42曲目 王都への帰還
俺たちはいよいよリピート村を出発する。隣国との信頼関係にも影響するとあって、盗賊どもをいつまでも放っておくわけにはいかないからだ。
とはいえ、急ごしらえのゴブリン部隊で、盗賊の攻撃をどこまで止められるかという不安はある。
そして、この作戦を実行するにはもう一人、協力が必要になる。
フォルテの親父さんである、ピアノート子爵だ。
金目の物を持ったいかにも襲いやすい馬車を仕立てて、盗賊をおびき出さなければならないからな。そのためには、ピアノート子爵家の紋の入った馬車を用意してもらうのがいいというわけだ。
作戦の方向性が決まったことで、俺たちは一度王都へと戻ることになった。
ところが、当然のことだが、王都の入口で兵士たちに止められてしまう。
十数人もゴブリンが同行していたら、そりゃ誰だって止めるだろうさ。魔物は人間の敵という認識なんだからな。
この状況で恐れずに前に出てきたのは、意外にもリリアだった。
「兵士のみなさま、どうか武器をお納めください。私たちは、モニー様の忠実なる部下でございます」
リリアは堂々と、聖女モニーの配下にあることを告げていた。
他のゴブリンもそうだが、ことリリアは頭がいい感じである。俺たちとの間できちんと会話を成立させているんだからな。多少難しい言葉を使ってもきちんと話が続く。他のゴブリンだったら、あのシシーモですらもそこで話が途切れるんだからな。
「私たちは、モニー様たちの音楽に感動し、心を入れ換えました。私たちは人間に害をなしません。お願いです、街に入れていただけませんでしょうか」
リリアは必死に門番たちに訴えている。
門番たちも、さすがにゴブリンがしっかりとこんな風に訴えてくるとは思っていなかったらしく、どうしたものかと戸惑っているようだ。
まあ、俺たちだって驚くさ。
だってよ。初めて見た時は瞳なんてなくて、「ギギギ……」っていう言葉しか話してなかったんだからよ。
それがどうだ。今はこんなに流暢に喋れるようになってるんだからな。これなら十分、会話を成立させられるってもんだ。驚くべき進化だよ。
リリアやモニーたちの訴えにもうろたえていた門番たちだが、俺たちと一緒に戻ってきた兵士たちが話に加わると、ようやく折れてくれた。
これでようやく、一度城に向かうことができるってもんだ。
だが、さすがに魔物をたくさん連れているとなると、周りからは相当に奇異な目を向けられてしまう。
まあ、俺たちは楽器となってしまっているからなんてことはないんだが、一番心配なのはこういうのに一番耐性がなさそうなメロディだな。参らなきゃいいんだが、心配だぜ。
『メロディ、あんまり気にするな。前だけ見てしっかりと歩くんだ』
「は、はい。リードさん」
俺が声をかけるが、やっぱり声がどことなく弱々しい。ずいぶんと参ってやがるな。
『フォルテ、帰りは馬車で送ってもらえるようにしてくれねえか?』
「分かりましたわ。陛下に頼んでみますわね」
俺がフォルテに伝えると、意外とあっさり頷いてくれた。
無事にお城に着いたのはいいが、ゴブリンたちを大勢連れているせいで城門までしか進むことはできなかった。魔物だから警戒されているってことだな。まっ、しょうがねえ。
だが、一応これでリピート村のゴブリン被害を解決したという報告はできた。
馬車を手配してもらうように頼むと、結局、ピアノート子爵邸から馬車を連れてきてもらうことになってしまった。
ちなみに、王都まで乗ってきた馬車は、よりにもよって街の入口で回収されてたんだよ。だから、王都の中は奇異の目を向けられ続けてたってわけだな。
しばらく待つと、ようやくピアノート子爵家の馬車が城門にやってくる。
俺たちはその中に乗り込み、ゴブリンたちは天井に乗っての移動となった。ゴブリンたちは意外と運動神経がいいのか、結構器用に天井に上がってたな。
こうして、俺たちはピアノート子爵家に戻ってきた。
「あら、モニー様までなんでいらっしゃるのですかしら」
「あ、本当です」
馬車から降りたところで、メロディとフォルテが今さらという感じでモニーを見ながら質問をしている。
「だって、私たちは仲間ではないですか。それに、陛下からのご命令はまだ終わっておりません。ですので、教会に戻るわけにはいかないのですよ」
「そ、そうでございますか……」
はっきりと言いきるモニーに、さすがのフォルテも呆れた表情を浮かべている。
「すごい。これが人間の住む場所ですか」
「そうですわね。ここはわたくしのお父様が持つお屋敷ですわ。今日のところはここで休みまして、明日には盗賊討伐へと出発致しますわ。しっかりと休んで下さいませ」
「はい!」
フォルテに言われて、リリアは元気よく返事をしている。
「それでは……」
「え?」
次の瞬間、リリアは両脇をピアノート子爵家のメイドにがっちりとつかまれていた。
「リリアさんは、わたくしたちと同行するといっておりますので、きれいにして頂きませんと。服はわたくしのおさがりでごめん遊ばせ」
「え、えええっ?!」
俺たちが見守る前で、リリアはメイドたちに引きずられていってしまった。
一度王都に戻ってきた俺たちは、こうして、ひと時の休息を過ごしたのだった。




