21曲目 王都の子爵邸
王都にあるピアノート子爵邸に到着する。
子爵邸を預かっている使用人たちが一斉に挨拶をしてくるが、フォルテが連れているグレイウルフが姿を見せると、全員に動揺が走っていた。まあ、無理もねえわな。
俺やベスはこっちの事情をよくは知らないが、ここまでの反応を見る限り、恐ろしい魔物ってことだけは理解できているからよ。そんな魔物が目の前に現れりゃあ、誰だってビビるさ。
ああ、俺たちで言うなら、いきなり目の前にライオンやクマが現れたような感覚だよ。
あたふたとする使用人たちだったが、首に着けている従魔の証を見せると、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。
「驚かせてすまなかったな。このグレイウルフはフォルテの従魔だ。危害を加えることはないから安心してくれ」
「しょ、承知致しました。では、旦那様。お部屋の支度はできておりますので、おくつろぎになって下さいませ」
「うむ、そうさせてもらおう。城から返事が来次第、私たちは城に向かうことになる。使いを迎え入れる準備もしておいてくれ」
「畏まりました」
挨拶を終えて、俺たちは子爵邸へと入っていく。
領地の邸宅と比べても、一回りくらい立派な感じだ。
『子爵ってどのくらいの偉さなんだ?』
俺はこっそりとフォルテに尋ねている。
「貴族というのは王族を頂点としまして、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵と続きますわ。王族以外の貴族の中では中位にあたるのが、わたくしのお父様が持つ子爵ですわね」
『ふむ。そこそこ偉いって感じか』
「まあ、そうですわね」
話を聞いてまあまあ理解した。それなら、フォルテが偉そうな喋り方をしているのも理解ができるというものだ。
『おや、フォルテは親父さんたちの後についていかねえのか?』
途中でフォルテとメロディが別行動を取り始めたので、俺はつい聞いてしまっていた。
「当然ですわよ。自分の部屋に向かいますからね。お父様は執務室に向かわれますので、完全に別方向ですわ」
『ああ、そういうことか』
そういえば、王族と会うなんて話をしていたもんな。まっ、俺たちのことなんだろうけどさ。
その大事な面会に向けて、準備をするってことなんだな。
王様ってのがどんなのかは気になるが、まぁ、実際に会うまではどうでもいいか。
それにしても、ベスの野郎が静かだな。一体どうしたっていうんだろうな。
『おい、ベス。お前さっきから黙っちまってるが、どうしたってんだ?』
俺が声をかけるが、ベスの返事はない。
『おい、ベス。返事をしろ!』
『へ、へいっ!』
俺が怒鳴りつけると、ようやく返事をしてきた。急に声をかけられたような反応をしやがって……。
さては、こいつ。王様に会うとかいう話を聞いてビビってやがるな?
「あら、ずいぶんと大げさな反応をしますのね」
『ああ。こいつはお偉いさんとかに会うとなると緊張しちまう悪癖があるんだ。俺たちだってメジャーデビューできるくらいの腕前があるっていうのに、そうならなかったのはこいつのあがり症のせいなんだよな。大事なところでよくミスをするから』
「まあ、そうですのね。ですが、国王陛下が相手となれば、さすがのわたくしでも緊張はいたしますわ。ベス様だけの問題ではございませんわよ」
『だ、そうだ。ベス、気楽に構えてろ。どうせ俺たちの声は聞こえやしねえんだからよ』
『へ、へい。分かりましたよ』
返事が相変わらず硬いな。無駄に構え過ぎなんだよなぁ、こいつ。
「お嬢様、お部屋に着きましたよ」
「ご苦労さま。それじゃ、わたくしたちは二人で話をしていますので、あなたは他の仕事をしていてちょうだい」
「承知致しました。では、食事の準備が整い次第お呼びいたします」
「分かりましたわ」
俺たちはここまで案内してくれたメイドと別れ、フォルテの部屋に入っていく。
そういえば、ベスもだったが、メロディもさっきからまったく口を開いちゃいねえ。貴族様の家に入ったからか、同じように緊張してるんだろうな。
『おい、メロディ。大丈夫か?』
「あ、リードさん。私は大丈夫です。ちょっとお屋敷が立派だったので、見とれてしまってました」
『そうか。それならよかった』
なるほど、物珍しさに喋っている余裕がなかったわけか。まっ、メロディは普通の田舎の娘だったからな。都会なんてそう経験することじゃないが、はしゃがずに黙り込むというのはちょっと意外だったかな。本当に控えめな子だな。
俺たちが部屋に入ると、フォルテの案内でメロディもソファーに腰掛けている。
俺たちはスタンドを出して、そこに立てかけられた。ちなみにスフォルはフォルテの横で伏せている。
ようやく落ち着いたかと思えば、急に外が騒がしくなってきた。一体どうしたというんだ。
「お、お嬢様、大変でございます」
扉が叩かれたかと思うと、さっき俺たちを案内してくれたメイドが飛び込んできた。
「何があったのですか?」
「教会から聖女様がお越しになられました!」
「な、なんですって?!」
あまりにも突然のことに、フォルテは立ち上がっていた。
教会から聖女がやって来たということで、あまりに突然なことに、フォルテは俺たちを置いてメロディと一緒に玄関まで走っていってしまった。
おーい、俺たちにも聖女を見せてくれよ。
俺とベスは、スフォルと一緒にフォルテたちが戻ってくるまで待ちぼうけになってしまった。




