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11曲目 メロディとフォルテと俺

 領主との話を終えた俺たちは、フォルテの部屋へと案内される。

 ただの村娘であるメロディは、裕福な家のフォルテの後ろを、それは不安そうに縮こまりながら歩いている。

 目の前から、メイドが現れる。


「フォルテお嬢様、急に飛び出されてどちらに行かれていたのですか」


「あら、ごめんなさい。ですが、飛び出して正解でしたわよ。思わぬ収穫がありましたからね」


「収穫で……ござますか?」


 フォルテと向き合うメイドが、話がよく分からないらしくて首を傾げている。まあ、無理もねえわな。状況がまったく分からないんだからよ。

 かと思えば、フォルテはメイドに頼みごとをしてどこかへと行かせていた。小声で話されていたせいか、俺たちにはまったく話が見えてこねえぜ。


「あの、私たちは、その……」


「心配は要りませんわよ。あなたはとにかく、わたくしと部屋に一緒にいればいいだけなのですからね」


「は、はい……」


 結局、フォルテに強引に進められたまま、俺たちはフォルテの部屋に入ることになった。


 部屋の中はさすがお嬢様っていう感じで、すごくきれいだしにぎやかな部屋になっていた。


『なんつーか、この世界にも人形ってのはあるんだな。造形がかなりリアルだが』


「リアル? リアルとはどういうことですの?」


 おっと、俺のひとりごとに反応しやがった。そうだった。このフォルテってお嬢様は、俺の声が聞こえるんだったぜ。


『リアルってのは、現実の見た目そのままの形ってことだよ。俺がよく見ているのは、デフォルメッというかアニメ顔っていうか、目鼻を際立たせた造形のものばっかだから、こういうのは逆に新鮮だぜ』


「そうなのですか。よく分かりませんわね」


『まっ、それが世界の違いってヤツだろうよ』


 俺のいた世界とメロディたちの世界じゃ、いろいろと違い過ぎるからな。

 部屋の中に入った俺たちは、ひとまずフォルテの案内で椅子に座ることになる。

 っと、俺はどうすればいいんだよ。


「あら、リード様でしたっけか。そのお体では椅子には座れませんね。どういたしましょうか」


『そうだよなぁ……。くっそう、ギタースタンドが欲しくなってくるぜ』


 俺がそう呟いた時だった。


【ギタースタンドを 生成します】


『は?』


 俺の頭の中に変な音声が響き渡ると、ポンッという音とともに、間違いなく俺がよく知っているギタースタンドが飛び出していた。


「な、なんなのですの?」


「リードさん、これっていったい何ですか?」


『ギタースタンドだな……。てか、なんだ今のは……』


 あまりにも不可解な現象に、俺は理解が追いつかなかった。

 だが、俺を置いておくためのスタンドが用意されたのだから、ひとまずそこに置いてもらうことにしよう。


『メロディ、俺をそのスタンドに置いてくれ』


「は、はい。こ、こうでしょうか」


『おう、合ってるぜ』


 分かりやすい形をしているということもあってか、メロディは間違えることなく、俺をスタンドに立てかけていた。

 俺たちが席に着いた時、ちょうどフォルトのメイドが戻ってくる。


「お紅茶とお菓子をお持ちしました」


「ご苦労。悪いですけれど、置いたら席を外して下さりませんこと?」


「承知致しました」


 フォルテに言われたメイドは、紅茶とお菓子を置くと部屋の外へと出ていった。

 俺絡みの話だから、人には聞かせられないってことなんだろうな。


「リード様でしたわよね」


『その通りだ』


「リード様は、なんという道具なのですかしら。見たことがありませんけれど」


「リードさんは、ギターっていう音を鳴らすための道具だそうです。私が演奏することによって、音を出せるみたいです」


「あなたには聞いていませんわ」


 俺への質問をメロディが答えたものだから、メロディをぴしゃりと叱っていた。身分さのこともあってか、メロディは下を向いて黙ってしまった。


「ですが、どのようにするのか見せていただいてもいいかしら」


「は、はい」


 叱られた後だからか、メロディは弱々しく返事をしていた。まっ、しょうがないな。

 だが、俺を手に取ったメロディは、きちんと俺を弾きこなしていた。さっき街の中で演奏していた曲だが、すっかり頭に入っているみたいだぜ。


「まあ、素晴らしいですわ。わたくしも扱えますでしょうかしら」


「リードさん、大丈夫ですか?」


『大丈夫だ、問題ない。触らせてやるよ』


「ありがとうございますわ」


 そんなわけで、メロディからフォルテへと、俺が手渡されることになる。

 ところが、そこで思ってもみなかった事態が起きる。


「あら……?」


「どうかなさいましたか、フォルテ様」


「びくともしませんわね」


「えっ?」


 どういうことだろうか。俺を持つことはできたものの、フォルテがいくら俺の弦を弾こうとしても、びくともしなかったんだ。これには俺も驚かされる。


「ダメですわね。ひとっつも動く気配がありませんわ。このギターとやらは、メロディ様にしか扱えない代物のようですわね」


「そうなんですね……。どういうことなのでしょうか」


『俺も分かるわけがねえぜ。なんでこんな体になっているのかも分からねえからな』


 俺たち三人は、頭を抱えるしかなかった。

 そんな中、フォルテがため息をつきながら、ひとつの結論を出したようだ。


「明日、ヘオネ大森林に向かいますから、そこで同じようなものを見つけた時に何か分かるかもしれませんわね」


『だといいんだがな』


 俺を弾いてみようとしたフォルテだったが、結局諦めたようだった。

 同じようにフォルテのメイドも俺に触れてみたのだが、メロディのように演奏をすることはできなかった。

 どうやら俺は、選ばれた者にしか引けない楽器というもののようだった。どっかのRPGかよ。

 その日のメロディは、ガチガチに緊張した状態で食事をしたり、フォルテの話し相手をさせられたりで、かなりボロボロになっていたようだ。


「あらあら、もう寝てしまったのですわね」


 フォルテとの話の最中で、限界のきたメロディはそのまま眠ってしまったようだ。


『そりゃ、ただの村人が、領主やその娘とずっと囲まれてたんだ。ここまで歩いてきた疲れもあっただろうしな』


「そうですのね。それはちょっと悪いことをしましたかしらね」


『だと思うなら、このまま寝かしてやりな。明日もどうせ緊張しっぱなしになるだろうから、少しでも気楽にさせてやってくれ』


「分かりましたわ」


 フォルテは自分のメイドに頼み、メロディを自分のベッドに寝かせていた。

 かと思えば、フォルテはその隣に潜り込んでいる。


『添い寝をするのか』


「ここはわたくしのベッドですわよ。私が寝るに決まっているではありませんか。ただ広いから、メロディ様もご一緒に寝かせているだけですわよ」


『へいへい、そういうことにしておきますよ。まあ、ゆっくり休みな』


「ええ、お休みなさいませ」


 フォルテはそう言うと、メロディと隣り合った状態ですーすーと静かな寝息を立てて眠ってしまったようだった。

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