60曲目 いざ、戦場(ライブ会場)へ
俺たちがやってきたのは、スコア国を取り囲むセーニョ山脈のふもとだった。話によれば、ここの森にブラックウルフたちが住んでいるらしい。
少数の兵士とメゾという非常に心もとないメンバーで、俺たちはブラックウルフと対決することになる。はっきりいって、相手の数次第じゃ無謀で済まねえレベルらしい。
「申し訳ございません。ビブラート国では他でも困っていることがあるようでして、これ以上の人数を回すことができなかったそうです」
「分かりました。とりあえず、この人数でなんとかするしかないわけですね」
「はい、そうなります」
モニーと話をしているのは、フォルテの護衛でついてきたメゾだ。主であるフォルテと話をするべきところなのだろうが、今回の指揮はモニーが執ることになったので、モニーと話をしている。
それにしたって、聖女とはいえ十代の少女を指揮官にするとか、マジで人手不足なんだな。頭がいてえぜ。
意外とモニーとフォルテは落ち着いているんだが、メロディとリリアはガッチガチに緊張している。これで果たして、この騒動を終わらせられるのかといったら、心配になってくるレベルだぜ。
『メロディ』
「は、はい、リードさん」
俺が声をかけると、メロディは驚いた顔をして反応をしている。
『今までよりも強い相手をするから緊張するのは分かる。だが、俺たちがしっかりしねえと、俺たちは全滅する可能性があるんだ。そこをしっかり自覚してくれよ』
「わ、分かっています……」
俺が声をかけるも、やっぱりメロディはガッチガチのままだ。
俺を使って演奏ができるのはメロディだけだから、しっかりしてもらわねえと困るんだがな。
バンドだと演者が少ねえから、一人一人がしっかりしてもらわねえと音楽も成り立たない。ここまで緊張されていちゃあ、いろいろこっちまで不安になってきてしまうってもんだ。
『とりあえず、もう敵陣の真っただ中だ。メロディも覚悟を決めてくれ。リリアもな』
「は、はい!」
メロディにばかり話をしていて、自分には声をかけられないと思ってたのかな。リリアが驚いたように返事をしているぜ。
「周囲、現状は以上ありません。引き続き、警戒を行います」
「はい、よろしくお願い致します」
俺たちが話をしている横では、モニーが兵士たちとやり取りをしている。
俺たちに同行してきた兵士はたったの八人だ。二十匹以上はいるとされているブラックウルフを相手にするには、いくらなんでも数が少ない。メゾとスフォルを入れても、戦力不足は否定できない状態だぜ。
だが、これでもやるしかねえってもんだ。
『よし、俺たちも準備するぜ。戦闘の敵はもうそこまで来ているだろうからな』
「はい!」
『合点ですぜ、リーダー』
『華麗に演奏をしてみせましょう』
俺の声に、みんなが一斉に反応を見せる。俺たちの準備はできたようだな。
「アオーーンッ!」
そのタイミングで、ブラックウルフの遠吠えが聞こえてきた。
自分たちの縄張りに、敵がやってきたことを感じ取ったんだろうな。
「総員、構えーっ!」
ビブラートの兵士が一斉に武器を構える。全員が槍を持っているようだ。
槍はリーチこそあるものの、接近戦となると苦戦は避けられない。多勢に無勢で役に立つのか分からねえが、まあ、接近されたらメゾとスフォルがいる。
これまでの経験上、俺たちの音楽は至近距離じゃねえと通じないっぽいし、向こうには近づいてもらわねえといけねえ。その状況で槍というのはどうかなという感じだぜ。
だが、ここまで来た以上はもうやるしかねえ。俺たちは覚悟を決める。
俺たちも馬車を降りると、兵士たちは馬車を囲むようにして槍を構えて立っている。
「聖女様とお仲間たち」
「我々が命に代えてもお守りいたします」
兵士たちは、俺たちの方をちらちらと見ながら、どこかへっぴり腰で槍を構えている。なんとも不安のある姿だな。
「覚悟は結構ですが、全員無事に生きて帰ります。私がいる以上、一人たりとも犠牲は出させるものですか」
兵士の声を聞いて、モニーも聖女らしい覚悟のこもった発言をしている。いざっていう時には頼りになるな、この聖女様は。
『そうですとも。さあ、モニーさん。私たちの音楽でブラックウルフたちをとりこにしてしまいましょう』
「はい、その通りですね、キーボさん」
キーボの呼び掛けに、モニーは険しい表情のまま答えている。
この表情は、おそらくブラックウルフの気配を感じ取っているのだろうな。なにせ、スフォルもずっと全身の毛を逆立たせて唸ってやがるからよ。
「来ます!」
急にリリアが叫んだ時だった。
ガサガサという音がしたかと思うと、なにやら黒い影が周辺の茂みから飛び出してきた。
「グルルルル……」
全身が真っ黒のスフォルのような連中。これがブラックウルフってわけか。実に名前通りというくらいに真っ黒じゃねえか。
『メロディ、一発かましてやれ!』
「は、はい!」
俺が声をかけると、メロディは俺を構えて、一度深呼吸をする。
「響けっ!」
そう叫んだかと思うと、思い切り俺の弦を弾く。
さあ、楽しいライブの始まりだぜっ!




