66曲目 旅の本番
ビブラート国の国王と話をした結果、俺たちはブラックウルフの十五匹を、無事にビブラート国に押し付けることができた。大所帯とはいえど、王国の庇護下に置かれるなら無事にやっていけるだろう。
話を聞いた兵士たちが困惑した表情を浮かべていたが、まあ、それはそれだ。
ついでに、俺たちは乗船パスを手に入れることもできた。これで無事にマイネリア大陸に渡る算段がついたってわけだ。あとはトリル港に行って船に乗ればいいわけだな。
その日の夜も、俺たちは城の中で休んでいる。
だが、魔王を討伐するという目的がある以上、ゆっくりはしていられない。俺は明日にでも早速出発すべきだと考えている。
『メロディ、起きてるか?』
考え込んでいた俺は、真っ暗な部屋の中でメロディに話しかける。
だが、さすがに真夜中じゃあ、返事があるわけないか。メロディは確か十二歳だったかな。ならば、今の時間はぐっすり眠っているはずだからな。
『しょうがねえ。詳しい話は起きてからだな』
どうしようもないから、俺もひとまず眠りに就くことにしたぜ。道具に宿っているとはいっても、俺たちは人間だからな。生活リズムを崩すわけにはいかねえんだよ。
明日のことは明日考える。うん、これに限るぜ。
翌日、俺たちは城門でメゾと別れることになった。ピアノート子爵はスコア国の貴族なので、ビブラート国内ではその力が通用しないし、そもそもここまでという約束だったからな。
「ありがとうございましたわ、メゾ」
「いえ、むしろ私の力不足でここまでしかついていけないことを悔しく思います。どうか、ご無事でいて下さい、お嬢様」
メゾは馬車の御者と一緒に、スコア国へと向けて戻っていった。
なんとも寂しくなるが、魔王討伐を命じられたのは俺たちだけだからな。これ以上危険に巻き込むわけにはいかねえよな。
いろいろと思うところはあるが、俺たちはしばらくの間、メゾたちが戻っていく姿を見送っていた。
姿が見えなくなると、いよいよ俺たちの出番だ。
トリル港は、王都から街道に沿って西へと向かえば到着するって話だ。
俺たちは、スフォルたちウルフたちの背に乗って、出発する支度を整える。
「本当に、子どもたちだけで行くのか?」
「ええ、その通りですわ。スコア国王にはわたくしたちだけでやり遂げるようにと命令されましたからね。となれば、意地でもわたくしたちだけでやり遂げてみせますわよ」
門番たちが心配そうに声をかけてくるが、フォルテが代表して答えていた。やっぱり、こういう時にお嬢様は頼りになるよな。
「その通りです。子どもだからといって甘く見ないで下さい。聖女としての務め、立派に果たしてみせましょう」
モニーもモニーでやる気は十分なよう。気合いの入り方が違う。
「わ、私なんてただの村人なのに……」
「私なんてゴブリンなんですけど?」
メロディとリリアの二人は、フォルテとモニーとは対照的な感じだな。ザ・巻き込まれって感じだ。貴族と聖女とは、根本的に立場が違うのだから、まあしょうがねえよなぁ。
『まあ、メロディ』
「なんでしょうか、リードさん」
『俺たちもついているんだ。危険を感じたら、俺たちを使ってくれりゃあいい。こんな姿だが、俺は大人だから、お前たちを守ってやるぜ』
「リードさん……」
俺がメロディに声をかけると、なんだか泣きそうな雰囲気になってきているな。
『おいおい、泣くのはやめな。こっちまで泣きたくなってくるぜ』
「あ、ごめんなさい」
俺は気の利かない言葉を言っちまったが、こっちの世界の人間は気丈なのか、メロディは泣き止んでくれた。
こう思うと、世界が違うと人の扱い方がずいぶんと違うな。世界観の違いってのがはっきりと分かるぜ。
さて、俺たちの前にはウルフたちが並んでいる。
一匹だけ毛色の違うグレイウルフは、フォルテの従魔となったスフォルだ。
それ以外の五匹は先日眷属にしたブラックウルフたちだ。名前は実にシンプルで、並んでいる順番にアー、ベー、ツェー、デー、エーという感じだ。うん、ひねりのないアルファベットだよ。
五匹にはそれぞれ区別をつけられるようにと、首に布を巻いて、それぞれ名前の刺しゅうを入れてある。もちろん、布の色も一匹ずつ違っている。同じ姿だから、俺たちでも区別がつかない可能性が高いからな。視認性は重要だぜ。
だが、五匹にだけ布を巻くと、スフォルが思いっきり羨んでいた。俺にも巻けと強くせがんで来たぜ。
その結果が、首に巻かれた布だ。スフォルは名前の由来となった『スフォルツァンド』の音楽記号の『sf』という刺しゅうが入っている。
一匹だけ二文字の刺しゅうだからか格が違うと思ったのだろう。スフォルはずいぶんとご機嫌になったものだよ。まったく、動物っていうのは単純だな……。
とはいえ、これくらい扱いやすい方がいいかもしれないのまた事実なんだがな。
『よし、俺たちもそろそろ出発するか。マイネリア大陸に渡って、俺たちの残りの仲間であるドラムを見つけることが最優先だ』
「ええ、参りますわよ」
「なんだかわくわくしますね」
「ついて行くといったので、どこまでもお供します」
「おー……」
俺の呼び掛けにそれぞれの反応を見せながら、王都を出発してトリル港を目指す。
さあ、これからはどんな冒険が待ってるんだろうな。すべて、俺たちの音楽で乗り切ってやるから、待っていろよな。




