65曲目 猛獣は手懐けた
ブラックウルフを連れて帰ってきたら、王都の兵士が総動員で俺たちを取り囲んできた。
予想はしていたが、この対応は想像以上だぜ。
「やっぱり、こうなりましたか」
『まあ、そうだろうな。普段怖いと思っている相手がこんだけいんだからな』
フォルテと一緒に、俺はこの状況に呆れていた。
だが、俺たちと一緒にやってきた兵士たちが、ブラックウルフとの仲の良さをアピールしたことで、俺たちは無事に王都の中に入ることができた。兵士たちの監視付きでな。
リリアは念のために馬車の中に入ってもらう。街の人から石を投げられたんじゃたまったもんじゃねえからな。いや、石で済めばまだいい方かもしれねえ。
念のためにモニーに防護魔法を頼んでおいたが、それでもひやひやなものだぜ。
結果から言えば、俺たちに対して石などを投げられるようなことはなかった。周りをがっちり兵士が取り囲んでいたからか、街の人は冷たい目を向けるくらいで精一杯だったようだ。
物理的な攻撃はなかったとはいえ、精神的な攻撃もなかなかにきついぜ。俺たちはまだ楽器だからいいが、メロディたちはまだ幼いからな。正直、心配になってくるところだな。
城まで戻ってきた俺たちは、馬車から降りると、なぜか兵士たちの訓練場へと案内された。
おそらくは、大量にいるブラックウルフのせいだろう。こいつらがいるから、城の中には入れられないという判断が下ったんだと思う。兵士の訓練場なら大量に兵士がいてもなんら問題はないし、狭いながらにも戦闘に適した場所だからな。
俺たちはそのど真ん中でしばらく待たされた。
「まったく、聖女様がいらっしゃるといいますのに、こんな扱いでよろしいのかしら」
フォルテはずいぶんと不満そうな様子だ。
「仕方ありませんよ。私がいるとは言いましても、これだけのブラックウルフがいるのです。警戒の方が先に立ってしまうのは、無理もないことです」
『私も同意見ですね。それにモニーさんもまだ幼いですから、これだけの数の魔物をコントロールしきれないと考えても不思議ではないですよ』
キーボもモニーの言葉に同調していた。
俺も同意見ではあるが、フォルテ一人だけが納得いかないようだった。
メロディとリリアは、どちらの見方をできるというわけでもないみたいで、ずっと黙って様子を見ているだけだったな。
しばらくすると、ようやく国王が俺たちの前に姿を現す。
「戻ってきたか、聖女モニーよ」
「はい、先程戻って参りました。お申し付けにございましたブラックウルフですが、このように手懐けて戻って参りました」
国王に声をかけられて、モニーはまったく怯むことなく答えている。さすがは聖女、国王相手というのにだいぶ慣れている感じだった。
「手懐けたとは、本当なのか?」
「はい」
モニーはそういうと、リリアに顔を向けていた。
「えっ、私?」
急に顔をじっと見られたこともあってか、リリアはとても驚いているようだった。
だが、国王がいる状況で自分へと話が振られたのだ。ここはやるしかないと、リリアは眉間にしわを寄せながらも意を決していた。
「みんな、集合」
リリアがブラックウルフに呼び掛けると、ざざっと全員がリリアの周りに集まる。もちろん、スフォルも一緒に動いていた。
「お座り!」
リリアがこう命令すると、ブラックウルフは全員がすっと座っていた。動きが揃っていて、実に訓練されているのがよく分かるくらいだった。
「ほう……」
これには国王もただ感嘆の声を漏らすだけだった。
「お手」
そんな中、リリアはブラックウルフに一つ一つ命令をしていく。ブラックウルフたちは、そのすべてを忠実にこなしていた。
「いかがでしょうか」
ひと通り終えたところで、リリアは国王の方を見ている。
「お前たちに従うことはよく分かった。だが、我が国の兵士たちに対してはどうかな?」
「うぬぬぬ……」
国王はリリアの問い掛けに対して、無慈悲に返している。
確かに、二十匹いるうちの十五匹は、このビブラート国へと置いていくことになる。となりゃあ、ここの兵士たちにも従ってもらわねえと困るのは事実なんだよな。
さすがは国王。まったく油断も隙もない人物だぜ。
ところが、モニーはこれにもまったく動じない。
「それでは、隊長様。リリアがしたことと同じことを繰り返して頂けますか?」
「わ、分かった」
モニーの笑顔に逆らえず、隊長はリリアとまったく同じことを繰り返した。
ところが、なんということだろうか。訓練されたブラックウルフたちは、ビブラート国の隊長の命令にもしっかりと従っていた。
それというのも、このブラックウルフたちは自分たちがやらかせば、俺たちに迷惑がかかることを理解しているかららしい。おそらくは、リリアとスフォルから教えられたんだろう。魔物同士だから、通じるところがあるだろうしな。
なんにしても、ブラックウルフはしっかりとやり遂げていた。
「うむ。これだけやってくれるのなら、討伐は完了したと認めよう」
さすがに国王も折れるしかなかった。
この言葉を聞いた俺たちは、ひとまず信頼を勝ち取れたとほっとしてしまった。
さあ、ブラックウルフの討伐を終えたから、俺たちの望みを叶えられるようになるのだろうか。
ブラックウルフをリリアとスフォルに任せ、俺たちは城内へと移動することになったのだった。




