16曲目 ねんがんのぺっとをてにいれた
ピアノート子爵に啖呵を切ったフォルテは、捕まえてきたグレイウルフがいる場所までやって来た。
フォルテが生かしておいてくれっていったからか、まだ縛られたままである。いや、魔物とはいってもさすがに可哀想になってくる姿だな。暴れたりしてないってことは、まだ気を失っているみたいだがよ。
いや、あれから五時間は経ってるってのにまだ気を失っているってことは、ベスの音はどれだけ強力なんだよ。至近距離で食らったにしても、本当に同情しかない。
「これはお嬢様。こちらにはどのようなご用でしょうか」
やって来たフォルテに、兵士が声をかけている。俺たちもいるのにガン無視だぜ。
『くそっ、なんでフォルテにだけ声をかけてんだよ』
「仕方ないじゃないですか。フォルテ様は領主様のご息女なんですから。私たち平民とは違いますし、兵士の方にとっては雇い主の身内を優先するのは当然ですよ」
『ああ、社長みたいなお偉さんにへこへこしてるようなものか。なら、しゃーねえか……』
俺は状況を理解して、怒りを抑える。
さて、フォルテは兵士にどう返すつもりなんだろうな。
「そこのグレイウルフに用事がありますの。彼の拘束をほどいて下さいませんこと?」
「正気ですか?!」
フォルテが言い放った言葉に、兵士は当然だが、俺たちだって驚いた。
さっき、森の中で襲われているっていうのにな。なんなんだよ、このお嬢様はよ。
だが、フォルテはどうしてもほどけってうるさく言っている。ほどかないのなら自分でほどくとまで言い出した。おいおい、死ぬぞ。
『おい、ベス。お前も止めろ』
『大丈夫ですぜ、リーダー。俺のことは、リーダーがよく知ってるじゃないですか』
『お前のことは分かってるが、だからってこの状況を黙って見過ごせるか!』
『まあ、見てて下せえよ』
ベスにはものすごく自信があるようだ。
しょうがないので、俺はベスの顔を立ててうるさく言うのはやめた。
「大丈夫なんですかね」
『俺たちは見ているだけしかできないみたいだ。まったく、強情な連中だぜ』
俺が呆れている前で、グレイウルフは縛り付けていたロープを外されていっている。その時の兵士の表情といったら、どうなっても知らないぞと言わんばかりに青ざめていたぞ。あの兵士にとっちゃ、グレイウルフは脅威なんだろうな。
周りでは上司と思われる兵士たちが身構えている。
ロープを解かれ、グレイウルフは自由になる。
「では、離れて下さい。わたくしとベス様だけで近付きますわ」
「我々は万一に備えて待機しております」
兵士たちが一歩下がって剣に手をかけた状態で待機している。そりゃそうだよなぁ……。
だが、フォルテはいつの間にか手に入れていたバンドでベスを背負っていて、その状態でグレイウルフを撫で始めた。
「さあ、目を覚ましなさい」
グレイウルフを撫でながら、そっと優しく声をかけている。
ぴくりとグレイウルフが動いた。どうやら目を覚ましたようだ。
「ガウッ?!」
かと思えば、驚いた声とともに、フォルテから離れていた。
状況が理解できないといった感じで、まんまるとした目をしながら、きょろきょろと周りを見回している。
「ガルルルルル……」
剣を持った兵士たちの姿が目に入ったらしく、突然唸り出している。
「リードさん……」
『今は信じるしかない、あいつらをな』
メロディが怯え始めたのだが、俺はそう言葉をかけることしかできなかった。まったく、どうするつもりなんだよ、あいつら……。
俺がそう思った時だった。
「大丈夫ですわよ」
フォルテがグレイウルフの首にそっと抱きついていた。
おいおい、マジかよ。兵士たちもビビるようなやつに、あのお嬢様は抱きついてやがるぞ。
俺たちが驚いて様子を見守っていると、さらにとんでもないことが起きた。
「グル……、クウ~ン」
兵士の剣に怯えていたグレイウルフが、唸るのをやめてフォルテに懐き始めたんだよ。
俺たちはもちろんだが、周りの兵士たちもびっくりしてるぜ。
そういえば、ベスの野郎は犬やら猫やらに好かれるタイプだったな。俺や他のメンバーに吠えつくような犬でも、ベスにだけは懐いているとかざらだったからな。
いや、まさかな……。
「ふふっ、くすぐったいですわね」
俺が考え込んでいる間に、さらに事態は進んでいた。
なんてこった。あのお嬢様がグレイウルフにじゃれつかれているぞ。いや、マジでどうなってんだよ。
「リードさん、あれって……」
『フォルテ自身はあの犬っころを踏んづけていたんだ。おそらくはベスの影響だろうな。ベスのやつ、外見が怖いせいで人間からはあんまりだったが、動物からはやけに好かれていたからな』
「そうなんですか?!」
『そうなんだよ』
俺が思い出した内容を聞いて、メロディがものすごくびっくりしている。そんなに意外な話なんだな。
それにしても、フォルテを相棒にした関係で、ベスの特性がフォルテにまで影響を及ぼすとはな……。俺もさすがに驚いたぜ。
俺たちはもちろん、周りの兵士たちもどうしたらいいか困っている中、フォルテは一人でグレイウルフをずっと戯れていた。
『おう、こっちの世界の犬も可愛いもんだな。リーダー、見て下せえ。念願のペットですぜ!』
『あ、ああ。それはよかったな……』
フォルテもそうだが、ベスもものすごく喜んでやがる。
なんともいえない温度差なんだが、あいつらが喜んでいるのなら、それでいいのかもしれないな……。




