37曲目 ゴブリンを連れて
ベスがどうにか対話を試みてみると、意外にもベスはゴブリンと意思疎通ができていたようだった。
『おい、なんて言ってるんだ?』
さすがに俺たちには分からねえから、ベスに早速聞いてみるぜ。
『どうやら、こいつらは俺たちに従うらしいでさぁ。どうやら、さっきの俺たちの演奏で感動したらしいですぜ』
「ただうるさがっていたようにしか見えませんでしたけれど?」
ベスがゴブリンの話を通訳していると、フォルテが容赦ないひと言を浴びせてきた。
確かにその通りなんだよなぁ。メロディたちの演奏中、ゴブリンどもは一匹残らず耳を塞いでいたんだからよ。
とはいえ、こいつらの行動を見れば、言葉に信ぴょう性はある感じなんだよな。ただ、こいつらが魔物で、今まで散々迷惑をかけてきたわけだから、俺たち以外にはどうだというところが問題だろう。
そこで、俺はベスに頼んで、ゴブリンたちにある提案を持ちかけることにした。
『よし、こいつらの中から一匹、代表を選んでもらって、俺たちと来てもらおう。さすがにいきなり全員連れていくと、村人や兵士たちが警戒してしまうからな』
「そうでございますね。では、スフォル、見張りをお願いできますでしょうか」
俺の提案にモニーが乗っかれくれた。そして、すぐにスフォルに命令を出している。ところが、スフォルはモニーの言葉にはまったく反応しなかった。
「スフォル、モニー様のお言葉に従って下さいませ」
「わうっ!」
フォルテが続けて命令を出すと、スフォルは元気に返事をしていた。どうやら、スフォルにとっては主はフォルテだけらしい。聖女であるモニーですらも従わせられないとは驚きだぜ。
スフォルはフォルテの命令通りに、代表となったゴブリン以外をじっと睨みつけている。その鋭い視線に、ゴブリンたちは怯えて震えるばかりだった。実力差が分かっているっていうことなんだろうな。
「では、すぐできるだけ早く戻って参りますので、スフォル、見張りを頼みましたわよ?」
「わうっ!」
元気なスフォルの聞きながら、俺たちは村へと戻っていく。
さすがにこういう話になると、ただの村人であるメロディには出番なしだな。
落ち込んでいると思って、俺はメロディの様子を見てみるが、特に落ち込んでいるような様子はなかった。それどころか、なにやらぶつぶつと独り言を言っているようだ。
『おい、メロディ』
「はい? なんでしょうか、リードさん」
俺が話し掛けると、メロディは普通に反応していた。
『何を考えているんだ、メロディ』
ちょっとだけびっくりしたが、俺は構わずメロディに質問をする。
俺に質問をされて、メロディはちょっと俺から視線を外して唸っているようだ。
「いえ、このゴブリンにはどのような名前がいいでしょうかと考えていました」
メロディはこの状況で、ゴブリンの名前を考えていたらしい。なんとも切り替えが早いこったな……。
「あら、それはいいですわね」
「私も賛成でございます。スフォルのこともありますので、このゴブリンの名前を決めてしまいましょう」
話が聞こえていたらしく、フォルテとモニーが参戦してきた。
「ギギ……」
その様子を見ていた、代表のゴブリンが怯えているようである。
ところが、子どもとはいえ聖女がいる状態で逃げられるわけもなく、ゴブリンはしっかりと腕をつかまれてしまっていた。
その状態で話し合うことおおよそ五分くらいだった。
「名前が決まりましたわ」
「はい、とてもお似合いだと思います」
フォルテとモニーがにこにことしている。ただ一人、メロディだけがちょっと複雑そうな顔をしていた。どういうことなのかは、あえて聞かないでおこう。
「それでは、せーので発表ですわよ」
「はい。せーの!」
フォルテが最初に発言して、モニーがなぜか合図を送っている。その次の瞬間、三人の口からゴブリンの名前が発表される。
「シシーモ」
「ですわよ」
「です」
声がぴったりとそろっていた。ここまで息が合うってのはすげえな。
『一応、名づけの理由をお聞きしてもよろしいですかな?』
ここでほとんどしゃべっていなかったキーボが、ここぞとばかりに口を開いている。
「はい。スフォルの反対の意味ですね」
モニーは名前の由来をそう話している。
『なるほど、特に強くの反対といえる非常に弱くからか』
『ゴブリンは、それだけ弱い魔物ってことなのですかね』
「はい。ただずる賢いので対処は必要になりますけれど、一対一では子どもでも撃退できるような魔物です」
『はえー、そうなのかよ』
俺たちはゴブリンという魔物について聞いて、なるほどなと思った。ピアニッシシモを由来にされるのも納得がいくと思った。
ところがだった。
名づけられたゴブリンに、妙な変化が起こり始めた。
『な、なんだ?!』
「あら、これは……」
『知っているんですかい、フォルテさん』
「スフォルの時にも、このような感じのことが起きましたもの」
フォルテは落ち着いているが、俺たちは驚きを隠せない。
シシーモと名付けられたゴブリンは淡く体が光って、少しばかり体が立派になったのだった。
「おおお、これは進化なのか?!」
『しゃ、しゃべったー?!』
変化が起きたゴブリンは、なんとまともに喋り出した。
一体何が起きたっていうんだよ、おい。




