59曲目 高まる緊張
ブラックウルフの出現箇所は、俺たちがやってきたスコア国方面の山のふもとのようだった。その出現箇所の近くには森があり、その近くには村がある。どうやら、被害の現場はその村のようだった。
話によれば、人的被害はないらしいが、家畜が散々食われまくっているらしい。言ってしまえば、リピート村と似たような状況ってわけだ。ただ、魔物のレベルが桁違いになるんだがな。
で、肝心のブラックウルフっていうのは、スフォルの種族であるグレイウルフの上位種らしい。そんなつええ魔物が、なんでそんなところにいるんだよ。異世界っていうのはまったくもって分からねえな……。
そんな俺の疑問をよそに、フォルテが率先して討伐のための準備を始めていた。
『おい、フォルテ。すっごく気合いが入っているな』
やる気十分なフォルテに対して、俺はつい問いかけてしまう。
「だって、わたくしたちに欠けている力を確保できるかもしれませんのよ? スフォルだけにかけていた負担を補えるのです。これが気合いを入れられずにいられるというものですか?」
『まあ、そんなもんかなぁ……』
なんだかにやけているように見えるんだが、俺はなんとも反応しづらい感じだった。
『俺としちゃあ、何匹養うことになっても問題ないんですがね』
『おい、ベス。多頭飼いを勧めようとするな!』
ベスの意見に、俺はすぐさまツッコミを入れていた。
『ですが、リーダー』
『なんだよ、キーボ』
『モニーさんたちだけで移動するとなると、誰だって心配するものですよ。ならば、強い魔物を少しばかりでも従えておいた方が、まだ説得力が生まれるというものです』
『ま、まあ、そうだがよ……』
キーボの野郎も、ベスの意見に賛成しているみたいだ。
『少なくとも、モニーさん、フォルテさん、メロディさん、リリアさんの四人が乗る分と、荷物持ちで五匹は必要です。なんとしても、この依頼で確保してしまいましょう』
『分かったよ。ああ、ちゃんと世話をしてくれよ?』
「任せて下さい。私が面倒を見ます」
もう面倒になった俺がやけになっていうと、なぜか反応したのはリリアだった。
『リリア、大丈夫なのか?』
俺が心配になって声をかけるが、リリアの表情は真剣なようだった。
「わ、私は同じ魔物ですから、きっと心を通じ合えると思うんです。現に、スフォルとも仲良くなれていますから、きっと……、きっと大丈夫だと思うんです」
しっかりと意見するリリアではあるが、よく見るとその体はかなり震えている。やはり、ゴブリンからするとブラックウルフは相当格上の魔物のようだな。
とはいえ、これだけの決意を見せているのであれば、その心を無下にするわけにもいくまい。俺はその心意気をくみ取ることにした。
『分かった。無茶はするんじゃねえぞ。誰一人欠くわけにはいかないんだからな』
「はい、分かっています」
俺がひと言注意をすると、リリアははっきりとすぐに返事をしていた。その時の真剣な表情に、俺はほっと安心をしていた。
ちょうどそのタイミングで、扉がコンコンと叩かれる。
「はい、どちら様でしょうか」
反応したのはモニーだった。
俺たちの中で一番地位が高いのは、聖女であるモニーだからだ。他国にいる現状では、こういう受け答えは身分の高いものが行う方がスムーズにいくらしいからな。
「失礼します」
扉が開いて中に入ってきたのは、昨日にもやってきたファーゴットだった。
「あら、ファーゴット様ではないですか」
「派兵の準備ができましたことを報告いたします。聖女様たちの準備ができ次第、いつでも出立可能でございます」
どうやら、ブラックウルフを討伐するための準備が整ったとのことだった。
話を聞いたモニーは、おとなしく「わかりました」とだけ答えていた。
「出発はなさらないのですか?」
「私どももしっかりとした準備が必要です。フォルテ様の部下であるメゾ様とスフォルをここにお呼びいただけますか?」
「スフォルとは、あのグレイウルフでしょうか」
「他に誰がいますか?」
ファーゴットが聞き返してきたので、モニーは間髪入れずに言葉を返していた。こういう時の反応の速さはすげえな。
この時のモニーの威圧感がすごかったらしく、さすがのファーゴットも完全にのまれかけていた。
「承知致しました。すぐに呼んで参ります」
「ええ、できるだけ早くお願いします」
「それでは、失礼致します」
モニーが念を押すと、ファーゴットはとても急いだ様子で去っていった。なにせ、走っていく靴音が響いてくるからな。
「今回の討伐には、メゾ様にも加わっていただきませんとね」
「そうですわね。あの様子では、兵士の数が少ないと思われますから、少しでも戦力は多い方がいいですわ」
「その通りでございます」
「こんなことなら、私の仲間も連れてくるべきでしたかね」
話を聞いていたリリアがそんなことをつぶやくと、モニーとフォルテの二人がそろって首を横に振っている。
「いえ、ゴブリンの手も借りたいのは事実ですが、魔物の数が増えると、今度は人間の対応が大変なことになります。ですから、リリアさんとスフォルだけでよかったのですよ」
「そ、そうですね。失礼しました」
モニーに反論をされて、リリアはおとなしく引き下がっていた。
なんにしても、ブラックウルフの討伐の時は近づいてきている。うまくスフォルのように俺たちの側に引き込めるかどうか、それが問題だ。
メゾとスフォルも加わり、俺たちは作戦の最終確認をしっかりと行い、作戦に備えたのだった。




