39曲目 不思議なゴブリン
リピート村へと戻ってくると、一部のゴブリンたちは早速自分たちが荒らした畑へと向かっていく。
追っかけていって確認をしてみると、自分たちの手で荒らした地面を均し始めた。まったくどういうことなのだろうか、よく分からない。
「何をしていらっしゃるのですか?」
「次に備えて、地面をきれいにしているんです。私たちだって、農作業くらいはできますから」
「まあ、そうなのですね」
どうやら、地面を耕して次の作物を育てられるようにしているらしい。
「ですが、その前にまずは村の人たちときちんと話をしませんとね」
「は、はい……」
モニーに咎められて、地面をいじっていたゴブリンたちが手を止めていた。
それにしても、このゴブリンたちは声の感じからして女性だな。見た目だと男女の区別があんまりつかないんだよなぁ……。強いて言うなら、女性のゴブリンの方が髪の毛が多いくらいか。
まぁこんな勝手な行動を取るとは思ってみなかったな。当然だが、このゴブリンたちはシシーモに怒られていた。
「まったく、先に話し合いをしなければいけないといったではないですか。勝手な行動は控えて下さい」
「ご、ごめんなさい」
さすがに群れのリーダーともいえるゴブリンに怒られては、おとなしくするしかなかったようだ。
結果として、リピート村と同じところにゴブリンの集落を作ることになった。今までのように他者を襲うことなく、リピート村の人間と協力し合って群れを維持することを約束することになった。
正直言って、魔物であるゴブリンがそれを守れるかという不安はある。だが、シシーモはモニーに対して強く約束をしていた。
「俺たち、聖女様に名をいただきました。その恩を感じておりますゆえ、迷惑をかけるようなことは絶対に致しません」
シシーモを筆頭に、ゴブリンたちはしっかりとした誓いを立てていた。
なんとも信じられないが、これがあの野蛮と恐れられたゴブリンである。この状況には王国の兵士もリピート村の人たちも、もちろん俺たちだってびっくりするしかなかった。
いやぁ、こんないうことをしっかり聞いて誓いを立てるゴブリンなんて、創作の世界にしかいねえと思ってたぜ。
その日の夜、俺たちはリピート村に泊めてもらうことになった。
さすがにゴブリン被害の直後だっただけに、宴のような豪勢なことはできなかった。
ただ、俺たちの配下になったゴブリンたちのおかげで、リピート村の食料事情はちょっとだけ改善したようだ。
人は増えたんだが、ゴブリンがいろいろと木の実とかのある場所を知っていたのが大きかったようだ。
「村長殿、私たちにも農業や牧畜を手伝わせて下さい」
「うむ。村の一員になった以上はしっかりと働いてもらいますよ」
「もちろんですとも」
いや、本当にゴブリンとは思えないくらいに賢くなったな。言葉も話せなかったっていうのにさ。
名づけの効果はなんとなく漫画とかの知識で持ってはいたが、目の前で実際に見るとずいぶんと驚かされる話だぜ。
「聖女様」
「なんでしょうか、シシーモさん」
みんなで集まっている中、シシーモがモニーに話しかけてきた。
「実は、俺たちの仲間を一人ほど聖女様に同行させていただきたいのです」
「そうなのですか」
シシーモの話を聞いて、モニーは不思議そうな表情を浮かべている。
さらに詳しく聞いてみると、どうやら俺たちの演奏を聴いて涙を流していたんだとか。他の連中が耳を塞いでいたというのに、そいつだけは耳も塞がずにいたらしい。
大したもんだと思っていたら、シシーモがそのゴブリンを呼んできた。
「お呼びでしょうか、シシーモ様」
現れたゴブリンは、他のゴブリンとはちょっと違った感じのゴブリンだった。いや、見た目の印象はゴブリンなんだが、なんでこいつだけこんなに違うんだろうな。
「こやつは聖女様にリリアと名付けられた子です」
「初めまして、聖女様。リリアといいます」
体の前で両手を合わせて、深く頭を下げている。これがゴブリンだとは思えないくらい、姿勢がきれいな少女のゴブリンだった。
「私、みなさまの演奏にとても感動しました。ぜひとも一緒に連れていっていただき、一番のおそばで聞かせていただきたいのです」
リリアは俺たちに必死にお願いをしている。そのお願いに、モニーたちは顔を見合わせている。
「分かりました。お連れ致しましょう」
「よろしくですわね、リリアさん」
「仲良くしましょう」
「はい、ありがとうございます」
メロディたちが快く迎えいれるという返事をすると、リリアはとても嬉しそうに再び頭を深く下げていた。
『おう、俺たちもよろしく頼むぜ』
『可愛い子が増えるのは嬉しいねぇ』
『まったく、ベスは他の感想がないんですか。まあ、私たちも歓迎しますよ、リリアさん』
「はい。というか、この声はどこから聞こえてくるんですか?」
「え?」
俺たちが声をかけていると、なんということだろうかリリアに俺たちの声が聞こえていた。
なんとも衝撃的ことで、俺たちは驚きのあまりしばらく動くことができなくなってしまったのだった。




