50曲目 リリア
「きゃっ!」
壁をすり抜けてしまい、私は思いっきりこけてしまいました。
「いたたたた……。ここは一体?」
顔から勢いよくこけてしまったことで、私はとてもダメージを受けてしまいました。
なんとか鼻血は回避したのですけれど、顔を上げて目の前を見た私は、そこにあった光景に驚いてしまいました。
「うわぁ……。宝石や金貨……。盗賊たちは隠し部屋に全部隠していたんだわ」
周りを改めてきょろきょろと見回します。そこはすべてが土の壁。どうやら隔離された部屋があったみたいですね。
でも、私はどうしてこんなところにいるのでしょうかね。みなさんと一緒にいたはずなのに……。
ですが、私はみなさんを探すよりも別な場所が気になって仕方がありません。
「あの宝の山の中から、私を呼ぶ声が聞こえる気がする……」
私は声とは表現していますが、正確には声のような不思議な音といった感じです。
その不思議なものに誘われるようにして、私は宝石や金貨が積み上がった場所の中を必死に探し回ります。
探し物が何かなのかはまったく分かりません。ですけれど、私は見つけなければいけないと感じて、必死にジャラジャラと宝物の山をかき分けていきます。
「あっ、これは……」
私はその宝物の奥底から、棒状のものに球体がくっついた不思議な物体を見つけました。よく見ると、棒状の先端からは細長いものが出ています。
なんとも見たことのない不思議な形状をしていますが、なんでしょうか、私はなんだか見覚えのある気がします。
私は手を伸ばして、その不思議な形状の物体を手に取ります。
その瞬間、私は不思議な感覚に包み込まれました。
なんでしょうか。知っているような懐かしいような、そんな不思議な感覚がしてきます。
『嘘だよ。兄さんが死ぬなんてありえないわ』
私の頭の中に、聞いたことのある声が響き渡ってきます。
『しかしだね。携帯電話のGPS機能から追跡して、山中でその発信が途絶えているんだ。何かあったとしか思えないだろう?』
『山で事故に巻き込まれたなら、どうしてまだ見つからないの? 消えたあたりを探せばすぐなんでしょう?』
『いや、しかしだねぇ……。現場の谷は深いし、捜索隊を向かわせようにも雪が深い。二次被害があってはどうにもならないだろう』
『そんな……。私はそんなの信じないから!』
女性の声は、知り合いと思われる人物との間で口論をしているようでした。
最後に大きな声で叫ぶと、その女性はどこへとなく飛び出していってしまいました。
「私の頭の中に、状況が思い浮かびます。一体、何が……、何が起きているというのですか」
私はとても困惑しております。
だといいますのに、その不思議な感覚は私に遠慮なく私を襲い続きます。
女性はベッドと思われるものに飛び込むと、ごろごろとしながら何かをぶつぶつといっています。声が小さくてよく聞き取れません。
やがて、天井が見えます。
『兄さんは絶対生きている。私は信じている。私が絶対に見つけ出してみせるわ』
女性はそう言うと、そのまま目をつぶってしまいました。
景色が真っ暗になった瞬間、私の頭に激痛が走ります。
「痛いっ! な、なんなのですか、この痛みは!」
あまりの痛さに、私は頭を抱えてその場にうずくまってしまいます。
その痛みがしばらく続いたかと思いますと、急激にすっと落ち着いてきます。
「そうですか……。私がリードさんたちの声を聞くことができたのは、そういう理由からだったのですね」
私はゆっくりと頭から手を離し、そのまま立ち上がります。
「兄さん、私、追いかけてきましたよ。きっと、元の世界に戻してあげますから、そのために頑張りますね」
そう、私はゴブリンのリリアであると同時に、リードさんの妹、暮軽由利なのよ。
「ああ、由利としての記憶を取り戻したせいで、なんだか混乱するわ……」
私はあまりに頭の中が混乱して気持ち悪くなってきてしまう。思わず眉間を押さえてしまうくらいにね。
「でも、私の感覚では、これは転生ではないわね。私は向こうの世界で寝た記憶があるから、もしかして、夢としてこちらの世界を見ているということになるのかしら」
とにかくよく分からないけれど、私は兄さんが存在しているこちらの世界に来てしまったみたい。
私がリードさんたちについていこうとすることや、歌を歌えたことは、私がリードさんの妹だったからだと考えるならばつじつまが合うというものです。
ああ、記憶が混ざってきて、いろいろとぶれてしまっているわ。
「と、とりあえず、私はゴブリンのリリアよ。絶対、兄さんたちに由利だとバレるわけにはいかないわ。呼び方と言葉遣いにとにかく気をつけなくちゃ……」
私はあくまでもゴブリンのリリアとしてこちらでは振る舞うことに決めた。そのためには兄さんのことをちゃんとリードさんって呼んで、語尾は丁寧語で通さなきゃね。
しかし、兄さんたちってば、行方不明になったと思ったらこんな世界に来ているなんて。いくらなんでも非現実すぎでしょうに。
「おーい、リリア!」
「どこに行ったんだ?」
いっけない。仲間のゴブリンが探していますね。
私は混乱する記憶をどうにか整理しながら、今いる部屋を脱出してみんなを連れてこなくてはいけません。
はあ、なんでこんなことになったのでしょうかね。
「このマイクのせいかしらね……」
私は手に握っているハンドマイクを見ながら、大きなため息をついたのでした。




