下施設。

幾重もの隔壁。

無機質な会議室。


父、国守世一。


『世界にバグが出ている』


モニターに映る資料。


教科書の内容が一夜で変化。

存在しない事件を全員が記憶。

昨日までいた人間が、最初から存在しなかったことになる。


『まるで誰かが、世界を上書きしている』


さらに。


存在記録のある村が、地図から消失。

だが行政データと写真だけが残る。

住民の記憶だけが改ざんされている。


『これは自然現象ではない』


『人類の認識そのものに干渉する上位存在がいる』


『我々はそれを——神と呼称する』


そして。


『対抗手段として、ネメシス計画を開始する』


ガラス越し。


白銀の少女。


眠るイザナギ。


『神に干渉されない個体を作る』


『観測し、抗い、排除するための対神決戦兵器を』


映像が途切れた。


現実に引き戻される。


膝が崩れた。


「……っ、は……」


吐き気が込み上げる。


世界は。

ずっと前から壊れていた。


その時。


ふと。


一つの記憶が浮かんだ。


「……待て」


喉が乾く。


「……心当たりがある」


イザナギが視線を向ける。


「具体例の提示を要請します」


「中学の時だ」


三年の春。


クラス替え初日。


黒板の名簿。


《3年B組 31名》


去年は30人だった。


増える理由なんてなかった。


しかも。


知らない名前があった。


明人 蓮


誰だ、それ。


周りに聞いた。


『ずっと同じクラスじゃん』

『昨日も話してただろ?』


笑われた。


でも。


どうしても思い出せなかった。


顔も。

声も。

席も。


何一つ。


なのに。


卒業アルバム。


修学旅行の写真。


文化祭。


全部。


そいつが写っていた。


自分の隣で、笑っていた。


「……俺だけ、知らなかった」


教室で一人だけ、世界から切り離されたみたいだった。


それなのに。


数日後。


違和感は消えていた。


普通に話していた。


自然に思い出せていた。


まるで。


——後から、記憶を書き足されたみたいに。


沈黙。


風が瓦礫を転がす。


「……あれも」


英世は呟く。


「神の干渉だったってことかよ」


「可能性は高いです」


あっさりと。


世界の気味悪さが、現実味を帯びる。


遠い話じゃない。


もう、とっくに。


自分は壊されていた。


英世は乾いた笑いを漏らした。


「……最悪だな」


父も。

神も。

世界も。


「俺の人生、最初から実験台かよ」


「マスター」


イザナギが跪く。


「あなたは不可欠な個体です」


「慰めになってねえよ」


立ち上がる。


赤黒い空を見上げる。


「でもまぁ……」


唇が歪む。


「偶然じゃないって分かっただけマシだ」


生き残った理由。


周りから少し浮いていた理由。


全部。


「最初から、“神を殺すため”に残されてたってことだろ?」


「肯定します」


イザナギが隣に立つ。


無音。


唯一の静寂。


英世は歩き出す。


「行くぞ、イザナギ」


「了解しました、マスター」


少年と兵器は、瓦礫の街を進む。


それは希望でも救済でもない。


ただ。


世界を書き換える神へ抗うための、静かな反逆。


赤黒い空の向こうで。


何かが、こちらを見ている気がした。


——次は、お前の番だ。

第三話:完

今日の話を読んでくれてありがとうございました! ネメシスの世界、少しは楽しんでもらえましたか? 次回もどんどん展開していく予定なので、ぜひまた遊びに来てください!


感想や応援コメントも待ってます。✨️

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