69曲目 出航の時
トリルの港に着いてから、四日が経過する。
いよいよ俺たちは、マイネリア大陸に向けて出発することになる。
船の準備は大変だとはいうが、よく四日で準備を整えられたものだ。やはり、国王からの命令があると違うんだな。
港では、町長であるシケットが指示を出して、積み荷を船へと積み込ませている。
ちなみにだが、積み込む荷物の中には、俺たちが待機中に買ってきた魔物の肉とかも入っている。ずっと宿に閉じこもっているわけにもいかなかったからな。スフォルたちの気晴らしのために討伐依頼を受けてたんだよ。
久々の狩りだからということで、すごく生き生きしていたな。
獲物を狩ってきたスフォルたちに対しての反応は、今までとは逆で、メロディとリリアの方がきちんと対応していた。フォルテはお嬢様だし、モニーは聖女だからな。こうなるのも無理はないか。
それはそれとして、乗船パスを見せて、俺たちはいよいよ船に乗り込む。
ここから約五日間の船旅を経て、マイネリア大陸に乗り込むことになる。風と波、それと補助的に魔法を使うくらいだし、これくらいかかるのはしょうがねえ。
「それでは、地図を確認しましょうか」
部屋に入った俺たちは、早速テーブルを囲む。
ビブラート国はマイネリア大陸の東端の国であるリタルダンド国との間で貿易を行っているので、その間にある海域の地図も所有しているというわけだ。
今回、モニーが広げているのはその地図の写しらしい。
モニーは、早速広げた地図を指差しながら、現在地の確認を行う。
「ここが現在いる、トリル港です」
「本当にメジョールカ大陸の西端ですね」
モニー指し示した場所を見ながら、リリアが反応している。ゴブリンのくせに、しっかりと地図が読めているようだ。本当に、よく分からねえ魔物だぜ。
俺の疑問などお構いなしに、モニーの話は続いていく。
「途中、ミドレストという街に寄港します。ここがふたつの大陸を結ぶ海路の一大拠点となっている街なんです」
『中間休息、まさに中継地点だな』
「はい」
モニーの説明に反応した俺の言葉に、モニーはこくりと頷いている。
「それで、これから向かうのはマイネリア大陸のリタルダンド国の港町であるラルゴです。町長様のお話では、ラルゴ以外とは取引をしたことがないそうですからね」
「なるほど、ということは確定事項ですのね」
「はい、その通りです」
行き先は固定ってわけか。なら、今後の予定は立てやすいってもんだ。
『それで、マイネリア大陸に着いたら、どこに向かうことになるんだ?』
すかさず俺が質問をぶつける。
「王都フェルマですね。やはり、私が聖女ということがありますので、国王への挨拶が優先されると思います。それに、国王に話を通しておけば、その国の中には話が伝わることになりますので、以降が動きやすくなると思われます」
『なるほどねぇ。だが、まあ……』
『リーダー、スフォルたちのことを心配してるんですかい?』
『まあな。ビブラートですらあれだっただろう? 気になっても当然だと思うんだ』
聖女がいれば話がスムーズとはいうが、やはり、旅の足として連れていくことになったスフォルたちがネックになりかねないと感じているんだ。
国と冒険者ギルドとで二重に証明を取ったとはいえ、国が違うし、なにより海を隔てた場所なんだ。疑念が湧いてきて当然だと思うんだよな。
リリアはゴブリンとはいえ、姿がほとんど人間だからどうとでもなるが、やっぱりな……。
「リードさん、気にするのは分かりますけれど、私たちがそんなんじゃ困ると思うんです」
『お、おう……。悪かったな』
突然リリアに怒られて、俺は戸惑ってしまう。いやはや、これは予想外だったぜ。
「まあ、そうですわね。わたくしたちが身をもってスフォルたちは安全だと見せつけてやりませんと」
「はい、その通りです」
リリアの声に続くように、フォルテとメロディも声を上げていた。
やれやれ、どうやらみんなの中ではスフォルたちウルフどもは、すっかり仲間という認識で固まっているようだな。
『悪かったな。反省するよ』
こうなると、俺はもう謝るしかなかった。
話も一段落したそのタイミングで、部屋の扉が叩かれる。
「はい、どちら様でしょうか」
モニーが反応する。
「お寛ぎのところ、失礼致します。俺はこの船の船長でネイビスと申します。お話はよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
船長と名乗る男からの声に、モニーは入室の許可を出す。扉が開くと、筋肉隆々の男がそこに姿を現した。
「これより停泊を含めた六日間、聖女様たちの船旅をお預かりします。この身に代えても、聖女様たちを無事にマイネリア大陸のラルゴへと送り届けてみせます」
「はい、よろしくお願い致します」
ネイビスの挨拶に、モニーがにっこりと微笑みながら言葉を返している。さすが聖女の笑顔は破壊力がすごいぜ。
「では、間もなく出航いたしますので、よき船旅となりますよう精一杯努力させていただきます」
「私も、無事に航海できるようにお祈りさせていただきます」
「はっ、ありがたき幸せでございます」
船長であるネイビスは扉を閉めて部屋から去っていった。
その後、俺たちは甲板へと顔を出す。
ちょうど錨が引き上げられ、いよいよ離岸するというタイミングだった。
しばらくすると、少しずつ船は陸から離れていく。
いよいよメジョールカ大陸ともお別れだ。
港で手を振る人たちに、メロディたちも手を振り返している。
生まれ故郷を離れ、その地がある大陸ともお別れだ。四人の心の中は、いったい今どんな気持ちなんだろうな。
俺がそんなことを思う中、四人はただ、離れていく陸地をじっと眺め続けていた。




