45曲目 問題の山道へ
最後の中継地点を過ぎれば、王都からついてきてくれていた兵士たちがいよいよ離脱する。
俺たちだけとなった状態で、国境となる山道へと向かっていく。
山道へと入ってからすぐのことだった。
「どうかなさいましたか、リリア」
リリアの様子がおかしいことに気が付いたモニーが、リリアに声をかけている。
「山道に入ってからというもの、嫌な予感が止まらないのです」
どうやら、魔物としての勘なのだろうか。リリアの体は震えが止まらなくなっていたのだ。
その様子を見て、俺たちは危険な連中が近くにいるということを強く認識した。
『スフォル、リリアのことを落ち着かせてやってくれ』
「わふっ」
ベスがそう言うと、スフォルはリリアに頬を擦りつけていた。
「スフォルってば……」
グレイウルフという自分よりも強い魔物に慰められて、リリアは少し落ち着きを取り戻しているようだった。
だが、正直言って不安はまったく消えないもんだ。
メロディたち子どもと、ゴブリンという最弱クラスの魔物たちの群れで、奇襲作戦に長けた盗賊って連中を相手にしなきゃいけないんだからな。しかも、相手の人数が分からねえときたもんだ。
とはいえ、頼れる連中もかなり後方と、完全に孤立状態だ。俺たちでどうにかするしかねえ。
『メロディ』
「なんですか、リードさん」
俺はある策をメロディに授けることにした。
『どうしようもないと思ったら、演奏とか考えずに、やみくもに俺を鳴らせ』
「それってどういうことですか?」
俺の言葉に、メロディは疑問を投げ返してきた。まあ、当然そう思うよな。
『最初のことを思い返せ。俺を意味なく鳴らした時に、相手がどのように反応したかを』
「あっ!」
メロディは初めて出会った時、ウルフに対してどのようなことをしたのかを思い出してくれたようだ。
そう、適当に音を鳴らした結果、ウルフは大音響に驚いてその場で動けなくなったり、慌てて逃げ出していったりした。
つまり、適当に鳴らすことで、相手をビビらせることができるってことだ。
こいつを利用すれば、劣勢に立たされても立場を逆転させることが可能と考えられるってこった。
『そういうことだ。フォルテもモニーも、まずいと思ったら音楽を気にせず、ありったけの気持ちで適当な音を鳴らせ』
「分かりましたわ」
「分かりました。何も考えずに鳴らせばよいのですね?」
『ああ、その通りだ』
二人の反応に、俺は再度確認をしておく。
そんな時だった。俺たちの乗る馬車を操るゴブリンから報告の声が聞こえてきた。
「主たち、前方から複数の気配を感じます。どうしましょうか」
どうやら、リリア同様に、御者役のゴブリンも敵の気配を感じ取っているようだ。
「どうしましょうか、リードさん」
おい、なんで俺に作戦を振ってくる。
子どもばかりとはいえ、まさか俺に質問が飛んでくるとは思わなかったな。
俺は少し考えたが、ひとまずはこのように答えておく。
『気付かないふりをして、そのまま突進。相手の出方を窺おう』
俺の言葉はリリアを通じて、御者役のゴブリンへと伝えられる。ゴブリンはその命令に従い、そのまま馬車を走らせた。
だが、しばらくして、馬車は止まることになる。
それは、目の前に盗賊どもが現れたからだ。
攻撃を仕掛ける前に、姿を見せて止めにきたか……。
「おう、止まれ。ここから先に行くには、通行料を払ってもらうぜ」
おっと、こう来たか。
街道に勝手に関所のようなものを作って、脅して金品を巻き上げる作戦か。実にせこい真似だな。
『リリア、スフォルと一緒に残ってくれ』
「でも……」
『相手は俺たちが弱いとして油断している。スフォルを出すタイミングは見た方がいい。明らかに油断したとみたところで暴れさせれば、それこそ効果的ってもんだぜ』
リリアも仲間として外に出ようとするが、スフォルとぴったりということもあって、リリアが外に出れば自然とスフォルも出てきかねない。そうなると、相手は一気に警戒を強めてしまう。
相手が油断したところに出した方が、相手の動揺を誘えるというものだ。それは、俺たちの演奏のための時間をも稼げることになるだろう。
俺の考えを理解してくれたリリアは、スフォルをしっかりと抱きしめて押さえてくれている。
『そんじゃ、盗賊どもとご対面といくとするかな』
「そうですわね」
「覚悟はできております」
「私、頑張る」
気合いを入れて、俺たちは馬車を降りる。
馬車を降りて俺たちが目にしたのは、いかにもって感じの風貌の男どもだった。いやぁ、実に悪い盗賊のテンプレのような姿をしてやがるぜ。
「おうおう、ガキどもばかりじゃねえか」
「だが、意外に可愛いですぜ、こいつら」
にやけながらメロディたちを見てやがるな。
あまりの気持ち悪さに、メロディたちが怯えちまってるじゃねえか。
「さあ、金目の物を置いていってもらおうか」
盗賊どもは、俺たちに命令してくる。
くそっ、周りからも視線が感じられるから、完全に囲まれてるな。どうしたものか……。
『メロディ』
「リードさん?」
俺が話し掛けると、メロディがびっくりしている。
今はそれに構っている場合じゃないので、作戦だけをとにかく伝える。
『俺がおとりになる。俺をあいつらの近くに置いてくれ』
「そ、そんな」
『考えがあるんだ。ベス、キーボ、頼むぜ?』
『任せてくだせぇ』
『分かっておりますとも、リーダー』
さすがは俺の仲間だな。考えが分かってくれたみたいだ。
あとはメロディ次第だ。
盗賊を目の前に、俺はひとつの策を講じることにしたのだった。




