17曲目 王都に向けて出発だぁっ!
フォルテが手懐けたグレイウルフは、スフォルと名付けられた。いや、なんでそんな名前になるんだろうな。
まあ、よく分からんインスピレーションが降りてきたんだろうな。
子爵の名前はピアノート、ベスの相棒はフォルテ、街の名前はニシーモ、騎士団長はメゾ、そんでこのグレイウルフがスフォル。強弱記号のオンパレードじゃねえかよ。まったく、わけがわからねえってもんだ。
「どうしたんですか、リードさん」
『いや、なんでもない。ちょっと、考えごとをしてただけだ』
「そうですか」
俺が唸っている声が聞こえたのか、メロディが気にしているみたいだ。
ちなみに俺たちは、明日、王都へ向けて出発することになる。
メロディと俺は客人として、子爵邸の客間の一室に泊まっている。子爵邸の豪華さにビビるかと思ったんだが、フォルテと仲良くなったせいかあんまり委縮しているような感じはしねえ。
いや、むしろなんだか楽しそうにしているから、王都に向かえることをかなり楽しみにしてるんだろうかな。
『メロディ』
「なんですか、リードさん」
『いや、こんな部屋に泊まっているっていうのに、ずいぶんとリラックスしてるからな。ただの村人であるのに、ずいぶん図太いなと思ってな』
俺が思ったことをはっきり言うと、メロディはなぜか笑っている。
「たしかに、緊張はしてますよ。でも、それ以上になぜか楽しいんです」
『ほう?』
楽しいと来たか。ならばもうちょっと聞いてみるか。
「リードさんが言われた通り、国王様相手に音楽を奏でるのかと思うと、わくわくするというか、ぞくぞくしてくるんです。その楽しみの方が勝っているって感じですね」
『ははは、ずいぶんと図太くなったな』
「えへ、えへへへ……」
褒めたつもりじゃないが、メロディが笑っているのならそれでいいか。
俺はツッコミを入れるのはやぼったいと思ってやめた。メロディがこれだけ楽しそうに笑ってるんだからよ。
『まっ、楽しみなのは分かるが、明日からは王都に向けての長旅になる。備えてゆっくり休んでおこうぜ』
「はいっ、リードさん」
俺が休むように促すと、メロディはとても元気そうに返事をしていた。まったく心配なさそうだな。
だが、高揚し過ぎていて、逆に寝れねえかもしれねえな。
となりゃあ、ちょっと一肌脱ぐとしようか。
「リードさん?」
『黙って目を閉じな。よく眠れるように子守唄を歌ってやるよ』
「子守歌ですか……。はい、お願いします」
もう子どもじゃないと反論しようとしたのか、ちょっと返事に間があったな。だが、相棒である俺の言うことだからと、受け入れたようだ。
よっしゃ、一つ歌ってやるから、ぐっすり眠りな。
こっちで出会った相棒のために、俺は俺が子どもの頃にお袋がよく歌ってくれた子守唄を歌う。
まったく、歌ってみたらなんとも懐かしい気持ちになってくるぜ。
だが、会ってはやりたいが、今の俺たちは異世界にいる。叶わぬ夢にちょっと涙が出てくるぜ。
「リードさん?」
『なんでもねえ。とにかくとっと寝ろ』
「……はい」
急にメロディが反応したから、ちょっと焦ったぜ。まったく、相棒になっちまったせいか、俺の気持ちのちょっとした変化にも敏感になってんのかね。
だが、今は話すわけにはいかねえ。今の状況を乗り越えるまでは、ひとまず黙っておいた方がいいだろう。
『まったく、優しい子だな、メロディはよ』
寝息を立てて眠るメロディを目の前に、俺は小さくつぶやいた。
翌日、いよいよ王都に向けて出発することになる。ところが、俺たちの目の前に、フォルテがとんでもない姿で現れた。
「ふぉ、フォルテ様?!」
『おいおい、マジかよ……』
俺たちが目撃姿は、昨日のグレイウルフにまたがっているフォルテの姿だった。ドレス姿で狼にまたがるって、どういう姿なんだよ、まったく……。
「スフォルも連れて参りますわよ。なんといっても、この子の飼い主はわたくしですからね。おほほほほっ!」
フォルテは得意げに高笑いをしている。これには護衛を務めるメゾや他の騎士や兵士たちも開いた口がふさがらねえ。
誰が想像しただろうよ、お嬢様のワイルドな姿をよぉ……。
「フォルテ、さすがにグレイウルフは連れていけない。置いていきなさい」
ところが、父親であるピアノート子爵からはダメ出しを受けていた。それでもフォルテは諦めない。
「嫌ですわ。この子はわたくしに懐いておりますの。わたくしがいなくては、誰がこの子を手懐けられると仰るのですか」
確かにそうなんだよなぁ……。
この犬っころが懐いているのは、フォルテとベスの二人だけなんだよ。他の連中は手をかまれそうになったり、吠えつかれたりでそれは大変だった。
昨日の今日でしつけができるわけもないんだから、懐いているやつと一緒にいさせるのが一番なんだよ。
というわけで、フォルテの必死の抵抗があったことで、スフォルは俺たちと同行することになった。その場所はというと俺たちの乗る馬車の中だ。
フォルテがしっかりと面倒を見るという条件付きで、同行を許可されたのである。
フォルテはとても満足そうだが、ピアノート子爵は胃を押さえていた。ストレスを感じてるんだろうなぁ、こりゃ。
とまあ、出発前からしていろいろあったわけだが、俺たちの乗った馬車は無事に王都に向けて出発することができた。
俺たちが今いる世界の王都ってどんなところなんだろうな。そう考えるとわくわくが止まらなくなってきたぜ。




