15曲目 王都行き
「リードさん、お屋敷に到着しましたよ」
『おう、もう着いたのか……』
俺はメロディに起こされる。
俺のボディを叩くことなく、声だけで起こしてくれるとはな。メロディは本当にいい子だと思うぜ。
メロディは俺を、フォルテはベスを抱えて、屋敷の中へと入っていく。そうやってやって来たのは、ピアノート子爵の自室だった。
俺たちの前にいるピアノート子爵の表情は、とても重苦しい感じだ。
まあ、俺たちみたいなよく分からねえものが目の前に現れりゃあ、普通の人間ならそう思うだろうぜ。
あと、フォルテが連れて帰ってきたウルフだな。
俺が読んだことのあるラノベの中では、基本的に魔物は戦う相手として描かれている。ゆえに、あのウルフを連れて帰ってきたことが悩みの種になっていることは間違いない。
「まったく、まさか我が娘が、その変な魔道具の主になるとはな……」
『変なとは失礼だな! 俺はリーダーのバンドのメンバーだぞ!』
『ベス、ここじゃそういうのは通じねえ。俺たちのいた世界とは違うんだ。そもそもお前が何を言っても、領主の耳には届かないからな』
『く、くそぅ……』
俺が言い聞かせれば、ベスはどうにか黙ってくれた。
まったく、こういう時は血気盛んだな。普段はどっちかといえば控えめなんだが。
『あと、お前は本来の姿を見られなくてよかったと思うぜ。道を歩いてたら、すれ違った小学生の女の子に素で泣かれてただろ』
『り、リーダー。それは言わないで下さいよ』
「あら、ベス様ってそんなにひどい姿をしておりますの?」
俺たちの話を聞いていたフォルテが口を挟んでくる。
『こいつは頭の真ん中だけ髪を生やしてるんだよ。額から生え際まで一直線にな。性格は臆病なのに、見た目は怖いから、子どもたちにはその姿だけで泣かれてたんだよ』
「まあ、奇抜な髪型ですのね」
フォルテはまったく怖がる様子もなく、どちらかといえば興味を示しているようだ。本当に、まったく動じないな、このお嬢様はよ。
「さて、どうしたものかな……」
さっきまで頭を抱えて黙りこんでいたピアノート子爵が、顔を上げてようやく声を発する。その表情は、なんともいえないくらいに難しそうな表情をしていた。
なんていうかな。ライブに向かう直前の俺みたいな感じだよ。
まあ、そうだよな。扱いに困るものがこうもたくさんいりゃあ、一つの地域をまとめ上げるトップとしちゃあ、悩みの種になるよな。
だが、こっちの世界が分からねえ俺たちには、なんていうこともできねえ。そもそも俺とベスの声は届きゃしねえしな。とにかく、黙って様子を見ておくことしかできないってこった。
「これは、国に報告するしかないな」
「国にって……。そんなことをしたら、リード様とベス様はどうなってしまいますの」
「まあ、徹底的に調べられるだろうな。この世界には存在していない道具である以上はな」
「そんな……」
まあ、そうなるよな。
ピアノート子爵が返してきた答えに、メロディとフォルテはそろってショックを受けているようだ。
むしろ、俺とベスの方がこの話を冷静に受け止められたな。
『まあ、いいじゃねえか、メロディ、フォルテ』
「リードさん?」
「リード様?」
俺が声をかけると、二人揃って俺に顔を向けてくる。
『国王相手にライブを演奏れるっていうんなら、そんな光栄なことはねえってもんだ。子爵に伝えてやれ。王国への報告の件、引き受けたってな』
「わ、分かりました」
俺の提案にメロディが答えると、子爵に話をしようとする。だが、それをフォルテが制していた。
「わたくしが伝えますわ」
「フォルテ様……」
その方がいいか。メロディは身分差があっておそれ多い相手だしな。その点、フォルテは子爵の実の娘だ。話はしやすいだろう。
「お父様、国への報告の件、受け入れますわ」
「そうか」
「ただし!」
フォルテが答えると、子爵は少し表情を明るくしていた。
だが、間髪入れずにフォルテが言葉を続ける。さすがに子爵の顔が引きつってるぜ。
「わたくしとメロディさんがいらっしゃりませんと、この道具を扱うことができませんわ。わたくしたちは必ず同伴させていただきます」
「……分かった」
おお、さすがだな。子爵を一発で説得しやがった。すげえぞ、フォルテ!
ところが、子爵はフォルテを見て何かをいおうとしていた。なんかヤな予感がするな。
「フォルテ、お前たちを連れていく条件として、あの捕まえてきたウルフをどうにかしてもらおう。それが解決できなければ、その道具たちを私が王都まで持っていく」
「分かりましたわ、お父様。グレイウルフの件、わたくしにお任せ下さいませ」
ああ、やっぱりか。
予想通り交換条件を出してきた。しかも、フォルテは自信たっぷりだ。
見つけるなり飛び掛かってくるような魔物を、こいつは手懐けることができるっていうのか?
俺は疑わしくフォルテを見ているのだが、肝心のフォルテはとても自信がありそうである。
『おいおい、マジかよ……』
『へへっ、リーダー。このお嬢はやってくれますよ』
俺が驚いている中、ベスの野郎はずいぶんと自信を見せているようだ。
俺とメロディのようにパートナー関係になったからとはいっても、さすがに買いかぶり過ぎじゃないか?
「では、お父様。わたくしは早速行ってまいりますわ。お父様は王都に向かわれる準備を始めて下さいませ」
「ああ、そうさせてもらおう」
フォルテは子爵にそう宣言すると、部屋を出ていく。
俺はメロディにいって、あとを追いかけてもらう。まったく、一体どうする気なんだよ、あのお嬢様は。




