55曲目 国境を越えて
少し速度を上げて移動していたこともあって、四日目の昼には国境に到着する。
ここまでの生活は、護衛についていたメゾと御者のおかげで特に問題はなかった。その中で、メゾはフォルテたちに野宿の知恵をあれこれと叩き込もうとしていた。
そこで力を発揮したのが、メロディとリリアだった。リリアはゴブリンだしな。生活は毎日野宿みたいなもんだからのみ込みが早いのは分かる。メロディはちょっと意外だったぜ。
「さあ、国境に到着しましたよ。ここでの手続きは私がしますので、お嬢様たちはここでお待ち下さい」
「分かりましたわ。お任せしましたわよ、メゾ」
「はっ!」
護衛としてついてきたメゾが、国境の警備兵に対して話をつけに行った。
てっきり、順番待ちで待たされると思ったのにな。最近の盗賊騒ぎのせいで交通量が減っているんだろうな。こんな形になるとは思ってみなかったぜ。
「お嬢様、荷物改めがあるようです」
「確認させていただいても大丈夫ですよ」
「はっ!」
一度戻ってきたメゾに、フォルテは短く答えていた。
しばらくすると、馬車の中を国境の警備兵がのぞきにやって来た。
「うわぁっ!?」
突然、でかい声を出す。
当然ながら、その理由はスフォルだ。グレイウルフといえば、そこそこの強さを誇る魔物らしいからな。
「グレイウルフとゴブリン?! なぜそんなものが馬車の中に!」
おやっ、リリアも驚きの対象かよ。俺たちはこの状況に慣れちまったからどうってこたぁないんだが、普通の人からすりゃ、そういうもんか。
あーあ、兵士たちがすっかり大騒ぎだな、こりゃ。
だが、フォルテは逆にまったく取り乱していない。兵士たちの前に、スフォルとリリアを連れて出ていく。
「お騒がせして申し訳ございませんですわ」
「お、お嬢様!」
外へと出てきたフォルテの姿に、メゾはびっくりした顔をしている。その姿を見ても、フォルテはまったくもって落ち着き払っている。年齢の割には、しっかりしてやがるぜ。
「こちらのグレイウルフとゴブリンは、わたくしのペットとメイドですわ」
「ほえっ?!」
フォルテが言い出したことに、リリアがびっくりした顔をしている。俺たちに同行することは言い出したが、メイドになるとは一言も言っていないもんな。
ところが、フォルテはリリアを見ながら唇に人差し指を当てている。黙っておけということらしい。その姿を見たリリアは、ぐっとこらえているようだった。
確かに、下手な言い訳よりも自分の下についている人物とすれば、相手を納得させられる。でも、何かあればそれはフォルテが責任を取ることになるので、諸刃の剣といってもいい判断だ。
リリアはここまでの実績上、俺たちにも周りにも迷惑をかけるようなことはなかったので、それだけ信頼あってのフォルテの行動というわけだ。
その絶対的な自信を見せたフォルテの態度のおかげか、警備兵たちはすっかり納得させられたようだった。
「分かりました。ですが、何かあったら責任をお取りくださいね」
「心得ておりますわ」
念を押す兵士たちに、フォルテがしっかりと答えている。
さすがにここまで貴族の令嬢にしっかりとした態度を取られてしまえば、これ以上の調査は必要なとなったらしく、俺たちは無事に国境を越えることができた。
国境の門が開き、いよいよ俺たちはビブラート国へと足を踏み入れた。
「さあ、いよいよビブラート国ですわよ」
「一体、どんなところなんでしょうか」
「教会の話では、スコア国とは友好的な国だそうです。とはいえ、私も話に伺っただけですので、詳細はまったく存じ上げませんが……」
期待に胸を膨らませるメロディとフォルテだが、モニーはちょっとばかり不安のある様子だった。
「えっと、ビブラート国での用事は、国王陛下からお預かりした親書をお渡しすることですよね。その後は一体どうなさるおつもりですか?」
馬車の中では、リリアが一番冷静に振る舞っていた。魔物の割になんなんだろうな、この落ち着き具合は。
「国王陛下からの命令がございますので、まずは魔王の拠点があるというマイネリア大陸への渡航許可でしょうかね」
『ってこたぁ、ドラムのやつを探しに行けるってわけだな』
「そういうことになりますね。そのためには、トリル港で使える乗船パスをいただかなければなりません」
『乗船券がいるのかよ。お金を払えば乗せてもらえるってわけじゃないのか?』
やる気の出てきた俺だったが、モニーはなんとも面倒な話を出してきた。
「お金でも乗れるには乗れますが、私たちにいかほどのお金があるというのでしょうか。ならば、路銀を稼ぎつつ、乗船パスを発行していただくというのが最短となるでしょう」
『つまり、乗船料はそれだけ高いってことか』
「そうですね。話によれば、一般的な平民の半年ほどの給料に匹敵するとか聞きますから」
「それは、確かに大金ですね」
「わたくしたち貴族からすればそうでもありませんけれど、わたくしもあまり持ち合わせはありませんわね。他国でどれだけお金がかかるか分かりませんから、安く済む方法があるのであれば、その方がよろしいに決まっていますわ」
俺たちにはピンとこねえが、反応からするとだいぶとんでもない金額のようだな。
先行きはいろいろと不安があるところだが、とりあえずはビブラート国の国王に会わねえといけねえ。
馬車の中であれこれと話をしながら、俺たちはビブラート国の王都を目指し続けたのだった。




