30曲目 理解してもらわないとな
さて、魔法を見られて興奮していたが、忘れちゃいけねえのは、メロディたちの演奏技術だな。
スキルで俺たちの技術を共有しているとはいえ、本人たちはずぶの素人だ。スキルなしでもきちんと演奏できるように指導してやらねえとな。
「えっと、わたくしたちに演奏をできるようにしろと仰られるのですか?」
ちょうどメロディたちが集まっているとあって、俺が提案をしてみる。
フォルテだけがすんなりと反応しているな。
『ああ、そうだ。今は俺たちの技術と知識でなんとかしていられるって状況なんでな』
『確かにそうですね。せめて、楽譜を読む力だけでも身につけていただきませんとね』
「楽譜でございますか」
俺の意見に、キーボのやつも同意してくれた。
普段はどことなくナルシスとなこいつだが、意外と意見が合うんだよな。俺とは自信家っていう共通点があるからか?
楽譜の話には、モニーも反応をしている。
『はい、モニーさん。楽譜というのはいわば音楽における設計図です。曲という作品を仕上げるためには、その組み立てを記した楽譜というものが必要なのです』
「なるほど……。それは確かに重要なことですね」
「文字が読めなくても、大丈夫なのかな」
『それは心配ないぜ、メロディ。楽譜にも文字はあるはあるが、絵のようなものだ。覚えちまえば見ただけで分かるようになってるからよ』
「それなら安心ですね」
不安そうにしていたメロディだが、俺がそう言ってやればとても安心したような表情を見せていた。
となれば、次は楽譜の話だな。
国王の前で演奏していた時は、スキルのおかげで楽譜も問題なくすんだが、やはり今後を考えると読めた方がいい。
だってよ、俺たちといつまで一緒か分からねえしな。もし俺たちがいなくなったとしても、音楽は定着させてほしいからよ。
『ってわけだ、紙とペンを持ってきてくれ』
「分かりましたわ。少々お待ち下さいませ」
そういって、フォルテが部屋を出ていった。フォルテに懐いているスフォルのやつも、あとを追うように部屋を出ていく。いや、怖い魔物なはずなんだが、今じゃただのでかいわんこだよな。
『この世界じゃ、紙っていうのは貴重なものなのか?』
「そうですね。私の村では見たことがありませんからね」
「はい、その通りです。獣の皮を伸ばして作った羊皮紙というものを使っています」
『羊でもなくても羊皮紙なのですかい?』
「最初が羊でしたから、そのように呼ばれているだけですね」
なんともまあ、あいまいなもんだな。
俺たちの世界でも似たようなものがあるか。ゲーム機なんかがいい例だ。後継機がいくら出ようとも、執拗に最初のゲーム機の名前で呼ぶやつがいたりするからな。
そうやって話をしていると、ようやくフォルテが部屋に戻ってきた。
「お待たせしましたわ。さすがに貴重品ということで、三枚しか持ってこれませんでしたわね」
『まあしゃーねえな。それじゃ、短い曲で試してみるか』
確保できないのであれば仕方がない。紙はほとんど仕事の書類に使っちまうらしいから、自由にできる数は少ないんだそうだ。
こりゃあ紙の方もどうにかするしかないが、俺たちにはその辺の知識がねえ。今は我慢するしかねえな。
小学校の頃に習う童謡のあたりから、俺は適当に選曲する。
その譜面をイメージして、俺はメロディに共有させる。
『メロディ。今、俺が思い描いている譜面をそのまま紙に書き写してくれ』
「わ、分かりました。うう、こんな貴重なものを、私がいじってもいいのでしょうか」
「メロディさん、気になさらないで下さい。私たちでも書き損じなんてよくするのですから、恐れていてはいけませんわ」
「は、はい……!」
フォルテからの後押しもあって、メロディは俺が頭に思い浮かべた譜面のイメージを受け取って、羊皮紙の上に書き記していく。
めっちゃ手が震えてるんだが、あれで大丈夫なのかよ……。
あまりにも自信なさげなメロディの様子に、俺はものすごく心配になっていた。
だが、俺の心配をよそに、メロディはどうにか譜面の模写に成功していた。
「見たこともないものばかりですね」
「そうですわね。これは……文字なのかしら」
実際の譜面を目にしたメロディたちからは、いろいろと言葉が出てくる。
いや、よくこれであの場でちゃんと演奏できたもんだな。
『俺たちはこいつと嫌ってくらいに付き合わされてんでさ』
『嫌ならいつでもやめてよかったんですよ、ベス』
『誰がバンドの話をしてやがる!』
『お前ら、やめろ。メロディたちが引いてるぞ』
ベスの不用意な発言のせいで、メロディたちが俺たちに変な目を向けていた。
まったく、俺たちの仲が悪いなんて思われたら、まともに話も聞いてくれなくなるだろうが。少しは状況を考えてくれよな。
『まあ、悪かった。今からこの楽譜の説明をしていくから、とにかく今は俺の話にだけ集中しておいてくれ』
「分かりました、リードさん」
「承知致しましたわ」
「はい、よろしくお願いします」
俺はうまく三人の意識を俺だけに集中させる。
さあ、それじゃお勉強の時間だぜ。
メロディ、フォルテ、モニー。最後まできちんとついてきてくれよな。




