彼女
はじめまして、「箱庭のネメシスは恋を知る」を読んでくれてありがとうございます!
この物語は毎日更新していく予定です。
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それでは、ネメシスと少年の冒険、どうぞお楽しみください。
第三話:瓦礫の街を吹き抜ける風は、常に死の匂いを孕んでいる。
鉄が焼ける臭い。
焦げたコンクリート。
乾ききらない血。
そして——人間の絶望。
それら全部が混ざった、吐き気のする空気。
英世は無言で歩いていた。
靴底が砕けたガラスを踏む。
ぱき、ぱき、と軽い破裂音。
その隣を、白銀の少女が進む。
イザナギ。
足音がない。
呼吸もない。
感情も聞こえない。
世界で唯一の「無音」。
それだけが、今の英世には救いだった。
「……なあ」
前を向いたまま言う。
「お前は、いつから“そこ”にいた?」
「質問の意図を解析中……稼働時期についての確認ですか」
「ああ」
「……私の稼働開始は、“空が死んだ日”より五年前です」
英世の足が止まった。
五年前。
まだ世界が普通だった頃。
学校があって。
ニュースが平和で。
神も、モンスターも、何もなかった時代。
「神が来る前から……お前は作られてたのか」
「肯定します」
淡々と。
「ネメシス計画は、“世界の異常”が確認された時点で開始されました」
「……異常?」
「説明のため、記録データの共有を提案。脳内投影を開始します」
視界が白く弾けた。
——知らない記憶が流れ込む。
地下施設。
幾重もの隔壁。
無機質な会議室。
父、国守世一。
『世界にバグが出ている』
モニターに映る資料。
教科書の内容が一夜で変化。
存在しない事件を全員が記憶。
昨日までいた人間が、最初から存在しなかったことになる。
『まるで誰かが、世界を上書きしている』
さらに。
存在記録のある村が、地図から消失。
だが行政データと写真だけが残る。
住民の記憶だけが改ざんされている。
『これは自然現象ではない』
『人類の認識そのものに干渉する上位存在がいる』
『我々はそれを——神と呼称する』
そして。
『対抗手段として、ネメシス計画を開始する』
ガラス越し。
白銀の少女。
眠るイザナギ。
『神に干渉されない個体を作る』
『観測し、抗い、排除するための対神決戦兵器を』
映像が途切れた。
現実に引き戻される。
膝が崩れた。
「……っ、は……」
吐き気が込み上げる。
世界は。
ずっと前から壊れていた。
その時。
ふと。
一つの記憶が浮かんだ。
「……待て」
喉が乾く。
「……心当たりがある」
イザナギが視線を向ける。
「具体例の提示を要請します」
「中学の時だ」
三年の春。
クラス替え初日。
黒板の名簿。
《3年B組 31名》
去年は30人だった。
増える理由なんてなかった。
しかも。
知らない名前があった。
明人 蓮
誰だ、それ。
周りに聞いた。
『ずっと同じクラスじゃん』
『昨日も話してただろ?』
笑われた。
でも。
どうしても思い出せなかった。
顔も。
声も。
席も。
何一つ。
なのに。
卒業アルバム。
修学旅行の写真。
文化祭。
全部。
そいつが写っていた。
自分の隣で、笑っていた。
「……俺だけ、知らなかった」
教室で一人だけ、世界から切り離されたみたいだった。
それなのに。
数日後。
違和感は消えていた。
普通に話していた。
自然に思い出せていた。
まるで。
——後から、記憶を書き足されたみたいに。
沈黙。
風が瓦礫を転がす。
「……あれも」
英世は呟く。
「神の干渉だったってことかよ」
「可能性は高いです」
あっさりと。
世界の気味悪さが、現実味を帯びる。
遠い話じゃない。
もう、とっくに。
自分は壊されていた。
英世は乾いた笑いを漏らした。
「……最悪だな」
父も。
神も。
世界も。
「俺の人生、最初から実験台かよ」
「マスター」
イザナギが跪く。
「あなたは不可欠な個体です」
「慰めになってねえよ」
立ち上がる。
赤黒い空を見上げる。
「でもまぁ……」
唇が歪む。
「偶然じゃないって分かっただけマシだ」
生き残った理由。
周りから少し浮いていた理由。
全部。
「最初から、“神を殺すため”に残されてたってことだろ?」
「肯定します」
イザナギが隣に立つ。
無音。
唯一の静寂。
英世は歩き出す。
「行くぞ、イザナギ」
「了解しました、マスター」
少年と兵器は、瓦礫の街を進む。
それは希望でも救済でもない。
ただ。
世界を書き換える神へ抗うための、静かな反逆。
赤黒い空の向こうで。
何かが、こちらを見ている気がした。
——次は、お前の番だ。
第三話:完
今日の話を読んでくれてありがとうございました! ネメシスの世界、少しは楽しんでもらえましたか? 次回もどんどん展開していく予定なので、ぜひまた遊びに来てください!
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