34曲目 リピート村へと向けて
王都を出発した馬車は、ゴブリン被害に悩むリピート村へと向けて進んでいく。
それにしても、リピート村とはひどい名前だ。リピートっていうのは繰り返すっていう単語だからな。つまり、村はこういった魔物被害を繰り返し受けているっていうことなんだろう。まったく、名は体を表すとは言うが、こういった縁起でもねえ名前は変えちまえよな。
まぁ、愚痴りたいことはたくさんあるんだが、メロディの様子がどうにも浮かないんで、俺もあまり騒ぐ気にはなれねえ。
これだけメロディが落ち込むのも無理はないだろうな。自分はしがない村の少女だっていうのに、俺を拾っちまったばかりに村を追い出され、王都までやってきたらモンスター退治を言い渡されるんだからよ。いろいろと思うところがあるだろう。すっげえよく分かるぜ、まったくよ。
とにかく、リピート村へと向かって進む馬車の中の雰囲気はとにかく重い。なにせ馬車を取り囲む兵士たちもよ、村で話をするまでしかついてきてくれねえ。討伐自体はメロディたち三人だけでやんなきゃいけないんだよ。まったく、こんなひどい話があるかっていうんだ。
とはいえ、俺たちはこんな体じゃ文句を言うだけしかできねえ。ならば、手助けをするにも三人に演奏してもらわねえことにはどうにもならねえんだよな。
ああ、くそっ。もどかしすぎるってもんだ。
『なあ、メロディ』
耐え切れずに、俺はメロディに声をかける。
「なんでしょうか、リードさん」
メロディが俺を抱えて声をかけてくる。その表情は、見たことないくらいに落ち込んだ表情をしている。まるで村を追い出された直後を思い出すくらいの表情だな。いや、あの時よりもひどい気がする。
『ゴブリンがどういうものかは、俺たちは想像の中でしか分からねえ。だが、どんな奴らが相手だろうと怯むな。俺たちを思いっきりかき鳴らせ。俺たちの熱い魂のこもった音楽をぶつけてやるんだ』
「……リードさん」
俺のかけた言葉にも、メロディはあんまりよくない反応を見せていた。これはマジでずいぶんと落ち込んでいる感じだな。
国のトップがあんなことを言うんじゃ、絶望もしたろうなぁ……。本当に慰めのひとつもろくにかけられねえ。
『こんな体じゃ、お前の頭を撫でて慰めることもできやしねえ。口ばっかで悪いな』
「いいえ、リードさんのおかげで少し気が楽になりました。ありがとうございます」
メロディはそう言いながら笑っていたがな、眉が困っている形なんだよな。相当にまだ不安を感じていることがよく分かる。
「ここまで来たら、リードさんの言う通り、腹をくくるしかありませんわね。ベス様、お力をお貸しくださいまし」
『おう、任せておくんなせえ。ゴブリンだかコボルトだか知らねえが、俺たちの音楽の前に敵はねえですよね、リーダー!』
『まったく、お前は気楽だな。だが、その通りだ。俺たちの音楽は魂を揺さぶることを目指している。相手に心があろうがなかろうが関係ねえ。俺たちの音楽の前にひれ伏させてやるぜ』
『ふっ、その通りですよ。元々世界を獲るつもりで音楽の世界に飛び込みましたからね。やってやりましょう、リーダー』
『おうよっ!』
ベスの言葉をきっかけにして、俺たちはとにかく盛り上がる。その様子を聞いていたモニーが、つい笑いだしてしまったようだ。
「ふふっ、本当に心強い方たちですね。音楽で世界を獲る、ですか。実に楽しそうな話ではないですか。私にも手伝わせていただきたいものですね」
『おう、頼りにしてんぜ、モニー』
『ええ、ともに頑張りましょう、モニーさん』
俺たちの会話をきっかけにして、馬車の中の雰囲気はあっという間に明るさを取り戻していた。不安がっていたメロディも笑顔を見せるようになって、俺もひと安心ってもんだよ。
すっかり気を取り直した俺たちではあったものの、馬車の外の雰囲気は対照的に重苦しい感じになっていっていた。
それというのも、目的地であるリピート村が近付いているからだ。
ある程度まで近付くと、取り囲む兵士の一人が俺たちの乗る馬車へと近付いてきた。
「間もなくリピート村に到着する。村の中で話をした後、お前たちにはゴブリン討伐に向かってもらう。しっかりと心構えをするように」
兵士はそれだけ言うと、再び馬車から離れていく。
『いよいよか……』
俺たちの間には緊張が走る。
メロディやフォルテはウルフに囲まれた経験があるが、今回のゴブリンとやらは初めて遭遇する相手だ。モニーにとっては初めての魔物だろう。
俺たちが三人の表情を見るが、やはり緊張の色が窺える。やはり、経験したとはいっても、魔物と向かい合うというのはそれだけ危険だってことなんだな。
『なに、俺たちにスフォルもいるんだ。みんなは演奏に集中してくれりゃあいいんだよ』
「そ、そうですわね。スフォル、私たちを守って下さいね」
「わふっ!」
俺の呼び掛けに反応したフォルテは、馬車の中でおとなしく座っているスフォルに声をかける。そのスフォルは、任せてくれと言わんばかりに鳴いていた。
おう、頼りにしてるぜ、犬っころ。
俺たちが気を引き締める中、馬車が速度を落とし始める。
どうやらリピート村に到着したようだった。
さあ、ここから俺たちの伝説を始めるとしようじゃねえか……。
緊張とともに、俺の心の中には言い知れぬわくわく感が湧き上がってきていたぜ。




