71曲目 リーダーとして兄として
「私は、ゴブリンですよ? 何の変哲もないゴブリンです」
しばらく沈黙していたリリアは、きょとんとした丸い目で答えてきた。
だが、その態度を見て、俺は疑いを強くした。
しばらくの沈黙があったということは、その間にどうするか考えていたってことだからな。そういう下手な真似が通じると思っているのか?
『リーダー、彼女のどこが怪しいというのですか』
『そうですぜ。ゴブリンには違いないでしょうに』
キーボとベスはリリアの味方のようだ。
まあ、幼い子どもだからその気持ちは分からなくはないが、ここは一度しっかり詰めておくべきだろう。
『いーや、お前はただのゴブリンじゃねえ。証拠はたくさんあるんだ』
『リーダー、一体何をもってそんなことを……』
俺の言い分に、キーボが苦言を入れてくる。いや、お前がそういうことを言うこと自体がおかしいな。マジで気が付いていないのか?
『リリアが普通のゴブリンじゃねえ証拠はいろいろあるんだ』
「た、例えば、なんですか?」
証拠があるというと、リリアが強がった態度で証拠を挙げろと言ってくる。
そうか、そこまでごまかすのなら、全部話してやろうじゃねえか。
『ブラックウルフと出くわしてきた時に渡してきた楽譜だな。あれからしてまずおかしい』
『あの楽曲がどうかしたんですかね、リーダー』
俺が一点目を挙げると、なぜかベスが疑問を投げかけてきた。
『あの楽曲はな、妹の友人の姉がリーダーをやってるバンドの曲なんだよ。俺たちとはライバル関係にあるバンドだ。お前らだって知らねえとは言わせねえぞ』
『うん? ……ああっ!』
俺が指摘すると、ベスもようやく思い出したようだ。
『それにだ。こっちの世界じゃ音楽が存在していねえ。そこで楽譜を出してこれるあたりがそもそもおかしいんだよ。教えたばかりの素人に、あんな見事曲は書けやしねえ』
「ギクッ!」
『今、ギクッていいやしたぜ、リーダー』
『ですねえ。何か思い当たる節があるということですね』
「ああ、もう……。なんでこういう時だけ勘がいいんですかね」
俺の指摘から、次々とリリアのぼろが出始めていく。ならば、とどめといこうか。
『それに、お前が使っている筆記用具。あれ、俺たちの世界の有名メーカーのやつだろ。こっちじゃ見ることのない品質と形状だからな、嫌でも目立つってもんだ。メロディたちは特に気にしてなかったようだが、俺たちはごまかせないぞ』
「う、ぐぐ……」
とどめの指摘をしてやると、リリアは実に悔しそうな表情をしている。
そうかと思えば、前髪をかき上げて大きく息を吐いている。
「ああ、もう。兄さんをごまかすことは無理だったかぁ……。ボールペンはやっぱりまずかったわね」
『えっ、兄さん?』
『ちょっと待ってくれ。このしゃべり方ってリーダーの妹さんなんじゃ?』
リリアの様子が変わると、キーボとベスは思いっきり驚いてやがんな。まあ、かくいう俺もまさかの正体に驚いたわけなんだがな。
『由利なのか、お前』
「そうだよ、兄さん。とはいっても、それが分かったのは、盗賊の一件の時なんだけどね。それまでは、私とリリアは別人だったのは信じてもらえる?」
俺が確認をすると、リリアは認めた上で正直に話をしてくれた。いや、まさか妹の由利とはな……。
「このマイクが、あの盗賊のアジトに落ちていてね。これを握った瞬間に、私とリリアの意識が急激に混ざり合ったの。おかげで、向こうに戻っても、私はリリアとしてのことをしっかりと覚えている。だから、兄さんたちの役に立とうと、いろいろ動いていたわけよ」
『なるほどねぇ……。あの楽譜も、友人を通じて手に入れたってわけか』
「そういうこと。どうやら、このマイクと接触させて眠ることで、向こうのものもこっちに持ってこれるみたいだからね。それを使って、メモ帳とかを持ち込んだの」
『不思議なこともあるもんですね』
なんとも信じがたいことだぜ。だが、正直に話してくれているんだし、信じるしかあるまい。
『それで、由利。向こうじゃ俺たちのことはどうなっているんだ?』
俺はドストレートに気になることをぶつけてみることにした。
俺の質問を受けたリリアは、なんともいえない厳しい表になっている。なんだか言いづらそうだな。
『無理にとは言わねえ。言えることだけでいいぞ』
「いえ、全部話しておいた方がいいでしょうね」
表情が表情だったので、俺はあんまり無理強いはしなかったが、リリアは覚悟を決めて全部話してくれた。
どうやら、俺たちは行方不明扱いになってはいるが、捜索は打ち切られてしまったらしい。落っこちたはずの崖下から俺たちの乗った車も見つかってないし、遺留品もまったくないみたいだからな。ならそうなるのも無理もないな。
「私は怖いわ。このままみんなが兄さんたちを忘れちゃうんじゃないかって。だから、早く魔王を倒して、元の世界に戻らなきゃって思うの」
リリアはそういうと、落ち込んだように顔を下に向けてしまう。くそっ、こういう時に肩を叩いてやれない体が恨めしいぜ。
こうなりゃあ、俺たちのやることはただ一つ。
『心配すんな、由利。絶対、魔王を倒してやろうぜ。俺たちの音楽でな!』
「うん!」
こんな形で向こうの家族と再会するとは思ってもみなかったが、これだけ心配されているからにはがっつりやってやるぜ。
俺たちは改めて、その決意を固いものにした。




