12曲目 ヘオネ大森林へ
「ひゃっうーっ!?」
翌日、俺はメロディのすっとんきょうな声で目を覚ます。
おいこら、楽器が何で寝てるんだとかいうツッコミはなしだぞ。
「どうなさいましたか?!」
あまりにも大きな声だったせいで、フォルテのメイドが部屋に飛び込んできた。
「あ……。ご、ごめんなさい。フォルテ様のお顔が近かったので、驚いて叫んでしまいました」
「そ、そうでしたか。それでは、私はお嬢様の朝の支度をして参りますので、失礼致します」
メロディが正直に答えれば、メイドは何事もなかったかのように部屋から出ていった。メイドってのはすげえな……。
「う……ん……」
おっ、この声はフォルテのやつも目を覚ましたか。
『おい、メロディ』
「なんですか、リードさん」
『これからメイドが来て、フォルテが着替えをするだろう。その前に、俺を裏返しておいてくれないか?』
「あ……。分かりました、裏返しておきますね」
これから起きることを考えて、俺はメロディに裏返すように頼んでおいた。
ここまでのことを考えると、俺は弦の張ってある面の向いている方向の景色が見えるみたいだからな。実際、メロディの着替えの際に裏返してもらったら、その光景は見えなくなっていたから間違いない。
目をつぶるということも考えたんだが、不便なことに、どうやら今の俺は目をつぶるということができないみたいなんだよ。面倒な体だよな。
「おはようございますわ」
「おはようございます、フォルテ様」
目を覚ましたフォルテが挨拶をすると、俺を裏返すためにベッドから起き上がっていたメロディが挨拶を返している。
「あら、リード様ってば、どうして裏返っていらっしゃるのかしら」
「私たちの着替えを見ないためだそうです。リードさんはどうも男性みたいですから、気遣っていらっしゃるみたいなんです」
「なるほどですわね。口調は確かにそんな感じでしたけれど、意外と紳士でいらっしゃいますのね」
見えなくしたのはいいが、声が聞こえてくるだけでもきついものがあるな。一人だったら黙々としてくれてるんだが、年の近い女子が集まりゃあ、こうなるか。失敗したな。
俺は二人の着替えが終わるまでの間、部屋の片隅で悶々とした気持ちでずっと耐えていた。
朝食が終われば、俺たちは外に出て馬車に乗り込むことになる。
今日、向かうことになるのは、ニシーモの街からそこそこの距離にあるヘオネ大森林というところらしい。
大森林というだけあって、広大な森なんだろうな。
それにしても、俺と似たような道具があるというのが気になる。俺と同じようなというならば、ベスのやつの可能性もある。俺は気になって気がまったく休まる気がしねえぜ。
「リードさん、大丈夫ですか?」
『ああ? 俺はいたって大丈夫だよ。ただ、俺と似た道具ってのが気になるだけだ』
「それは確かに気になりますわよね。形が似ているというのでしたら、リード様と同じぎたあという道具なのでしょうか」
『可能性は高いが、とりあえず実物を見てみねえとな。問題の場所まで、どのくらいかかるんだ?』
「お父様の話では、途中の小屋まで馬車で行き、そこから徒歩ということらしいですわね。小屋まではおおよそ二つほどですから、三つから四つと見ておいた方がいいですわね」
『なんだよ、その二つや三つってのは』
わけのわからない単語が出てきたので、俺はフォルテにどういうことなのかと聞いてみる。
「その昔、この世界に四人の使徒を遣わされたという伝承がございまして、一日を四人の使徒が持ち回りで管理したそうですわ。その持ち回りのさなかで、使徒たちは時間の経過を体の部分に記して管理したということで、その四等分の時間をさらに六つの部位に分けているのですわ」
『つまり、一つっていうのは、一日の四分の一のさらに六分の一ってことか。つまり、俺たちの世界でいう一日二十四時間と合致するから、一つは一時間ってことだな』
「その解釈でよろしいですわ」
『ってことは、三時間から四時間か……。ちょっとした旅だな』
「そうですわね」
ずいぶんと時間がかかるということなので、馬車の中は暇になっちまうな。
待ち時間も惜しいから、メロディとフォルテにギターの知識を叩き込んでおくとしようか。
その提案をすると、二人揃ってものすごく興味を示してきた。フォルテも、よっぽどギターを演奏したいみたいだな。
いいぜいいぜ。いい機会だ。こうなりゃ、異世界に音楽をはやらしてやりてえな、おい。
だが、そんな高揚した時間もあっという間に終わりを迎える。
大森林の監視小屋に到着して、ここからは徒歩での移動だ。
メロディは俺を背負って進んでいるが、本当にまったく苦にしていない感じだ。フォルテも文句は言わねえし、この世界の少女はつええな。
うっそうとした森の中を進んでいくと、急に開けた場所が見えてくる。
「あそこだな。先日、妙な道具を見かけたという場所は」
ピアノート子爵がつぶやく。
目の前はなぜか一本の木も生えていない場所で、そのど真ん中には台座のような岩が見える。
『あれは……』
「どうしましたか、リードさん」
『間違いない。あれはベスの使っているベースギターだ』
その岩に置かれていたのは間違いなくギター。しかも、俺の仲間のベスが使っているギターそのものだった。
思わぬ再会に、俺はしばらく黙り込んでしまった。




