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箱庭のネメシスは恋を知る  作者: 白鷺凛
旅立ちの日
1/7

天罰と邂逅

はじめまして、「箱庭のネメシスは恋を知る」を読んでくれてありがとうございます!

この物語は毎日更新していく予定です。

気軽に感想やコメントを書いてくれると、めちゃくちゃ励みになります!

それでは、ネメシスの冒険、どうぞお楽しみください。

第一話:空は、『あの日』死んだ。


 それだけで十分だった。


 理由なんて、あとからどうでもよくなる。


 ただ、青かったはずの天蓋は、熟れすぎた果実みたいに赤黒く濁り、ガラスのような亀裂が無数に走っていた。


 そして。


 割れ目の奥から、何かが落ちてくる。


 人ではない。


 獣でもない。


 説明不能の異形。


 ——モンスター。


 神が地上に放った「掃除係」。


 後に人々がそう呼ぶことになる存在だ。


 そいつらは、文明を、歴史を、日常を、紙屑みたいに踏み潰していった。


     ◆


「……うるさい」


 国守英世は、瓦礫の山となった旧永田町の中心で耳を塞いだ。


 爆発音がうるさいわけじゃない。


 悲鳴がうるさいわけでもない。


 もっと内側。


 脳の奥。


 直接、掻き回されている。


【死にたくない】

【助けて】

【痛い】

【なんで私が】


 感情。


 他人の感情。


 それが濁流みたいに流れ込んでくる。


 黒い泥の奔流。


 英世の特異体質——『共感覚的読心』。


 周囲の人間の心が、強制的に聞こえる。


 切ることも、閉じることもできない。


「黙れ……」


 頭が割れそうだ。


 しかも最悪なのは、それだけじゃない。


『完全記憶』。


 一度見たもの、聞いた声、嗅いだ臭い。


 全部、消えない。


 永遠に残る。


 つまり。


 この地獄は、一生再生され続ける。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れた。


 拷問かよ。


     ◆


 視界の先。


 避難民の集団が霧の向こうに希望を見つけたように顔を上げる。


『おーい! 助けてくれ!』

『こっちだ、早く!』


 救助の声。


 人間の声。


 だが英世には分かる。


 色が違う。


 感情がない。


 あるのは、ただ一色。


 ——飢餓。


「騙されるな! そいつは人間じゃない!」


 叫ぶ。


 誰も止まらない。


 次の瞬間。


 霧の中から現れたモンスターが、人々に飛びかかった。


 悲鳴。


 混乱。


 逃げ惑う足音。


 地獄絵図。


 英世は動かない。


 助けない。


 ただ観察する。


(覚えろ)


 どうせ忘れられない。


 なら全部データにしろ。


 生き残るための材料に変えろ。


 それが彼の生存戦略だった。


     ◆


「……父上」


 瓦礫の向こうに、かつての記憶がよぎる。


 官邸の庭。


 薔薇を愛でる男の背中。


 現職総理大臣。


 そして自分は、その隠し子。


 表に出せない存在。


 便利な駒。


「あなたが守ろうとした日本は、もう終わりましたよ」


 世界が壊れた日。


 空が割れた日。


 あの“神”は言った。


『天罰だ。殺し合え。最後の百匹だけ飼ってやる』


 宣告。


 遊び。


 人類はただの娯楽。


(ああ、なるほど)


 妙に納得してしまった自分がいた。


 この世界は最初から、誰かの箱庭だったのだ。


     ◆


 その時。


 不意に。


 ——静寂が訪れた。


「……え?」


 ノイズが消えた。


 頭の中が、空っぽになる。


 感情が一切流れ込んでこない。


 初めての無音。


 初めての静寂。


 風の音が、こんなに優しかったなんて知らなかった。


 そして。


 轟音。


 空から何かが落ちてきた。


 衝撃波が瓦礫を吹き飛ばす。


 土煙の中心。


 銀色の閃光。


 そこに立っていたのは——


 一人の少女だった。


 白銀の長い髪。


 無機質な軍服。


 ガラスみたいな瞳。


 そして。


(……聞こえない)


 何も。


 怒りも。


 恐怖も。


 殺意も。


 感情が、存在しない。


 人間なのに。


 空白。


 完璧な無。


 英世にとって、それは世界で唯一の救いだった。


 少女が口を開く。


「……生存を確認。国守英世を識別」


 機械的な声。


「ネメシス計画所属、対神決戦兵器ネメシス個体名イザナギ。あなたを暫定マスターとして認証します」


「……は?」


 理解が追いつかない。


 だが。


 モンスターの群れが迫る。


 少女は片手を向けた。


「——排除」


 瞬間。


 空間が歪んだ。


 音もなく。


 光もなく。


 ただ。


 モンスターの群れが、存在ごと消えた。


 跡形もなく。


 まるで最初からいなかったみたいに。


「……なんだよ、お前」


「兵器です」


 少女は膝をつく。


「指示を、マスター」


 その姿を見た瞬間。


 英世の中で、何かが決まった。


 総理の息子でも。


 捨てられた子供でもない。


 もういい。


「……手を貸せ」


「了解」


 差し出された手は、冷たかった。


 人の体温じゃない。


 なのに。


 不思議と、安心した。


「神様」


 赤黒い空を睨む。


「お前の箱庭、壊してやるよ」


 少女の手を握り返す。


「イザナギ。君には感情はあるのか?」


「不要です。私は兵器です」


「……そっか」


 英世は小さく笑った。


「じゃあ、僕が教えてやる」


 絶望も。


 痛みも。


 そして。


「——神を殺す奇跡も」


 天罰の炎が降る世界で。


 少年と兵器は歩き出す。


 復讐のために。


 この世界を書き換えるために。


 ネメシスは、まだ恋を知らない。


(第一話 完)



今日の話を読んでくれてありがとうございました!

ネメシスの世界、少しは楽しんでもらえましたか?

次回もどんどん展開していく予定なので、ぜひまた遊びに来てください!

感想や応援コメントも待ってます✨

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