43曲目 ドレスを着たゴブリン
夕食の時間を前に、メイドに連れされていったリリアが俺たちのところに戻ってくる。
「あ、あの……。似合っていますでしょうか」
戻ってきたリリアは、フォルテのおさがりのドレスを着て俺たちの前に現れた。
フォルテの体型とは違うから、やっぱりちょっと厳しいように見えるな。
「ええ、よく似合っておりますわよ。体型的にどうかと思いましたけれど、問題がないみたいで安心しましたわ」
「あ、ありがとうございます。でも、仰る通り、ちょっと胸が苦しいんですよね」
「それでしたら、今回の用件を済ませましたら、新しく仕立てることにいたしましょう」
恥ずかしがるリリアに対して、フォルテはにこにことしながら話をしていた。
やっぱり、胸が苦しいか。そりゃそうだな。
『いやぁ、馬子にも衣裳とは言うが、服装で変わるもんだな』
『リーダー、それは褒めてねえですぜ』
『そうですよ。それの意味は、どんな人であろうときちんと服を着ればまともに見えるという、どちらかといえばバカにした言葉です。気をつけて下さい』
『なんでお前らはそんなに詳しいんだよ!』
俺は褒めるつもりで言ったんだが、ベスとキーボにそろって指摘されていた。
くそっ、俺だけ学がないみたいな感じになっちまったじゃねえか。
「いえ、いいんですよ。私たちゴブリンは低俗な魔物ですから、他人からバカにされてもしょうがないんです。褒めようとして下さったお気持ちだけ受け取っておきます」
リリアはそんなことを言って、俺の間違ったことわざでも快く受け入れてくれた。
くそっ、なんてできた子なんだ。
俺は今、猛烈に感動しているぜ。
「リリアさんは、普通のゴブリンとはずいぶんと違う印象ですね。私たちの演奏を、他のゴブリンたちが耳障りに感じていた中、一人だけ感動していたんですから。性格に差が出ているのも、そこが原因かもしれませんね」
「どうなのでしょうかね。私にはよく分かりませんよ」
モニーが素直に褒めてはいるのだが、リリアは照れたようにしている。
「私の出番がない」
フォルテとモニーがリリアと楽しくやっている中、メロディ一人だけがぽつんとしていた。
メロディは話に入り込めないために、俺を背負いながら嘆いているようだった。
確かにそうだよな。フォルテもモニーも社交性に優れているからな。ただの村人だったメロディには、ちょっとばかりハードルが高かったかもな。
メロディが嘆いている中、その様子に気が付いたリリアがメロディに近付いてきた。
「なんだか、私と近い感じがします。仲良くして頂けますでしょうか」
「あ、私こそ、よ、よろしくお願いします」
手を握られてお願いされると、メロディはものすごくしどろもどろになっていた。
疎外感を感じていたところに急に近付いてこられたもんだから、どうしていいのか分からねえって感じだな。
『おう、リリアも仲良くしてやってくれよな。多分、一番年齢自体は近いだろうしよ』
「はい、そうさせていただきます。お願いしますね、メロディさん」
「は、はい……」
手をがっちりと握られた上で、真っすぐ見つめられている。そのため、メロディは顔を真っ赤にしてしまっていた。よっぽど嬉しかったんだろうな。だから、恥ずかしさも出てきちまったってところだろう。
そんななんともにやけたくなる光景を見せられているわけだが、そのまま放っておくわけにもいかず、フォルテがパンパンと手を打っている。
「そろそろお食事の時間ですわ。お父様と盗賊退治のことでお話をしないといけませんから、わたくしたちも向かいませんとね」
「そうですね。この作戦のカギは、ピアノート子爵様のご協力が不可欠です。盗賊の襲撃に、わざわざ馬車一台を犠牲にするのですからね」
フォルテとモニーの言葉に、俺たちは気を引き締める。
そうなのだ。わざわざ王都に寄ったのは、リピート村の問題が解決したことを報告するためじゃない。
もうひとつの大問題である、盗賊討伐の作戦を練るためだ。
『メロディ、フォルテ、モニー。食堂へは俺たちも運ぶのを忘れないでくれ。俺たちも作戦の要なんだからな』
「ええ、分かっておりますわ」
「もちろんですよ、リードさん」
フォルテとメロディがしっかり返事をしてくれる。
いや、返事をするだけじゃなくて、モニーも含めて俺たちをしっかりと抱え上げている。
「それでは、お父様との交渉の場に臨みますわよ」
「わ、私も頑張ります」
フォルテが呼び掛けると、メロディやリリアも返事をしていた。
貴族令嬢であるフォルテや聖女であるモニーはまだしも、ただの村人であるメロディと魔物であるリリアには、貴族っていうのはやりづらい相手だろうからな。
とにかく、ここで馬車を提供してもらえるかどうかというのが、この作戦の一つのカギになる。
馬はいいだろうが、多分馬車に乗る人、御者っていったっけか、それは難しいかもしれない。それはゴブリンを適当に変装させればいけるだろう。
俺たちは、交渉の場となる食堂へとやって来た。
無事に盗賊退治を成功させるために、なんとしても馬車を勝ち取るぜ。




