70曲目 中継の地、ミドレスト
さすが航路として確立されているだけあってか、船旅は実に快適だ。魔物がまったく出てこない。
船には武装した連中が乗っているが、あれは船の安全を守るために雇った冒険者たちらしい。冒険者って響きがまたいいもんだな。
ちなみにだが、彼らにも俺たちが連れているウルフたちのことは伝えられているので、連中がウルフたちに手を出すことはない。なにせ、聖女であるモニーとあれだけ楽しそうに遊んでいるんだからな。
聖女とじゃれ合うようなやつが、危険な敵に回ることがあると考えられねえよな、普通は。
まっ、平和が一番だから、俺は大歓迎なんだがな、この状況。
そんなこんなで、何の問題もなく、中継地点となるミドレストの街に到着した。
ここは、メジョールカ大陸とマイネリア大陸のほぼど真ん中に存在している。そういう場所ということもあってか、ほぼすべての船が必ずここに寄港するそうだ。
だからか、街には大きな船がたくさん停泊している。なんとも圧巻な風景だな。
ミドレストに到着した俺たちは、一度船から降りる。ここで食糧などの物資を補給しないといけないらしいからな。最低でも一日の滞在となるそうだ。
ところが、俺たちが下船したら、早速囲まれちまったぞ。
「魔物だ。魔物を連れているぞ!」
あー、はいはい。そりゃそうなるよな。
はぁ、移動するたびにこの説明がいるのか。実にめんどくせえ……。
突然現れた兵士に囲まれて、俺たちは困ってしまった。
「大丈夫ですよ。スフォル、アー、ベー、ツェー、デー、エー」
「わうっ!」
モニーは落ち着いて前に踏み出すと、ウルフたちの名前を一匹ずつ読み上げていく。
そしたら、呼ばれた順に返事をしながら、モニーの周りでおとなしく座り込んでいた。
「なっ?!」
「ブラックウルフとグレイウルフが、おとなしいだと?!」
目の前で見せられた状況に、兵士たちが驚いている。
驚いた姿を見ながら、モニーはにこりと微笑んでいる。
そこへ、俺たちと一緒についてきた兵士がやってくる。この兵士はラルゴ港までの護衛を兼ねている男性だ。
「お前ら。この方たちは聖女様とそのお連れの方々だぞ。確かに魔物は連れているが、見ての通りしっかりとしつけていらっしゃる。従魔の証が見えないか」
「はっ。た、確かに……っ!」
その兵士のことを聞いて、兵士たちが目を凝らす。その視線の先には、冒険者ギルドなどで登録した際にもらえる従魔の証がしっかりと着けられていた。
ちなみにだが、これはリリアにもしっかり着けられていて、それは利き腕ではない左腕にあるんだよ。
「この子たちは魔王討伐を命じられていてな、このウルフたちは護衛を兼ねて少女たちについてきているんだ」
「本気ですか、それ」
「こんな幼い子たちになんてことを……」
同行している兵士の説明を聞いて、ミドレストの兵士たちは動揺を隠せないようである。
「なんでも、聖器なるものを持っているためだそうだ」
「はい、これらが聖器です。変わった形ではありますが、これが私たちの武器なんですよ」
モニーは兵士たちを前ににっこりと微笑んでいる。
「こ、これが?」
兵士たちは俺たちを眺めながら、戸惑った反応を示している。そりゃまあ、見たことねえ形状だし、普通に考えたら武器には見えねえよな。せいぜい鈍器だ。
「とりあえず、今日中に荷物の補充を終えて、明日には出航する。まったくもって理解できないのは分かるんだが、今は黙って、聖女様たちを宿まで案内してくれ」
「は、はいっ!」
同行している兵士に言われると、ミドレストの兵士たちは、俺たちを宿まで案内してくれた。
案内された宿でも、ウルフたちにはびっくりされていたな。だが、最初と違って兵士から丹念に説明があったこともあって、トラブルなく部屋へと案内してもらえた。
四人と六匹なんで、部屋は最高クラスに広い部屋だったがな。でけえウルフ六匹いても余裕とか、どんだけ広い部屋なんだよ。
部屋に入ると、女性陣はさっさとお風呂へと行こうとしていた。久しぶりの陸だからな、きれいにしたいんだろう。
ちなみにだが、お風呂は部屋にないので、宿の一階にある共同浴場となるそうだ。男女別なのは安心だな。
『リリア、お前だけはちょっと残ってくれ』
だが、俺はリリアだけを呼び止めた。
「えっ、なんでですか?」
『悪いが、話があるんだ。なに、そんなに時間はかからねえ。すぐに終わらせてやるからな』
「ま、まあ、リードさんがそこまで言うのなら」
リリアは俺の話に応じてくれるようだ。
「分かりました。私たちは先に入っておりますのでね」
「待ってますわよ、リリア」
「それでは、先に行ってきます」
メロディたちはリリアのことを気にかけながらも、部屋から出ていった。護衛にはスフォルがついて行っていた。
部屋の中には、俺たち三人とリリア、それとブラックウルフの五匹だけとなる。どういうことを聞かれるのか分からないみたいだから、リリアも黙ったまま椅子に座っているようだ。
『リリア、ちょっと聞いていいか?』
「は、はい。なんでしょうか……」
俺が声をかけると、リリアはかなり委縮した感じで返事をしてくる。よっぽど怖がっているようだな。
『リリア、お前は一体何者なんだ? ただのゴブリンじゃねえだろ』
だが、俺は遠慮はしねえ。
思い切って、本題を直接ぶつけてやった。
重苦しい雰囲気が部屋の中を支配していて、無言の時間がしばらく続いている。
さあ、どんな反応をするんだろうな。俺はリリアが口を開くのを、じっと待ち続けた。




