54曲目 ビブラートへと向かう道中
俺たちは馬車に乗り、一路ビブラート国へと向かう。
「スコア王国の隣国のビブラート国は、温暖な気候で有名なんですよ。なにせ、海に面しておりますからね」
『へえ、そうなのか。なら、マイネリア大陸への船なんか出てたりするのか?』
「はい、出ていますよ。ただし、かなり西の方になりますので、王都からは遠いですね」
『おうふっ! そう簡単にはいかねえか』
モニーの口からビブラート国の話が聞けたのはいいが、事はそうすんなりと運ぶわけではなさそうだ。
「スコア王国の周囲は山ばかりですからね。他国との移動はかなり制限をされております。西のビブラート国と南のスタカット国以外は、街道が未整備なんですよね」
「そうなんですね。それじゃ、東にある私の住んでいたプレル村からだと、他の国には行けないってことですね」
「そうなりますね。険しい山を越えなければ、国の間の移動は不可能なんですよ」
「まぁ、そうでしたのね」
メロディたちが話している。どうやらモニーはメジョールカ大陸に対してかなり詳しいようだ。
となりゃ、フォルテの住んでいたニシーモの街からも、他国へは簡単に行けないわけだ。
「その点、ビブラート国との国境の山はかなり低いです。だからこそ、このような街道があるわけですが……。まさか、盗賊に占拠されているとは思いませんでしたね」
『それを俺たちに任せようだなんて、国として怠慢が過ぎねえか?』
「そう言われれば、そうなんですけれどね。ですが、アジトに入るにも仕掛けがあり、強奪したものを魔法で見えないようにしていたあたり、国としてもかなり手をこまねいていたのだと思いますよ」
『ああ、そういやぁ、そうだったな。リリアはそんなことを言ってたもんな』
モニーとの話をしていた俺たちは、一斉にリリアへと視線を向けている。さすがに全員から視線を一気に向けられたリリアは、かなり動揺しているようだった。
「そういえば、リリアさんはよく見破れましたね」
「ご、ゴブリンは器用ですから……」
「器用だけで、説明がつきますか?」
「あ、いえ……」
フォルテとモニーから詰め寄られて、リリアは対応に困っているようだった。
見かねた俺とベスが止めに入る。
『理由なんざどうだっていいよ。その能力をちゃんと役立てているんならな』
『ですねえ。持ってる力を使えねえってのが、割とよくあることですしね』
「そうですね。リリアさんは力を役立ててくれたのですから、そういう力があるんだってことでいいんじゃないでしょうか」
俺とベスの言い分を聞いて、メロディが同調してくれた。これによって、フォルテとモニーはリリアに詰め寄ることを諦めたようだ。二人がもたれるように座り直すと、リリアはほっと安どのため息をついていた。
その様子を見ていた俺は、そうは言いながらもリリアのことは気になっていた。
そもそも、最初から俺たちの音楽に対して雑音だとかいう認識を持っていなかったことが不思議だ。この世界には音楽がねえんだからな。
さらにいえば、盗賊退治の時に、俺たちの演奏に乗せて歌を歌ったことも気になる。あの曲は、リリアにとっては未知の音楽だったんだからな。だから、歌えるわけがねえんだよ。メロディみたいに共有スキルがあるわけじゃないんだからな。
一体、何もんなんだんだろうな、このゴブリンはよ……。
『どうしましたか、リーダー』
俺が考えごとをしていると、キーボのやつが話し掛けてきた。
『いや、なんでもねえよ。それよりも、目的地であるビブラート国の王都まではあと何日だ?』
素っ気なく返した俺は、その流れでキーボを持つモニーに質問をする。
「速度を出して馬車が走っておりますので、この調子ならあと五日ほどかと。明日には国境に到着しますよ」
『ふむ。この速度で五日なら、思ったよりは近いってことだな』
モニーからの回答で、おおよその距離が分かった。
ドラムの運転する車で同じ距離を走れば、休憩時間を差っ引いて一日半くらいか。日本を北から南まで移動するくらいって感じか。そのように計算したら、思ったよりも距離があるんだなという事実にぶち当たったぜ。
『悪い。やっぱ遠いわ』
俺が訂正をすると、モニーはよく分からないという顔をしていた。
『リーダー。俺たちの感覚が通じるわけねえじゃねえですか』
『そうですよ、リーダー。私たちのいた日本とこの世界では、常識というものがまるっと違うんです。少しは適応して下さいよ』
『うるせえ。この体じゃあ、メロディたちには声は聞こえねえんだ。俺たちの考えを改める必要はあるか?』
ベスとキーボにいろいろと言われ、俺はついカチンときて言い返してしまう。
『少なくとも、モニーさんたちには聞こえてしまいます。その時の反応で、相手に対してどのような印象を与えるのか、リーダーも少しは考えて下さい。リーダーなんですから』
『うぐっ……』
キーボから正論を返されてしまい、俺はもうなんともいえなくなっちまったぜ。まったく、こういう時はつええな、てめえら。
「くわぁ……」
『リーダーがあんまりにも騒ぐもんだから、スフォルも呆れてますぜ』
『だぁ、うるせえな!』
「まったく、にぎやかな方たちですこと……」
「あは、あはははは……」
なんとも微妙な空気になってやがんな。
でもまぁ、退屈しなくてよかったんじゃねえのか?
賑やかな俺たちを乗せた馬車は、国境までの山越えの道を速度を上げながら進んでいっていた。




