44曲目 盗賊退治が始まる
交渉の結果、俺たちは馬車を勝ち取ることができた。だが、予想通り御者まではつけてもらえなかった。
貴族用馬車一台と、使用人用の馬車一台の合計二台を使えることになったが、無事に戻すことが条件となった。盗賊相手にそれは無茶な相談だぜと言いたいところだが、俺たちもできるだけそれは目指したい。馬が可哀想だからな。
そんなわけで、作戦を前に、ゴブリンたちには馬車の操作に慣れてもらうことになった。
だが、このゴブリンたちは優秀で、ピアノート子爵家の御者がちょっと教えただけで馬車を軽々操れるようになっていた。いや、名づけした程度でこんなになるものか?
「いやはや、これだけ優秀ならば、うちの領地でも欲しいものだな」
「子爵様、こやつらゴブリンですぞ? さすがによその目というものがあると思います」
子爵が自分のところで受け入れる気満々になったので、部下が一生懸命説得しようとしていたぜ。
いやはや、本当にこいつらどんだけなんだ。あれだけ野蛮な魔物だと思っていたのによ。
とまぁ、こんな感じで過ごしながら、無事に二日後には作戦を実行に移せることになった。
作戦の実行日の朝、俺たちはピアノート子爵邸を出発することになる。
狙われやすいように、馬車の屋根にはたくさんのカバンが置かれている。適当に中身を詰めてあるので、持っただけでは分からないだろうな。
「こんな幼い子たちを危険な目に遭わせるのは忍びないが、国王陛下の命令である以上、私にはどうすることもできん。気を付けて行ってくるのだよ」
「もちろんですわ、お父様。わたくしたちは、無事に盗賊たちを討伐して参りますわよ」
ピアノート子爵の言葉に、フォルテが代表して答えている。さすがは娘だな。
そんな中、外を見ると兵士たちがたくさんやって来ていた。
「お迎えに上がりました。現場の近くまで、我々が護衛いたします」
「そうか。では、娘たちに万一のことがあれば、助けてもらえるのだな?」
「はい。国王陛下は国民の命を無駄に散らすことをよしとしておりません。危険だと感じた時には、我々が盗賊どもを退治してみせますとも」
「分かった。とにかく、娘たちが無事に戻ってこれるように、頼んだ」
子爵とのやり取りの中で、兵士たちはこくりと力強く頷いていた。
だがな、俺たちはどこまで信じていいか正直分らねえ。
こいつらがいると、盗賊どもが出てこねえ可能性があるから、実際には大きく距離を取っているだろう。その中で、俺たちに何かあった時にすぐ動けるかといったら、答えはノーだ。
盗賊どもの情報網がどんなものかは知らねえが、兵士たちがあまりに俺たちと距離を取っていなければ、奴らはびびって襲ってこない可能性がある。
それは、ゴブリンでも実証済みな話だな。怖い存在が近くにいると、そういう連中は一気に慎重になるからな。
俺は、メロディの背中に背負われながら、いろいろなことを考えていた。
「では、ピアノート子爵様。私たちは盗賊討伐へと出発を致します」
「ああ、気を付けて行ってください」
モニーの言葉を受けて、子爵は丁寧な言葉で受け答えをしている。さすがに聖女相手に砕けた言葉は使えねえか。
そんなわけで、子爵たちに見送られながら、俺たちは兵士たちと一緒に王都を出発する。
目指すはビブラート国との国境の手前にある峠道だ。そこに出没する盗賊たちを討伐するのが、今回俺たちに課せられた命令なんだよな。さすがにまだ子どもっていうこともあって、生死に関しては問われちゃいない。とにかく退治しろというのが今回の命令だ。
まあ、俺たちは平和な世界で育ってきたから、相手を殺すっていうのはどうにも気が引ける。それに、メロディたちにもそんなことをさせるつもりもない。
兵士たちがいるし、魔物だっているこの世界だ。殺し合いをするような世界だっていうのは、容易に想像がつく。
「うう、緊張してきました」
「私たち、無事に盗賊退治ができるのでしょうかね」
王都を出発してからしばらくして、メロディとリリアが不安そうな表情を浮かべている。
「大丈夫ですわよ。戦力としてのゴブリンたちとスフォルがいますもの。わたくしだって、少しなら魔法が使えますし、いくら恐ろしい連中が相手とはいえど、一方的にやられるつもりはありませんわ」
『ああ、そうだな』
フォルテの言葉に、俺は同意をする。
『その気になりゃあ、全力で俺たちを鳴らせばいい。でかい音を立てりゃあ、大抵のやつは怯む。その間に、手を打ちゃあいいんだよ』
『そうですね。音楽のないこの世界では、私たちの音はただの騒音。盗賊のような野蛮のやつらに聞かせるには、そういう雑音だけでいいのですよ』
『へへっ、なんか燃えてきたな』
俺がメロディたちに言うと、ベスとキーボもそれぞれ反応していた。まったく、ベスの野郎は相変わらずだな。
「私たちゴブリンも、いうなれば野蛮な存在ですからね。もしかしたら、事前に盗賊の動きを察知できるかもしれません。必ずや、みなさんのお役に立ってみせます」
不安そうではあるものの、リリアは仲間のゴブリンのことを信じているらしく、俺たちにそのように話してきた。おそらく、自分の不安をかき消すためなんだろうな。
「ええ。みなさんのことは、頼りにしておりますよ」
モニーが微笑みながら言葉を返せば、リリアはちょっと安心したようだった。
目的地となる峠道までは数日間の道のりだ。近づくにつれて、俺たちの口数はだんだんと減っていく。
正直言えば、俺たちだって怖い。
だが、まだ幼いメロディたちを守るためには、俺たちがしっかりしねえとな。
動けないからではあるが、不安そうなメロディたちを落ち着かせるため、俺たちはあれこれと手を尽くしたのだった。




