20曲目 王都に到着だぜ
ピアノート子爵邸のあるニシーモの街を出発してから一か月。ようやく俺たちは王都に到着していた。
「そろそろ王都に到着するな」
「いよいよですのね」
ピアノート子爵とフォルテが話をしている。
そうかと思えば、子爵はいきなり馬車を止めさせた。
「メロディ、スフォルと一緒に馬車に乗りなさい。さすがにその状態で中へは入れさせてもらえないからね」
「は、はい。分かりました」
子爵の命令に、俺たちは逆らえなかった。
実際ここまでも、途中の街に寄る際にはスフォルは馬車の中に入れさせていた。こうしないと自由に動ける魔物ってことで街に入れさせてもらえない可能性が高いからだそうだ。
外で動けるようにするためには、王都にあるギルドで従魔登録をしないといけないんだとか。まったく、お役所仕事ってのはどこもめんどくせえもんだ。
とはいえ、フォルテが言うにはこの登録をしてしまえば、スフォルには首輪なりなんなりをつけなくてはならなくなるものの、自由にさせることができるそうだ。それこそ、道中のように背中にメロディやフォルテを乗せて動き回れるらしい。
「それにしても、あの凶悪なグレイウルフがこんなにおとなしく言うことを聞いてくれるとはね」
『へへん、俺はどういうわけか動物には好かれるんですよ。これも日頃の行いってやつですかね』
子爵が話していると、ベスの野郎が自慢げにしている。
向こうでも犬や猫とか本当に動物には好かれていた。肝心の人間にはあんまりだったがな。異世界にやって来ても、それが役に立つとは思ってもみなかったぜ。
「わたくし自身も驚いていますわ。でも、グレイウルフってこうして見てみるとなかなか可愛いですわよね」
「ええ、本当にそうですね。私が乗っていてもまったく暴れることはありませんし。むしろ、落ちないように気を遣っているようでした。すごく賢いですよ」
少女二人に褒められながら撫でられているスフォルは、とても自慢げな笑顔を見せて気持ちよさそうにしていた。本当にいい気なもんだな。
王都の城門へと到着した俺たちは、子爵が代表して手続きをしていた。
もちろん馬車の中のチェックも受けるわけだが、当然ながらグレイウルフの姿を見た瞬間、門番たちは腰を抜かしていた。
「はははっ、このグレイウルフは娘のペットですよ。ギルドで従魔登録を行いますので、ご安心下さい」
「う、そだろ……」
顔を引きつらせながら笑う子爵だが、それは門番も同様だった。全然声が笑っちゃいねえ。
だが、この説明もあってか、グレイウルフのスフォルを含めて王都に入ることができた。国王への謁見を行うにはまだ日にちがあるらしいので、一度王都の子爵邸に入るらしい。
「子爵邸に向かう前に、先にスフォルの従魔登録を行うぞ。これが終われば、馬車から出して歩かせることが可能になるからな」
「分かりましたわ、お父様。よかったですわね、こんな窮屈な馬車に乗らずに済みますのよ」
「ばうっ」
フォルテが声をかければ、スフォルは分かっているのかしっぽを振りながら返事をしていた。いや、マジかよ……。
俺が呆気に取られている間に、馬車は目的に到着したらしい。
『おい、ここは?』
「ここは冒険者ギルドですわ。冒険者たちの集う場所でして、魔物に関しての取り扱いもここが行いますのよ」
『へえ、漫画やアニメなんかで見た場所が、現実にあるんだな。なんかわくわくしてきたぜ』
「リードさん。張り切るのはいいですけれど、私とフォルテ様以外には声が聞こえませんからね?」
『くそう、そうだったぜ!』
俺たちがどんなに騒ごうとも、俺とベスの声は二人以外には聞こえねえ。まったく、つらい話ってもんだぜ。
俺とベスは、それぞれメロディとフォルテに背負われて冒険者ギルドに入っていく。
中に入ると、どよめきが聞こえてきた。
『おいおい、ずいぶんと騒がしいな』
『そりゃ当然でしょうよ。こんなバカでっかい犬っころが姿を見せたんですぜ? 俺らは分からないにしても、ここの連中なら危険なことぐらい分かるでしょうから、騒いで当然じゃないですか』
『そういやぁそうだったな』
俺たちが話をしている間も、スフォルの従魔登録は淡々と進んでいる。
時折ギルド内のどよめきだとかが聞こえてくるが、登録自体は本当にスムーズだ。
「はい、書類上の登録は以上ですね。最後にこの従魔の証を、分かりやすいところに着けていただければ完了です。首でも足でも構いません。締め付けすぎず、緩すぎず、程よい感じで装着されますから、ご心配なく」
「分かりましたわ。ではスフォル、首に着けさせて頂きます」
「わふっ」
フォルテが言うと、スフォルはおとなしその場に座って着けやすいようにしていた。
「おいおい、あれが本当にグレイウルフか?」
「あの凶悪な魔物を従えてるって、何もんだよ、あのお嬢様は……」
まったくもって、王都に到着するなり俺たちは目立ってしまっているな。ただ、スフォルのやつのおかげで、俺たちは目立ってないようだな。
俺がほっと安心している間に、首輪を着け終わる。スフォルの首に着けられた首輪は、確かに程よいきつさとなって首に巻き付いていた。まったくどうなってんだよな、これ。さっきまであれだけぶかぶかだったのによ。
「それじゃ、無事に登録も終わったことだし、屋敷に向かうことにしよう。邪魔してすまなかったな」
「い、いえ。では、お気をつけて」
どこか心ここにあらずという感じだな。そのくらい、グレイウルフの姿に驚いていたんだろう。
結局、子爵邸に向かう間もずっと注目され続けていたな。
メロディとフォルテは嬉しそうにスフォルの背中に乗っていたが、なんとも波乱だらけの初王都になっちまったぜ。




