53曲目 冒険を前に
俺たちは魔王を討伐するという役目を押し付けられて、旅をすることになってしまった。
そこで、国王はまず隣国のビブラート国へと俺たちを向かわせることにしやがった。なんでも街道の盗賊問題を解決したことの報告を兼ねさせるらしい。まったく、物は言いようってもんだな。
ピアノート子爵は娘をそんなことへと駆り出すのは、正直認められないところだろう。だが、国王の命令となればそうも言ってられないのが現実だ。
だから、家に帰ってきたフォルテに泣きついてきていた。
ピアノート子爵家のメゾをついて行かせようとしたが、フォルテからはやんわりと断られてしまっていた。さすがにこれには子爵もメゾもびっくりしていたな。
「わたくしたちは大丈夫ですわよ。スフォルもいますし、危険なところにあまり人を連れていきたくはありませんわ」
「ですが、フォルテお嬢様……」
「国王陛下のご命令では、わたくしたち三人だけということですわ。スフォルとリリアは魔物ですから、対象外ですので連れていけるというわけですのよ」
「ぐっ……」
国王からの命令という絶対的なものを引き合いに出して、フォルテは子爵とメゾを完全に黙らせていた。このお嬢様、マジでつええな。
「ちょうどよい機会ですから、わたくしは世界を旅して見分を広げてみようと思いますわ」
「だが、やはり子ども、しかも女性ばかりというのはなんとも心苦しいものだ。せめて、メジョールカ大陸にいる間だけでも、メゾを同行させてくれ」
「お断りいたしますわ」
ピアノート子爵は食い下がるが、今度ははっきりと断られてしまった。
「だが、食事はどうするのだ。そこが一番の問題だろう」
しつこく食い下がるピアノート子爵。
「あ、それなら私がどうにかできそうです。鑑定と解体の魔法を持っていますから」
『はぁ?!』
そこで反応したのはリリアだった。さすがの俺も変な声が出たぜ。
「えと、多分名付けてもらった時の影響だと思います。私はいろんな技能や魔法に目覚めたみたいですので、そこは心配ないと思います」
「まあ、それはすごいですね」
「リリアさん、すごーい」
遠慮がちに話すリリアだが、マジでとんでもねえことだぞ。こいつ、ただのゴブリンだよな?
俺が疑いの目を向けている中で、リリアは照れくさそうに笑っていた。
「さあ、それはそうと、出発のための準備を始めませんと。わたくしたちの最初の目的地は、隣国ビブラート国ですわよ」
「はい。盗賊を退治して安全に通れるようになったことを報告しに行くんですよね」
「その通りです。ですが、山を越えて王都までとなると、歩きでは十日以上の道のりとなります。そうなると、移動手段をどうにかしないといけません」
やる気のフォルテにメロディも乗っかっている。
だが、モニーだけが現実をしっかりと見ている。
現状では、スフォルというグレイウルフが一体いるだけだ。これでは乗れても二人だから、結局は徒歩移動ということになってしまう。少女であるメロディたちには厳しい話というわけだ。
「だから、ビブラート国の王都まではメゾをつけて馬車で送り届けようというのだ。隣国に出てしまえば私の影響力はなくなる。そこからなら好きにしたらいい」
諦めきれないピアノート子爵が提案をしてくる。
娘が心配なのは分かるんだが、断られても断られても諦めねえとは、父親としての執念が窺い知れるぜ。
だが、ピアノート子爵の執念が通じたのか、フォルテに変化が起きているようだった。
「仕方ありませんわね。これ以上お父様を無下に扱っては、しばらく凹まれてしまいますものね。では、ビブラート国の王都までの馬車をご用いただけるかしら」
「分かった、すぐに用意しよう」
フォルテが折れて受け入れると、ピアノート子爵は表情を明るくして、すぐにメゾに命じて馬車を用意させていた。
だが、ここでメロディとモニーがあることに気が付いたようだ。
「国王陛下のご命令ですから、ここは国王陛下が馬車を用意すべきなのでは?」
「それはそうですね。ですが、あの分では国王陛下は出して下さりそうにありません。私たちは盗賊を退治したという親書だけを届ける役目のようです」
モニーは指摘をしながらも、聖女という立場のせいか、表立って国王の非難ができないってわけか。まったく面倒な立ち位置だな、聖女っていうのは。
「まあ、細かいことはいいですわ。わたくしたちは与えられた命令をこなさなければなりません。すぐにでも出発できるように準備をしますわよ」
「はい、分かりました、フォルテ様」
「そうですね。明日、朝すぐにでも出発できるように準備を整えておきましょう」
フォルテが呼び掛けると、メロディもモニーも返事をしていた。すっかりこの三人は仲良くなったみたいだな。
「私も、同行する以上はしっかりとやらせてもらいます」
「わうっ!」
その三人の様子を見ていたリリアとスフォルも、しっかりとした意気込みを見せていた。
これだけ見ていると、なんとも頼もしい限りに見えてくるな。
だが、こいつらはまだまだ十代の少女だ。ならば、大人である俺たちがしっかりと守ってやらねえとなぁ。
こうして、俺たちの冒険が始まろうとしている。
少女四人と一匹、それと楽器三台という奇妙な組み合わせだが、さあ、どうなるんだろうな。
不安はあるが、どういうわけか心が高鳴ってきやがる。
ともかく、明日の出発に備え、俺たちは少し早めに休むことにしたのだった。




