7曲目 教えてやるよ
村長たちの結論を待つ間、俺はメロディから必死のお願いを受けていた。
「リードさん、この楽器について教えてください!」
俺を前にして、正座をして頭を下げてまで頼みこんでいる。いや、少女にここまでしてもらうのは悪くはないんだが、なんか悪い気がする。
『まあ、待て。とにかく頭を上げてくれ』
「は、はい」
俺が頼めば、メロディは頭を上げてくれた。
顔は相変わらず真剣だ。
俺は人に教えるのは初めてなんだが、さっきのスキルによる共有での演奏と歌唱を見ている限りは、メロディには間違いなく才能がある。
考えた末、俺はメロディにギターについて教えることにした。
『まず、俺のこの体だが、ギターっていう音を奏でる楽器だ』
「ギターっていうんですね」
すっごく目を輝かせているな。それだけ本気だってことなんだろう。
『で、この細いところにピンと張ってあるものがあるだろう。これは弦っていうんだ。弓っていう装備があれば、それと同じようなもんだと思ってもらっていい』
「なるほど、弓ですか。それでしたらありますよ。確かに、弓の張ってある糸も弦っていいますね」
あ、弓の話は通じたぜ。ゲームであってもやっておいて損はねえな。
『で、細いところになんか区切りがあるだろ。そこをフレットっていって、その間を押さえることで音を変えられるんだ』
「そうなんですね。さっきは夢中でやってましたけど、確かに音が変わってましたね」
『そういうこった。ちょっとやってみな』
「はい」
メロディは俺を手に取って、試しに音を鳴らしてみる。
重くて持ち慣れないのか、全部の弦を弾いちまってるな。スキル共有が影響している間は、ちゃんと弾く弦と弾かない弦があったんだがな。まっ、素人だからしょうがないか。
『ストップ。弦を全部一緒に弾くんじゃない。必要な弦だけを選んで弾くんだ。左手の指で押さえた弦を基本的には弾くんだ。もちろん開放弦で弾くこともあるがな』
「か、かいほう……?」
『指で押さえていない状態のことだな。だが、それはあんまりないことでもある。なにせ、左手の親指側にある弦以外は、同じ音が一つ手前の弦に存在しているんだからな』
「ふむふむ……、そうなのですね」
素直に聞いてくれるから、実に説明がしやすいな。
う~ん、俺はどんな感じだったな。昔すぎて覚えてねえぜ。
『っと、もっと大事なことを教えておかねえとな』
「大事なこと?」
『おう、楽器は音が命だ。ただ、時間を置いていると弦が緩んで音が狂うことがある。それを正すために調律っていう作業がある』
「調律……ですか」
『ああ。左手でネックを握った時に、親指側から第六弦、第五弦という風に数えるんだが、隣り合う二つの弦のうち、親指側の第五フレットを押さえて、隣の開放弦と一緒に弾く。その時に音が同じなら合ってるということになる』
「ふむふむ」
メロディは真剣に聞いている。
『ああ、一か所だけ注意な。第三弦と第二弦を合わせる時だけ、第三弦の第四フレットを押さえるんだ』
「お、覚えられるかな……」
『心配すんな。最初のうちは俺が聞いてやるからよ。こっちの世界には絶対的な基準となる音がねえから、とりあえず、それで音が合えばいい。ヘッドっていうところになんか回せそうなのがあるだろう?』
「ヘッド? この細いところの一番上ですかね」
『そうだ』
「ありますね。つまんで動かせそうなのが」
『そいつを回して、弦の張りを調節するんだよ。緩めれば音は低くなるし、きつくすれば音が高くなる』
「そうなんですね。不思議ですね……」
メロディは、俺の話を聞きながら、ギターをじっと眺めている。
やっぱり、楽器がないっていうのは本当のようだな。こういう世界なら吟遊詩人のようなやつがいて、竪琴くらいはありそうなもんだが。
そうそう、竪琴で思い出したぜ。
今のままじゃ、メロディにかなり負担をかけてしまう。せめて持つのが楽にならないもんだろうかな。いつも両手で抱えて運ばせるのは申し訳ないってもんだ。
【絆の強まりを感知しました】
またあのわけの分からない言葉が頭に響く。
その声が聞こえた瞬間、空中に何か光の塊が現れる。
『な、なんだ?』
「なんですか、これ?」
俺たちはそろって驚いている。
光が消えたかと思えば、何かベルトのようなものが床へと落ちていた。
『これは、ギターを抱えるためのベルトか』
「ベルト?」
『ああ、ギターにひっかける場所があるはずだ。そこにつけてやれば、首からぶら下げてギターを持つことができる』
「なるほど……。早速つけてみます」
ベルトを拾い上げたメロディは、俺の体にある金属の突起部分を見つけて、そこにベルトを装着していた。ギターからしてみればこんな感覚なのかよ。少しくすぐってぇじゃねえか。
俺たちが話をしていると、外の方が騒がしくなってくる。
「メロディ、いるか?」
「は、はい!」
「悪い。村長を説得できなかった」
「え? どういうことなんですか?」
俺もまったく状況が分からん。入ってきた男は、メロディにいきなり謝っているぞ?
「ウルフを倒してくれたのはいいのだが、村長がそのわけの分からない魔道具を怖がってな。君ごと追い出すことになってしまったんだ」
「え、どうしてそうなるんですか!」
『まったくだ。ちゃんと説明しろ!』
なんということだろうか。
どうやら俺という謎の道具を怖がって、それを扱うメロディごと村からの追放が決まったらしい。
なんだよ、血も涙もねえな!




