26曲目 謁見の間
扉が開き、俺たちは中へと案内される。その空間は、なんていうかかなりだだっ広い空間だった。
『くっそう、無茶苦茶ライブ向きの空間じゃねえか』
『話に聞いたことはありますが、実物を見るとなんとも言えない気持ちになりますね』
『こんなところで演奏れたら、爽快だろうなぁ』
俺たちはそんなことを思ってしまう。これが根っからのバンドマンってやつだな。
俺たちの反応に、フォルテは呆れ、モニーとかいう聖女様は笑っていた。なんかおかしなことを言ったか?
「君たち、国王陛下の御前だ、ちゃんとしてくれ」
「も、申し訳ございませんですわ、お父様」
「はい、そうですね。失礼致しました」
ピアノート子爵から注意された二人は、表情を引き締めて再び前をしっかりと見ている。
目の前には段があり、その上には立派な椅子が二脚置いてある。あれがいわゆる玉座というやつだろう。
そこにはこれまた豪華な衣装に身を包んだ男性と女性がいる。話から察するに、国王と王妃っていう人物なんだろうな。なるほど、明らかに雰囲気が違うってもんだな。
『おい、メロディ。一体どうしたんだ?』
俺はメロディの様子がおかしいことに気が付く。
謁見の間ってやつの大きさに感動して気が付かなかったが、メロディの動きがなんといってもぎこちない。俺が話し掛けても返事がないくらいだ。
「リードさん、仕方ありませんわ。メロディさんは平民の中でも下の村人ですから、国王陛下にお会いするなんて機会はまずありません。緊張してしまって思うように動けないのですわ」
『な、なるほどな。俺もお偉さんに会うと緊張しちまうから、それの極まった感じになってるってわけか。フォルテ、悪いがもしもの時はメロディを支えてやってくれ』
「分かっておりますわ」
俺たちは歩きながら、話をしていた。
ようやく俺たちは段の下、国王たちの目の前までやって来た。ひしひしと感じるプレッシャー、これが王の威厳というやつなんだな。
兵士に止められたピアノート子爵たちは、王の前に跪く。どうしたらいいのか分からないメロディは、ピアノート子爵の動きを真似ていた。
「よく来たな、ピアノート子爵。余に報告したいことがあると言っていたが、まさか聖女まで同行してやってくるとは思わなかったぞ」
「はい。陛下、その通りでございます。どうやら私たちと同じでして、聖女様にも報告なさりたいことがあったようなのでございます」
国王に声をかけられたピアノート子爵は、聖女に言及されたことで説明をモニーに全部丸投げしたようだ。
「ほう……。聖女よ、それはまことか?」
ほら見ろ。見事にモニーに流れ弾が飛んだじゃねえか。まったく何してくれてんだよ。
つい心の中でツッコミを入れてしまう俺だが、話を振られたモニーはまったくもって落ち着き払っていた。これが聖女か。
「はい、陛下。その通りでございます。どうやら、ピアノート子爵様のご報告の内容が、私がいずれ報告しようとしていたこととかぶっておりまして、それで私も今回ご同席をさせていただいたのです」
「ふむ。では、その内容を申してみよ」
国王はそのままモニーに話を振っている。
よく見るとピアノート子爵がほっとした表情をしているぞ。厄介ごとを押し付けられたと思って、このおっさん、安心をしてやがる。
「はい。では、陛下、許可をいただいてもよろしいでしょうか」
「ほう、どのような許可だ?」
「私とフォルテ様、メロディ様の起立の許可でございます。立った方がよく分かりやすいかと思いますのでね」
「分かった。ただし、妙な真似はするでないぞ」
「存じております」
にこっとモニーは笑っていた。さすがは聖女、余裕があり過ぎだろう。
このやり取りによって、メロディとフォルテも立ち上がることになった。何かと思えば、くるりと後ろを向いて、背負っているものを見せるというものだった。
「なんだ、それは」
「私たちが拾いました妙な道具でございます。この道具を巡って、国王陛下にご報告をせねばと思い、今回の場を設けていただいたのです」
「妙な道具とな……。確かに、見たことのない形と構造をしているようだが」
国王はあごを手で触りながら、なんとも表情を歪めている。まあ、この世界の人間からしたら、俺たちは未知の道具だろうからな。楽器とかねえんだからよ。
「はい。彼らによれば、楽器といわれる音を鳴らすための道具だということだそうです。そこで私は考えたのです。このような得体の知れない道具が現れたということは、伝承にもある通り、私たちに危機が迫っているのではないかと」
「ふ、ふむ……。で、今、彼らといったか?」
「はい、いいました。どうやらこの道具たちには意思があるようでして、私たちとお話をすることができるのですよ」
「な、なんだと!?」
しれっと言い放ったモニーの報告に、国王が玉座から立ち上がってまで驚いている。隣の王妃も口を手で押さえて目を見開いているから、相当の衝撃だってことだよな。
さて、騒然となってしまった状態なんだが、モニーは一体どうやってこの場をおさめるつもりなんだろうかな。
見ているだけしかできない俺は、今はないはずの胃がキリキリ痛んでいるように感じてしまっていた。




