61曲目 対ブラックウルフ
ギャーーンッ!
エレキギターの音が、辺りに響き渡る。
「な、なんだ、この音は!」
突然の音に、兵士たちが驚いている。
だがな、兵士がこれだけ慌てるってことはだ、当然人間より耳のいい獣どもがどうなるかというのは明白だよな?
「ギャウウ……ン……」
やはり、かなり怯んでやがるな。
だが、この音に慣れたスフォルはというと。
「ガウッ!」
自分よりも格上のブラックウルフに、猛然と立ち向かっていた。
だが、奴らがいつ回復するともわからねえ。さっさとやっちまおうぜ。
「リードさん、これを!」
「リリア、なんですか。こんな時に!」
急に動き出したリリアに、フォルテが声をあげてしまう。
そりゃまあ、緊急事態だからなぁ。フォルテが驚くのも無理はない。
だが、俺に近付いてきたリリアが手に持っていたのは、間違いなく楽譜だった。
これには俺も驚かされたぜ。だってよ、その手に持っていた楽譜は、きちんとした五線譜に書かれたものなんだからな。
『リリア、これは?』
「ごめんなさい。今は詳しいことは言えません。ですが、今回はこの曲を、この音楽を演奏して下さい!」
俺が確認するも、リリアは詳しい事情を説明したくないようだった。
ぶっちゃけ、隠し事なんていうのは嫌なものだが、今回ばかりは非常事態だ。あとで詳しく聞くとして、今はこの楽譜に賭けてみるか。
『リリア、とりあえず広げて持っていてくれ』
「は、はい!」
俺の言葉を受けて、リリアは楽譜を広げて見せてくれる。一つ一つの譜面をしっかりと見て記憶していき、それと同時に譜面共有でメロディたちにも覚え込ませていく。
『よし、それじゃ、始めるぜ!』
『おっしゃーっ、獣相手ってのは観客としちゃあ物足りねえが』
『状況が状況ですからね。やってやりましょう』
俺が叫ぶと、ベスもキーボも乗り気のようだった。
『頼むぜ、相棒』
「はい、リードさん」
メロディにも声をかけると、メロディも真剣な表情で頷いていた。
だが、状況はそうしている間にも悪い方向に転がっていた。
相手が回復してきて、徐々に状況が悪くなり始めていたからだ。
『キーボ、いっちょかましてやれ!』
『はい。モニーさん、どの音でもいいので、適当に音を同時に鳴らして下さい』
「はい、分かりました」
キーボの呼び掛けに返事をしたモニーは、隣り合う音を両手で弾けるだけ同時に鳴らしていた。
大きな音が響き渡り、再びブラックウルフたちは大げさに驚いて動きを止めてしまう。ギターじゃなくてキーボードにしたのは、慣れたかもしれないと考えたからだ。
狙い通り動きを止めてくれたおかげで、俺たちはいよいよ演奏へと入る。
『ワン、ツー、ワンツースリー!』
俺の合図で、メロディたちは同時に演奏を始める。
リリアが持ってきた楽譜だが、こいつは俺もよく知っている連中の曲だった。なぜそれをリリアが持っていたのかは分からねえ。
だが、今回ばかりはお前たちの力を借りてやるぜ。
『リーダー、この曲って……』
『ベス、今は黙って演奏されていなさい。フォルテさんの気が散ってしまったらどうするのですか』
『わ、分かりやしたよう……』
ベスは今さら何かに気が付いたようだが、キーボに咎められて黙り込んでいた。
それにしても、この曲の力はとんでもねえな。演奏している間に、どんどんとブラックウルフたちが落ち着いていきやがる。さっきまで気が立っていたと思ったんだが、攻撃する姿勢を見せなくなっていっているぜ。
この状況には、兵士たちも驚かざるを得ない。メゾもどうしていいのか分からねえって感じだな。
スフォルにいたっては、目の前の格上のブラックウルフに対して説教するみたいな姿勢を見せている。獣同士にしかわからねえ、そういうものでもあるんだろうかな。
やがて、演奏が終わる。
「ご清聴、ありがとうございました」
一緒になって歌っていたリリアが、ぺこりと頭を下げる。それと同時に、ブラックウルフたちがリリアへと殺到していく。
この状況を見た兵士たちは、ハッと我に返って剣を持ってリリアのところへと駆け寄っていく。
ところが、リリアは無事だった。ブラックウルフたちからじゃれつかれていたのだ。
魔物同士というのもあるのだが、俺としてもこれは予想外だったな。俺たちの音楽よりも、リリアの歌声に惹きつけられたような感じかな。
「はははっ、くすぐったいですよ」
ブラックウルフたちにもみくちゃにされているリリアは、ブラックウルフに囲まれながら笑っていた。
「ワウッ!」
「スフォル。よく頑張ってくれましたね」
「ワウーン」
戦いを終えて戻ってきたスフォルは、フォルテにしっかりと甘えていた。褒めてと言わんばかりに、しっぽまで振っていやがる。本当に、ただのでかいわんこになっちまってるな。
「えっと、どうしましょうか?」
メロディは一人で困っているようだ。
『そうだな。モニー、任せて大丈夫か?』
「はい、私は聖女ですので、どうにかしてみましょう」
モニーはブラックウルフに近付いていく。
「あなたたち、私たちに付き従うことを誓いますでしょうか」
ものすごく単刀直入にモニーはブラックウルフたちに声をかけている。
どう出るかと思ったんだが、ブラックウルフたちは俺たちの前に整列すると、その場に座って顔を伏せ始めた。
『服従のポーズですぜ、あれは……』
『そうなのか』
犬のことをよく知っているベスによれば、視線を合わせないことは敵意がないことを示すらしい。
どうやら俺たちは、ブラックウルフたちを手懐けることに成功したようだった。




