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14曲目 ベスを手に入れた

 茂みから飛び出してきたウルフが、フォルテ目がけて飛び掛かる。


『メロディ!』


「任せて下さい、リードさん」


 俺を素早く構えたメロディが、弦をひとかきする。

 ギャーンという音が発生すると、音を向けられたウルフは空中でありながら硬直してその場に倒れ込んでしまう。

 どうにか間に合ったようだ。


「フォルテ! くそっ、総員、武器を構えろ!」


「はっ!」


 ピアノート子爵の命令で、連れてきた部下たちがみんな剣を手に取って構えている。


「うふふふ……」


 そんな中、フォルテがなぜか不気味に笑いだしていた。


「これですわ、これ。何か気持ちが昂ってきますわ」


「えっと、フォルテ……様?」


 なんだか人が変わったかのような雰囲気のフォルテに、俺もメロディもドン引きだよ。

 ベスを手に取ったフォルテは、さっき俺たちがダウンさせたウルフの顔を思い切り踏んづけている。


「よくもわたくしにケガをさせようとしましたわね。その耳に、わたくしの重低音をたっぷり聞かせて差し上げますわ!」


『おう、かましてやって下せえ!』


 ベスのやつがフォルテを煽ってやがる。


「さあ、魂のベースを聞きやがれですわ!」


 おいおいおい……。ベスをつかんだことで、なんか精神乗っ取られかけてねえか?

 あの高揚っぷりは、ライブの時のベスそっくりだぜ。


 俺が驚いていると、ウルフの顔を踏んだまま、フォルテはベースをかき鳴らしている。その低音は周囲にいるウルフたちにも効果は絶大。

 俺たちを襲うとして集まってきていたのだろうが、耳としっぽをだらしなく垂れさせて、一目散に逃げて行っていた。

 結果、フォルテに足蹴にされたウルフ以外はいなくなってしまった。足元のウルフも泡を吹いて体をけいれんさせている。よっぽどダメージが入ったみたいだな。


「すごい……。フォルテ様、ギターのことを昨日初めて聞かされたはずですのに、もう完全に使いこなしていらっしゃいます」


『多分、俺とメロディとの間に発生した【技術共有】のスキルが発動したんだろ。出会ってすぐだというの、もう絆を深めちまったのか。とんでもねえお嬢様だぜ……』


 あまりにも予想外な展開に、俺たちは呆然とするしかなかった。

 それにしても、ベスを弾きこなすたあ、メロディと俺のような関係があの二人の間で発生したってことだな。

 でも、これは一体どういうことなんだろうな。ますますわけがわからないってもんだ。


「ほーっほっほっほっ。これでわたくしも、ギターを演奏できますのね!」


 ただ、フォルテ本人はとても嬉しそうなので、俺たちが口を挟むことではなさそうだ。このままそっとしておくことにしよう。


『うおおおおっ! なんか分からねえが、このお嬢様に演奏されると、テンションが上がるぜぇ! 見せてやろうぜ、俺たちの(ソウル)ってやつをよ!』


「ほほほほ、当然ですわよ。気が合いましてね、ベス様」


 ダメだ。完全に意気投合してやがる。

 ちょっとだけお転婆なお嬢様かと思ったんだが、はねっかえりがひでえだろ、これ。

 ベスもベスで焚きつけてんじゃねえよ。俺たち以上に危険な組み合わせじゃねえのか、こいつらはよぅ……。


「ど、どうしましょうね、リードさん」


『俺にも分からねえぜ』


 メロディも俺も、まったくどうしていいのか分からない。こういう時はピアノート子爵に判断を任せるのが一番か。

 俺がちらりとメロディに声をかけると、その言葉に反応して、メロディはピアノート子爵に視線を向けていた。


「とりあえず、そのよく分からん道具を持って屋敷に戻ることとしよう。フォルテ、その足を降ろしなさい」


「はっ! こ、これは失礼を致しましたわ」


 父親であるピアノート子爵に言われて、フォルテはウルフから足を降ろしていた。

 そのウルフだが、ベースギターの低音を間近で食らったせいか、白目をむいたまま泡を吹いて気絶していた。

 ちなみに死んでいないので、このまま殺して解体するか、生きたまま連れて帰るかという選択になったが、フォルテは後者を選んだようだ。

 というわけで、ぐるぐる巻きにされてかんだり逃げたりできないような状態にされて、ピアノート子爵邸まで連れていかれてしまった。

 生かしておいたとして、一体どうするつもりなんだかな……。まったく、お嬢様ってのは理解できねえぜ。


『リーダーッ! まさかこんなところで再会できるなんて思ってなかったですぜ!』


『おう、ベス。それは俺もだよ。てか、なんでお前までそんな姿なんだよ』


『それは俺が聞きてえでさぁ。でも、リーダーとおそろいなんで、俺は嬉しいですがね!』


『同じって……。俺はリードギター、お前はベースギターだろうが。同じじゃねえよ』


『知らねえ人から見りゃ、区別なんかつきゃしねえですよ!』


 俺と再会してこんだけ喋るってことは、こいつは結構な間、あそこで一人でいたんだろうな。まったく、昔っから俺にはこの通り甘えてくるんだからよ。


「ベス様とリード様はお知り合いでしたのね」


『ああ、同じバンドでやってた仲だからな。ちなみにあと二人メンバーがいる。そいつらもこっちに同じような形で来てたら、さすがにドン引きだぜ』


『十分あり得ますぜ、リーダー!』


『おう、うるさいから黙れ』


『ヘイ!』


 いろんなことが起きすぎて頭が痛くなってきたぜ……。

 黙れといったらベスが黙ってくれたので、これで少しは静かになるはずだ。


『悪い、ちょっと休ませてもらいてえから、話は屋敷に戻ってからにさせてもらうぞ』


「承知致しましたわ。ごゆっくりお休み下さいませ」


「おやすみなさい、リードさん」


 メロディとフォルテに断りを入れた俺は、屋敷に着くまでの間、しばらく眠ることにしたぜ。

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