4曲目 メロディの村
おうっ、俺は暮軽利威度だ。
年末のライブを終えた俺たちは、山で初の日の出を見ようと車を走らせていた。
だが、ノーマルタイヤを履いた対向車がスピンを起こし、それを躱そうとした俺たちは車ごと冬山の崖下へと落ちてしまう。
目を覚ました俺は、どういうわけか見たことのない世界にやってきており、メンバーとも離れ離れになった挙句、俺自身は自分の使っていたリードギターの姿になっちまっていた。
その状況でたまたま出くわした現地の少女であるメロディに連れられて、俺はメロディの生まれ育った村へとやってくることになった。
まったく、どこのラノベの話だっていうんだよ。
釈然としない状況ではあるものの、とにかく現状を確認するために、村で情報を集めることにしたぜ。
俺が置かれていた場所から、どのくらい歩いただろうな。ようやく貧相な家ばかりが並ぶ場所が見えてきた。
なんだよ、あれ。貧弱な箱が見えるが、あれが家か?
木と泥とわらで作ったような家だな、おい。あんなもの、強風でもが吹けば一発で吹き飛びそうだぜ。
「おおっ、戻ってきたか、メロディ」
「は、はい、ただいまです」
入口付近にいたおっさんに声をかけられて、メロディはなぜかびっくりとしている。住んでる村の住民相手に何をびびってんだ?
「メロディ、その手に持ってるのはなんだ?」
『うるせえぞ、おっさん。俺の魂ともいえるギターを、そんな目で見るんじゃねえよ!』
俺が叫んでいるものの、おっさんはまったく反応を示さない。一体どういうことだ?
『メロディ、俺の声は聞こえるか?』
「はい、聞こえますよ」
メロディに話しかければ、ちゃんと答えが返ってくる。
「メロディ、誰に話しかけているんだ?」
「えっ? えっと……、なんでもないです」
おっさんに尋ねられて、メロディは笑ってごまかしていた。
これで俺はピンときた。どうやら俺の声はメロディにしか聞こえていないらしい。
あの謎の声が言っていた”演奏者”って相手にしか、俺の声が聞こえないってことか。
喋る楽器とかいって奇異の目で見られることはなさそうなんで、それはまあよしとするか。
「こ、これは森の中で拾ったんです。私が持たなきゃいけない気がしたので、拾って帰ってきたんです。そ、それだけです!」
おっさんに対して答えるだけ答えると、メロディは俺を抱えたままどこかへと走っていく。
その時のおっさんの間抜け面は笑えたが、状況がまったく安心できないので、そういつまでも笑ってはいられなかった。
メロディは村の一角にある家の中へと飛び込んでいく。
「ただいま!」
自分の家だったらしく、その挨拶だけをすると、部屋のひとつにそのまま飛び込んでいた。
『ここが、メロディの家か』
「はい、そうです。と、とりあえず、あなたが何者が聞かせてもらえませんか?」
『そうだな。名前を教えてもらっておきながら、自分が名乗らねえのは失礼だからな』
メロディの言い分を、俺は聞き入れる。俺はメロディの膝の上に乗せられた状態で、自分が何者であるかを名乗ることにした。
『俺の名前は暮軽利威度っていう。まあ、リードとかリーダーとかいう風に呼んでくれ』
「リードさんですね。分かりました」
俺の言葉に、メロディは素直に応じていた。すごくいい子なんだろうな。
『俺は本当は人間だったんだが、なんか事故のせいで俺の使っていたギター、今メロディが持っているこの楽器になっちまったみたいなんだ』
「そうなんですね。ところでギターとか楽器とかって何のことなんですか?」
『……うへぇ、そこからかよ』
反応を見て直感した。
どうやらこの世界じゃ、音楽のことが分からないようだな。めんどくせえが、これはちょっと説明してやんきゃいけねえな。
『楽器っていうのは、音楽を奏でるための道具だ。さっき、弦を弾いたら音が出ただろう?』
「そうですね。変な音でしたけれど」
うおっ、正直に言ってくれるな。音楽に造詣がないと、こんな風になっちまうのか。
『変な音とは言ってくれるな。ちゃんと扱えば、俺はいろんな音を出せる。あとで教えてやるから、楽しみにしててくれや』
「は、はいっ」
背筋を伸ばして返事をしているあたり、この子はずいぶんと大切に育てられて真っすぐに育った子なんだろうな。
まったく、ひねくれて育った俺にとっちゃあ、ちょっと不釣り合いな相棒だな、おい。
まあ、それはいい。
あの声の通りであるなら、俺はこのメロディという少女を、俺を扱う相棒に選んじまったということになる。となりゃあ、俺はメロディを立派なギタリストにしなきゃいけないってことだな。
そう思えば、なんか燃えたきた気がするぜ。
さっき、一回音を鳴らしただけであれだ。うまく使いこなせるようになりゃあ、きっといろんなことができるんだろうよ。
『おっしゃー! メロディ!』
「ひゃ、ひゃいっ!」
『さっきの約束通り、この世界のことを教えてくれ。それを聞きゃあ、なんで俺がこんな風になっちまったかの答えも見えてくるだろうからよぉ』
「わ、分かりました。では、私の知っている限りをお教えしますね」
『おう、よろしく頼むぜ、相棒!』
そんなわけで、俺の奇妙な異世界での生活が幕を開けた。
だが、この時は思ってもみなかったぜ。
この世界の大物相手に、ぞくぞくするようなライブをすることになるとはよおっ!




